かわいくなろう!
夏希は写真が嫌いだ。
正確には自身が被写体となるのが嫌だ。
自撮りなどをしている輩の思考が理解できない。どれだけ自分に自信があるというのだ。
そのうえ撮った写真を不特定多数の人が閲覧できるSNSに載せるなど、狂気の沙汰としか思えない。
写真加工アプリというものがある。
世の自分の顔に自信を持てない方が、もはや別人になるまで加工するためのもの。そして自分とは似ても似つかない別人となった写真をネットにあげ、褒め称えられ承認欲求を満たす。闇深いものだ。
というのはあくまで色々偏見を持つ夏希の意見だ。
冬里はスマホを持っている同級生と遊んでいるとき。そういったアプリを使って遊んだことがあった。
先程青葉のスマホを触ったとき、そのアプリの存在を冬里は思い出した。そして不意に夏希の写真を撮ると加工しだした。
「できた! 見て可愛くできたよ!」
「え、目でか。なんか全体的にパーツ不自然じゃない?」
「えー。そんなことないよー」
冬里が向けてきたスマホを夏希がのぞき込む。
もちろんその画面に映し出されているのは夏希の顔である。まだ自分の顔としっかりと認識できていないためか、まるで他人を見ているかのようだ。
だからだろうか自分の写真を見ている忌避感があまり感じられることはない。
「ほら、なっちゃん。カメラ見て!」
インカメラを構えた冬里が夏希に身体を寄せてくる。拒否する間もなく画面に二人が収まるとすぐにシャッターが押される。
画面を何度かタップ操作したあと。また加工を施した写真を冬里は見せてくる。
「みてみて! 私となっちゃんの顔が入れ替わっちゃた!」
「ちょ。ふふ。なんで変顔してるの」
無表情の夏希とは違い、写真を撮った時に冬里は変顔していた。
だから変顔した冬里の表情が夏希の顔に入れ替わっている。
「ほかにもこんなんとかも出来るよ!」
変顔機能やメイク機能などを操作して見せてくる。
さらに髪型を加工したり、長い髪にしたり短髪にしたり長さを調整できたりもした。髪を切る前とかに参考にできそうだ。
ただそれには自撮りという高難易度のワザが必要なので夏希にはできそうになかった。
また性別を変更する機能もあった。
いまの夏希は女の子なので、当然ながら変化すると男になる。数週間ぶりに男性に戻った画面の中の夏希は、以前とは似ても似つかない弱弱しい男の子になっていた。
少々思うところもあるが、これはこれで意外と面白い。思っていた以上に高性能であった。
それが実際にアプリを体験した夏希の感想だ。
ただ機能をろくに理解せずに加工重ねていくと化け物になっていく。それはそれで面白くはあった。
欲をかかずほどよくが大事のようだ。
「それじゃあ勝負だ! 負けたらデコピンね!」
「いいけど。これ勝ったらいいことあるの?」
「お姉ちゃんがぎゅーってしてあげる!」
「罰ゲームじゃん」
「なにおう!」
そして勝負するため夏希のスマホには冬里が使っていた加工アプリがインストールされた。
勝負の内容は相手をどれだけ可愛くできるか。
ルールは簡単。お互いに相手の写真を撮り合い、その画像を加工していく。
アプリを初めて触るまず夏希はどんなことが出来るのかを確認していく。冬里が見せてくれた機能以外にもたくさんあった。美肌効果に体型を変えるなんてこともできるらしい。
目や眉、口など各パーツを細かくいじれる機能もある。
しかし初心者の夏希では難しいので、プリセットからいい感じに変わるものを探していくことに。
「うふっ」
こういったもので瘦せて見えるようにする機能があることは分かる。だが面白いことに太らせることもできた。
出来心から夏希は太らせるをタップすると、変化した画面の中の冬里を見て思わず笑ってしまう。
当人に目を向けるが、幸い気付かれていないようだった。
太り具合を調節することもでき。もし冬里が食べ過ぎてこれくらいぽっちゃりになったときは注意してあげようと決めた。
それも冬里に気付かれる前にやめることにした。もし見られたら絶対拗られる。
にやけていた顔を夏希は引き締めて、真面目に加工していくことにした。
「よーし、できた! なっちゃんはどうかな?」
勝負の開始から十数分の時間がたった。どうやら冬里は完成したようだ。
色々な加工をしすぎて、夏希は終着点が分からなくなっていた。どうせ負けたところでデコピンなので、いまの写真で勝負を挑むことにする。
「うん。もういいよ」
「それじゃあ。いっせーの、で見るからね!」
「はいはい」
「いっせーの!」
二人はスマホをテーブルに伏せたまま交換する。
そして冬里の合図でスマホをひっくり返す。お互いの顔を加工しあった写真を確認する。
「あははは! なにこれ原型残ってないし! 唇でっか!」
「なはは! なっちゃんこそコレなに!? 白塗りのひょっとこじゃんか!」
この勝負は可愛くさせれるかと始めたはずだった。
それなのに夏希はデフォルメまんまるな目になり。顎から頬にかけて膨らみ大きな真っ赤な唇となっていた。頭の上に止まったリボンがお茶目感を演出している。
冬里は歌舞伎のように白塗りにされ、つり目になった目の周りに赤いメイクが施されている。口元はひょっとこのようにされ、髪型はちょんまげだ。
終わってみれば二人して互いを変顔に加工していた。
最初は二人とも真面目に取り組んでいた。追加で加工をすればするほど可笑しくなっていき、いっそこのままと変顔にしてしまえとシフトしていった結果だ。
お互いが作った変顔写真をみてひとしきり笑い合う。
「それにしても、ひっどいなー! こんなにも私を弄ぶなんて。責任取ってもらわないと!」
「それはそっちもでしょ」
「おお? それじゃあ責任取ってやろうじゃないか!」
「ちょ。やめて。それ罰ゲームって言ったじゃん」
「ああ! また罰ゲーム言ったな!」




