鏡に映るのは
目覚めた。
目を開けてはじめに見えたのは知らない天井だった。
そっと目を閉じた。ゆっくりと身に起きた出来事を思い出す。
昨日。なのだろうか。先ほど目を開けてみた部屋の中は蛍光灯の光ではなく、自然光が差し込んでいた気がしたので少なくとも一晩は寝ていたのだと予想できた。起き上がって周囲の状況を確認するのは簡単だ。けれどこの状況に陥った出来事を思い出すと怖くて動けなかった。
息をひそめて狸寝入りを続ける。部屋の中には人の気配はしない。
昨日、不用意にもSNSのアカウントへ届いたスパムに返信してしまった。返信しただけならばまだ救いようがあった。あろうことかスパムの送信者と接触してしまったのだ。
夜の公園で白衣を着た香月青葉を名乗る女性と出会い。そして。そして人生をやり直せると銘打った脱法ドラッグを治験という体で投与された。
覚醒してから意識ははっきりとしていた。また薬欲しいとは思わない。普段と変わりがないはずだ。依存性がない薬なのか、それとも繰り返し使用する事で依存性を高めるタイプかもしれない。
起きたことが知れたらまたあの薬を投与されるのだろう。何度も何度も廃人になるまでの過程を記録したり、成分を変えた薬を投与し効果を変化を試しかめるはずだ。
逃げなければ。
寝返りを打つふりをして体勢を変えた。うっすらと瞼を上げ、現在寝かされている室内を確認する。部屋の中にいるのは予想通り自分ひとりだけのようだ。
室内を見渡して監禁場所は民家のように思えた。いま寝ているベッドと机と椅子があるだけの殺風景な室内だった。窓はひとつあり陽が差し込んでいた。
ゆっくりと部屋を見回し、外に通じるであろう扉を確認する。
一度目を閉じて気合いを入れると、ガバッと掛け布団を跳ね除け起き上がる。
起き上がると少し身体に違和感を感じた。違和感というと悪いように聞こえるが、いい方の違和感だ。いつもより体が軽い気がするのだ。
寝かされていたベッドは薬で巻き上げた金で買われた、お高くて良いマットレスだったのかもしれない。寝起きは腰がバキバキになるので是非ともメーカーを知りたかったが、いまはそんな時間はない。命の方が優先だ。
走って逃げよう。ベッドから降り立つと同時に走りだす。長年連れ添った身体に、そう指令が出されその通り身体が動いた。怪しい薬を投与された後であったがしっかりと身体はいうことは効いた。むしろ何故か絶好調と言えるくらいコンディションが良い。
起き上がった勢いそのままベッドから飛び出した。
まず片足が床に着地する。はずだった。
いつもならこのくらいで足が付くだろうと無意識に思い込んでいた。生まれてからずっとこの身体を使用してきたのだ、ベッドが変わったからと言ってもその高さは誤差の範囲だったはずだ。
踏み込んだ足が空振りした。
階段を下っていて、下りきったと思い込んで踏み込んだらもう一段あって急に襲う浮遊感。まさにそれが起きた。またそれだけだであったなら何とかなったかもしれない。
しかし着地した足はなにか布状のものを踏みつけてしまい床を滑ってしまった。
身体は倒れる。反射で手を前に出して身を守ろうとするがそれも間に合わず。無情にも頭から床に吸い込まれるかのようにぶつけた。
室内にゴツンと鈍い音が鳴る。
「ぃ、ったあ」
頭部を強打し視界はチカチカと点滅したかのように瞬いた。両手で頭を押さえうずくまり痛みを耐える。
まだズキズキと頭部が痛むが、なんとか起き上がろうとする。シャツの袖口のボタンが外れたのか、手が袖の中に入ってしまったようでこれまた滑ってうまく起き上がれない。
