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うお座の皆さんごめんなさい

夏希が携帯電話を持つことになったきっかけは自分から欲したからではなかった。

中学生だった頃のとある休日に親が携帯電話の機種変更に行った際、ついでにと夏希の携帯電話を契約して帰ってきたからだ。外出から帰ってきた親から携帯電話を渡されて戸惑ったのを今も覚えている。

そのときは夏希の友達でまだ携帯電話を持っている人はいなかったので、対して興味はなく使うことなく数か月の間は放置していたくらいだ。


姉は友人たちがもう携帯電話を持っているのでよく両親に買うようにせがんでいた。

どういった経緯で姉が携帯電話を買って貰ったかは覚えていないが、買って貰うまではそれなりの期間があったはずだ。それまでは親の携帯電話で友人とメールなどやり取りしていた。



夏希も友達が持つ様になってようやく使い始めた。夏希よりも後に持ち始めたのに夏希よりも友達の方が携帯電話の使い方をよく知っていた。

突然携帯電話を頻繁に使い始めたことだからパケ放題に入っておらずインターネットを使い過ぎて通信料がとんでもないことになったこともある。

それにあの頃は今とは違い無料通話アプリなどなく携帯電話で話すには通話代を気にする必要もあった。


今でこそネット環境さえあればアプリで通話もメールもゲームだって無料で出来てしまう。定額払えば音楽も聴き放題。映画にドラマ、アニメなど動画も見放題。

暇ぶしにどころかスマホが一台あれば暇な時間など出来ない。

夏希の学生時代でもなんだかんだ携帯電話でそれらは出来たには出来たが大体が非合法なものだった。

あれから十数年で 劇的に進化した携帯電話は今では何でもできてしまうツールだ。いまの時代に夏希が生まれていたのならスマホに興味を持って、冬里のように親に買ってとねだっていたのかもしれない。


「不幸だ。やっぱり今日の私は不幸なんだ」

「ごめんて」


青葉に髪を結んでもらい上機嫌で戻ってきた冬里が目にしたのは、冷たくなった焦げる一歩手前のトーストと空になったいちごジャムの瓶だった。

トーストを食べるとき夏希はこれでもかとベタベタに塗りたくるので、冬里も使うことを忘れていた夏希は残り少なかったいちごジャムを使い切ってしまった。

怒ってはいないようだが星座占いの影響もあり落ち込んでしまった。


「えっと、ほら。占いなんてありきたりなことを言っているだけだからさ、気にしたら負けだよ」

「今日学校休む」

「ダメ!」

「おおぅ?」


本気ではなく冗談で言ったのだが夏希が大声で食い気味に返してきたため冬里は目を丸くした。

だって冬里が学校に来なければ夏希はひとりになってしまうのだ。冬里経由で仲良くしてくれる栞もいるが、まだ二人きりになるには早い。短時間であれば話を繋げれるかもしれないが一日中となれば別だ。


人見知りの夏希と二人でいれば気まずい空気になるのが目に見えている。気を使って出してくれた話題にはズレた返答をしてしまい会話はストップ。それを何度か繰り返しやがて無言の時間が訪れるのが怖い。

それかもしかしたら冬里が休みだと知ったら栞は別のグループに行ってしまうかもしれない。想像しただけで夏希は不登校になってしまいそうだ。


そう思えばこの短い間にどれだけ冬里の存在が夏希に救いだったか思い知らされた。

たまに少しだけ、わずかに、ほんのちょっとだけ冬里の対応が面倒だと思うことあれどいまの夏希には欠かせない存在だ。


「星座占いなんて提供している場所によって結果が違うから、自分にとって一番都合のいい結果を信じればいいんだよ。だからうお座が一位の星座占いを探そう!」


冬里を追い駆けて降りてきた際に持ってきてしまっいパジャマのポケットに入れていたスマホを取り出すと星座占いと検索した。


「たしかに! おみくじだって何度も引き直してもいいってお正月の番組で言ってた!」

「そうだよ冬里! 都合の悪いものからは目を逸らせばいいんだよ!」

「う、うん?」

「ほら! このサイトを見てみよう。よく当たるんだって」

「ほほう! どれどれ私のうお座の順位はーっと」


スマホの画面を一位から順にスクロールしていきうお座を探す。十一位までスクロールしていったところでブラウザバック。新たな星座占いのサイトを探す。


「不思議だね、なっちゃん。いまのサイトうお座がランキングになかったよ」

「たまにあるよね。そういうこと」

「じゃあ次のサイトのとこ行ってみよう!」


本日の運勢十二位うお座。都合の悪いことから目を逸らしていると後から痛い目に。

十二位うお座。タンスの角に気を付けて。

十二位うお座。頭上の鳥に注意。ナニか落ちてくるかも?