チカチカした視界が少しずつ戻ってきたのだが、今度は涙で霞んでよく見えない。袖で涙を拭う。拭いた袖を見ると血は付着していなかったので打ちつけた頭部から出血はしていないようだ。その袖口のボタンはしっかり止まっていた。
少しずつ引きつつある痛みだが、再び頭を抱えてうずくまる。
また転んだはずみでスラックスが脱げてしまったのか視界の端に落ちているのが見えた。
また諦めてしまいそうになる。
いつもそうだ。昨夜公園で諦めたはずなのに、いまこうして必死に逃げようとしている。
大きな音を立ててしまった。もう自分が起きたことは気付かれたことだろう。早く逃げなければと分かってはいるもののまだ身体が動かない。
足音がこの部屋に近づいて来ていることに気が付き、はっと顔を上げた。
顔を上げ目線の先には姿見が置かれていた。その鏡に映った姿に絶句した。
映り込んだ人物と目が合った。まだ幼さを残した顔立ちに、ぱっちりとした二重瞼の目。肩先に届くさらさらの黒髪。その桜色をしたぷっくりとした唇が動いた。
「はえ?」
鈴を転がすような声が部屋に響く。
この女の子は一体誰なんだろうか。疑問に思い首をかしげると目の前の女の子も同時に首をかしげた。涙で霞む視界せいかとシャツの袖で拭ってみせると、また女の子もだぼだぼのシャツの袖で目を拭う動作をする。
「こ、こんにちは」
どうしたものかと挨拶をしてみると、発声されたのは愛想笑いを浮かべた女の子の声だけ。
流石にここまでくると理解してしまった。目の前の姿見に映る臀部を突き上げて頭を抱える女の子は自分であると。小説も多少嗜んでいるのでわかる。自分とは違う人物に憑依なり転生なりする物語があることも知っていた。
そう、つまりこれは現実じゃなくて夢なのだ。現実でこのような事があるはずがない。これは夢だ。夢のはず。夢であってくれ。
震える手で頬をつねってみた。頬に痛みが走った。
しばしフリーズした後、目の前の現実を受け入れ大きく息を吸い込む。
また時同じくして部屋のドアノブが傾き扉が開かれた。
「なんだ? なんか大きな物音がしてたけど」
部屋の中に入ってきたのは男の子だった。見た目小学生、いや中学生くらいだろうか何やら呟きながら部屋の中に入って来たが、動転していて聞き取れない。姿見越しに男の子と目が合った。
「いやあぁあああああああぁ!」
遅れてやってきたパニックが爆発し絶叫が部屋を揺らす。
頭の中はパニック一色のはずなのに不思議と冷静な部分もあり男の子を観察できた。
鏡越しに目が合って固まった男の子は突然の絶叫にびくりと肩を震わせた。
「お、おお? いや。ええ?」
眼を白黒させ動揺を隠せない様子の男の子。反対に自分は叫んだこともあり冷静になれた。
「ご、ごめんっ」
男の子は我に返り扉を力いっぱい閉めて出ていった。扉の向こう側の廊下をバタバタ走って、おかあさんと呼ぶ声が聞こえた。
ひとは自分よりパニックを起こした人を見ると返って冷静になる。
男の子のお陰で幾分か冷静さを取り戻し、ゆっくりと立ち上がり現状を確認する。いつの間にか頭を打った痛みも納まっていた。
改めて姿見で姿を確認する。縮んでいた。いや若返ったと表現するべきなのだろうか。
低くなった目線の先の鏡に映る女の子と見間違う外見を凝視する。よく見ると着ているワイシャツは昨日仕事で着ていたものだ。いまは膝が裾に見え隠れするくらいに大きくなっていた。壁にはスーツのジャケットがかけられており、床にはスラックスが脱ぎ捨てられている。
なぜこんな事になっているか。昨夜の投与された薬のせいだろうか。それしか思い当たる節がないのだからそういう事なのだろう。
香月青葉が言っていた『人生をやり直してみませんか?』という話は本当だったのか。
本当に人生をやり直せる?
身体が震えた。それは喜びからか恐怖からか。だがそんなことはあり得るはずがないとかぶりを振る。
しかし目の前の現状はどうだろうか。鏡に映る子供に向かい合う。そっと顔を手でなぞる。そう自分で動かした。実は目の前の鏡は鏡ではなく、実は女の子が立っていて自分の動作をまねしているドッキリかもしれない。
鏡に手を伸ばす。ひんやりとしたガラスの感触が触れた指に返ってきた。やはり鏡に映る姿は自分なのだと理解した。
しかし子供のころの自分はこんな可愛らしい姿であっただろうか。
いや違う。これは子供のころの自分ではない。この頃の自分はもっと生意気そうな顔をしていたし、ましてやこんな綺麗な顔ではなかった。
一瞬先ほど頭をよぎった憑依や転生かと思ったが、すぐにそんな非科学的なことと否定した。
ひとりで考えていても答えには辿り着ける気がしなかった。
考えても仕方ないと床に散らかったスラックスをしゃがみ込み拾い上げる。すると中から下着が落ちてきた。いま自分はきわどい恰好をしていたようだ。シャツ一枚。大人の姿でやれば通報ものだろう。
よくテスト前日になると掃除をして逃避してしまう。脳が理解したくないと、目の前で起こっていることを先延ばしにしようとしていた。
スラックスがしわにならないよう畳んでから立ち上がる。片方の肩に引っかかるように着ていたワイシャツがずり落ちてしまった。
音もなく床に落ちゆくワイシャツを目で追い下を向く。
シミひとつない真っ白な肌に桜色の突起が二つ。三十路になりやや反りだしてきた腹部はへこみ平らになり。その下の。その下は。
あれ?
とっさに手を伸ばして確認した。その手に異物感はなく、あるのはなだらかな曲線だった。
どこに行った。縮んだのか。触っても分からないくらいに縮んでしまったのか。鏡で股間部分を確認した。
なくなっていた。
なるほど。やはり夢だったのだ。もう片方の頬をつねるがしっかりと痛みを感じた。
現実を受け入れると急に恥ずかしくなった。鏡に赤面した少女と映り目が合うと、慌てて局部を手で隠した。
「やあやあ。目を覚ましたようだね」
再び部屋の扉が開かれ、そこから入ってきたのは全ての元凶。香月青葉であった。
青葉は相変わらず白衣を来ており、笑顔を浮かべ気やすく話しかけてきた。その青葉を捉えると恐怖が五割、いまの姿を思い出し羞恥心五割。
「きゃあああああ!」
ずれ落ちたワイシャツを着なおすよりもベッドに避難することを選び、ベッドに飛び込むと布団で体を隠した。
布団から頭だけを出して青葉を睨み付ける。
その行動を静かに見守っていた青葉は小刻みに震え睨み付けてくるその様を、子猫が精一杯威嚇しているようで可愛らしく感じた。
「そんな警戒しなくても取って食ったりしないよ。とりあえず出てきて話をしようじゃないか」
ワイシャツを拾い上げベッドに置くと、椅子引き腰かけた。
警戒を解かず包まった布団の隙間から手を伸ばしてワイシャツを回収すると着替える。こんな薄いワイシャツ一枚だがあるとないとでは安心感が違う。
青葉はその間、もぞもぞと動く布団の塊を何も言わず見つめ相手が行動を起こすのを静かに待つ。
少々手違いがあったものの薬の効果はしっかりと確かめられた。青葉たちが作った薬の効能に満足しつつ観察する。人類初の実験を成功させたのだ。いままでもこれから先もマニュアルなんてものは存在しない。
これからを少女となった青年とゆっくりと話し合わなければならない。
「さて、少しは落ち着いたかな?」
「……。香月青葉」
「そうだよ。私は香月青葉だ。そして今日からキミのお母さんになる」
「は?」
は?
「こんな突拍子もない計画に参加してくれて本当にありがとう。時間をじっくりかけて事前に交わした契約通り、今日から私たちは家族となる。私が責任を持ってキミの傍で人生をやり直すサポートすることを誓おう」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。あんた何を言っているんだ」
今日から家族になるだって。なんの冗談だ。青葉から話された内容が何一つとして理解ができなかった。
いきなりなにを言っている。計画とは何のことだ。事前に交わした契約?
青葉とは昨夜公園ではじめて出会って、数分間会話した後に急に注射器をぶっ刺され、気づいたらここで寝ていたのだ。そんなものを交わした覚えも交わす時間もなかった。
「このプロジェクトの成功の暁にはこの国の未来、ひいては世界を救うことになるだろう」
青葉は語りだす。
これは急速に少子高齢化に向かうこの国の存亡をかけたプロジェクト。
出生率が低下する一方で増加していく高齢者。労働人口の減少に伴う経済成長の低迷。高齢者のQOLの低下。問題点を上げればキリがない
この歯止めのかからない少子高齢化が進むなか労働人口が減少し社会保障は増加の一途をたどる。
この事態を指をくわえて見守っているわけではない。雇用環境の整備、子育て支援の拡充などあらゆる対策が議論されている。
しかし、あらゆる手段を講じるも実を結ばない政策の数々。そもそも実行に移したとて結果が出るのは数年後。
仮に成功しても生まれた子らが働き手になるのは十数年先の未来。
行動を起こすには資金が必要だ。その資金はどこから来るのか、もちろん税金からである。税収を増やそうにも働く世代は減少。
減りゆく働き手をどうするか。
それを解決しようと立ち上がったのがこのプロジェクト。
働き手のリサイクル。老いて働けなくなった労働者を高齢者たちを若返らせることができたならば。労働人口は減らず、高齢者は増えず。果てには少子化の改善にもつながるかもしれない。
そんな倫理を無視し、生命を冒涜する実験が国の主導の下に秘密裏に行なわれていた。
その実験の記念すべき一人目の被験者が自分。
プロジェクトの第一段階。人体の若返りの成功。
続いて第二段階。
人類初の試み。副作用も分からない。不具合がいつ何時起きるかも分からない。何もかも分からない。向こう何十年をかけて被験者の経過を観察して、その過程を記録して、やっと実用化するか検討する。
「この説明も聞き飽きてしまっているだろけれど、あらためて私の口からキミと直接話しておきたかったんだ」
「あのぉ。すいません。初耳なんですが」
「おや。まだ記憶に混濁が見られるようだね。今日はゆっくり休むといい。家族と引き合わせるのは明日にしよう。といっても一人とはすでに会ってしまっているようだが。さて、私も退散する前に少しキミの検診させてもらおう。まずは採血から」
「ひっ」
興奮冷めやらぬ様子の青葉は自分の言いたいことだけ言って立ち上がると、白衣から注射器を取り出して近寄ってくる。その注射器が視界に入った瞬間反射的に体が竦んでしまった。
「おや。注射は嫌いかね。大丈夫。私は扱いには慣れているから痛くしたりしないよ。痛いのはほんの一瞬だからね」
注射器を刺されまいと力の限り抵抗するも、細く頼りなくなった腕は青葉に簡単に抑え込まれる。昨夜であればこの状況も容易に逃げ出せたであろう。いまとなっては体格が逆転してしまい掴まれた腕はびくともしない。
「いや。ちょっと待って! 本当に何も知らないんだって。いまの話はなんだよ。ここは何所だよ。あの薬は一体、お前は俺になにをしたんだ!」
何としても打たせまいと全身で抵抗し抗議の声を全力で上げる。
叫んだあと、拘束が弱まった。
その隙に青葉の手を振り払いベッドに避難する。
「え? なにを言っているんだい? 聞いていない訳がないだろう。これだけのプロジェクトだ。被験者を見つけるにも難航していると聴いていた。だがキミはあの数多ある審査を超えてここまで来てくれたのだろう」
「数多ある審査だと。SNSのスパムじみたメッセージのたった四つ質問がそれってんなら。そうだろうよ」
「SNS? 質問が四つだけ?」
「ああそうだよ。昨日、俺のSNSのアカウントに届いた馬鹿みたいなメッセージに不用意にも返信して、そんなふざけたことをしてくる馬鹿野郎の顔を拝んでやろうと昨日の公園を指定た。そして香月青葉。お前が現れて変な注射打たれてこのザマだ!」
「いやいやいや、待ってくれ。昨日だと? キミは私たちが用意した審査を乗り越えてここに居んだ。じゃなきゃ可笑しいぞ。ではなぜ合格者が出たら届くようになっているメールが何故届いた」
拘束を緩めたかと思うと青葉は頭を抱えてフラフラと後ずさりしていく。
なにやらブツブツ早口でつぶやいているようであったがほとんどが聞き取れない。
持っていた注射器は床に落ち、空いたその手でスマートフォンを取り出して操作をしだす。いくつかの操作をした後、スマホを耳まで持っていく。通話をするようだ。
「もしもし東間くんかい?」
『お? もしもし先輩っすか。お久しぶりですね。何か月ぶり、いや一年ぶりですか?』
静かな部屋の中で青葉がかけた電話からは通話内容がよく聞こえてきた。
通話相手はまだ年若い男性の声だった。
「ああ。そんなに経つのか。それよりも聞きたいんだが。昨日、私に例のプロジェクトの被験者の決定通知が届いたんだ」
『例のプロジェクト? ああ。あれですか。どうして今更そんなもんが届いたんすかね』
「今更も何も我々が待ち望んだ薬の投与後にも耐えられる人材だぞ」
『え。てかあれってまだ稼働してたんですか? だってプロジェクトは一年前に凍結されているのに』
「……? 東間くん。いまなんて?」
『いやだから。あのプロジェクトって凍結されたじゃないですか。なのに今更通知なんか届くんかなっと』
「凍結? なぜ! いつそんなことになったんだい!?」
『なぜって俺に聞かれても知らねえっすよ。一年前に所長からプロジェクト凍結って通達されたでしょう』
「な、なんだその話は」
青葉は持ったスマホを落としてしまった。
電話の相手は同僚だろうか。彼の話が本当であれば先ほどまで青葉が熱心に話していたプロジェクトの話は一年も前に凍結されたそうだった。
床のスマホからは『先輩? もしもーし』としきりに聞こえてくるが、それに青葉は応答することはなかった。
「それじゃあキミは」
「あんたの言う被験者なんて者ではない」
まだプロジェクトの凍結を受け入れられていないのか、呆然と立ち尽くしてしまった。
スマホから通話の終了を告げる電子音が沈黙の中でやけに大きく聞こえた。
大きく深呼吸をして呼吸を整えた青葉は、自分と向き合い。
「さて、でわ。これから一緒に暮らすにあたってなんだけど」
「いや誤魔化されないぞ! いまの会話こっちにもまる聞こえだったからな!」
「ミスって誰にでもあるよね。だって人間だもん」
青葉はペロッと舌を出して誤魔化すように笑って見せる。
決してミスで収まるような事態じゃない。
「そうだそうだ。色々手違いがほんのちょっとあって性別とか変わっちゃたけど大丈夫だよね。これから暮らしてくうえで、早めに手続きとか改ざんしないとだし。名前もないと大変だろうから、私が考えておいたよ。一晩中寝ずに悩んで考えたから気に入ってくれると嬉しいな」
こちらから話す隙を与えないほどに矢継ぎ早に話だした。
そう言って青葉は白衣のポケットから書類やらカードやらを取り出して机に並べ出した。
そこに置かれた戸籍謄本や保険証には。
【香月夏希】
そう書かれていた。