十二位うお座。いまからでも入れる保険を探そう。

十二位うお座。望むものは手に入らず、大事なものが手からこぼれ落ちる一日になるでしょう。


夏希たちが閲覧した占いサイトは悉くうお座が最下位。

もしかしたら今日全国のうお座の皆さんは一歩も家から出ない方がいいのかもしれないと夏希も思えてきた。いや、家の中でもタンスに気を付けないといけないあたり家の中も安全ではないのかもしれない。

となりを伺うと冬里は手で目を覆いもうスマホの画面すら見ていないかった。


「そもそも順位づけするのが間違っているんだよ! 運勢だけ書いてあるところを探せばまともな結果があるよ! 冬里まだ希望はあるから!」

「そうなのかな…」


散々な結果にもはや涙目の冬里を励まし、それならばと順位付けされていない星座占いを探す。


「そうだよ! あった」


おそるおそる二人はスマホの画面を覗き込む。

うお座。朝食にトーストを焼いて食べるときは目を離さないで。ラッキーアイテムはいちごジャム。トーストに付けて食べると運気アップ。でも家族に全部食べられてしまうかもだから朝食は急いでね。


「当たってる」

「いちごジャムの入っていた瓶でも効果あるのかな。あははは…」

「諦めないで! まだ、まだあるから!」


ラッキーアイテムのいちごジャムはもはや手に入らず。冬里は空の瓶を大事そうに抱きかかえる。

占いが今朝の冬里をドンピシャで言い当てている。案外占いを舐めていたのかもしれないと夏希の背筋に冷たいものが走る。いやでもそんなはずはない。ちょっとピンポイントすぎる気もするが、これはバーナム効果なのだ。

まだ見てないだけでどこかにまともな結果が書かれたうお座の占いがあるはずだ。


うお座。すべてが取り越し苦労に終わるでしょう。九月はもう諦めましょう。


「なんでだよ!」


もはや見ていられない結果の数々に夏希はスマホをテーブルに叩きつけた。

いま見たサイトは月間占いなのに、今月まるまる諦めましょうなんて結果を載せる占いサイトがいままであっただろうか。

閲覧したサイトではすべてうお座が最下位。ランキングを付けていない占いでも散々な内容。

これらを占った人はうお座の方々になにか恨みでもあるのだろうか。


「大丈夫だよ! 所詮はたかが占い。何が起ころうとわたしが冬里を守るから!」

「ほんと? 学校まで手繋いで行ってくれる?」

「つなぐつなぐ!」

「スマホ貸してくれる?」

「貸す貸す! わたしの目の届く範囲なら使ってもいいから」

「やった!」


現金なものでスマホを貸すと言ったとたんに冬里は急に元気になった。


「私が早くスマホ買って貰えるようにいろいろ教えてね!」

「うん。わたしが教えれることなら」


とは言ったもののスマホについてって一体何を教えればいいのか。やはり青葉が出した問題の様にやはり犯罪に巻きこまれないようにすることだろうか。

夏希はそんな知識もなく買い与えられて、なんとなく使ってくうちに常識と照らし合わせながら考えて学んでいった。きっと大抵の人がそうだろう。

手取り足取りおしえたところで人間ダメなときはダメなのだ。

全部を教えることは不可能だし、使う相手が子供であれば好奇心に負けてしまうことも多々ある事だろう。


それに大人でさえも自分は騙されないと高を括っていても騙されてしまうし好奇心に負けるのだ。

その手口に引っかかった結果ここに居る夏希が言うのだから間違いない。

とりあえずはじめに冬里に教えることが決まった。スパムメッセージには絶対に返事しない。面識のない人とは絶対に会おうとは思はない事だ。


「そうだ! なっちゃんの星座ってなに?」


復活した冬里はテーブルに置かれた夏希のスマホを手に取ると表示されたままの星座占いのサイトを閲覧する。


「わたしの星座? えっと、なんだろう?」

「えー! わかんないの!?」

「あー、うん。気にしたことないや」

「わかんないなら仕方がない。じゃあ調べよう! どうやるの?」

「そこのマークをタップしてタブを追加して、この検索サイトを開いて」


自分の星座を知らないという夏希のために星座を調べようと冬里が言いだすも調べ方は解らないようで、ブラウザの操作を教わりながらたどたどしい手つきでスマホの画面を指でタップしていく。

つい先日誕生日が変更するという人類史をみても稀な出来事が起きたばかりの夏希は言われるまで現在の誕生日の星座がなんなのかなど考えもしていなかった。

十二星座は解るけれど、それぞれが何月何日から何月何日までなんて覚えていない。ちょうどいい機会なのでこのまま冬里に調べてもらうことにした。


「なんて調べたらいい?」

「誕生日、星座。でいいんじゃない?」

「なるほどなるほど。お、あった! えーと、なっちゃんの誕生日は先週だから。おとめ座だね!」

「おとめ座かぁ」


冬里に調べてもらい夏希はおとめ座と判明した。

性別はまさしく乙女に変わったというのに、なぜだろうか夏希は釈然としない。まるで星座にまで揶揄されているような気持になった。


「おとめ座の運勢は。九月は新しい出会いに怯えないで、その人たちはきっとあなたを受け入れてくれるでしょう。もしかするとその中には運命の人がいて出会えるかもしれません。だって!」


開いたままの月間占いのページに戻りおとめ座を探し書いてある運勢を冬里が読み上げる。

うお座とは違いおとめ座は好意的というか、ちゃんと占いをしているようだ。

青葉に出会いまさしく生まれ変わり新天地にやってきた。新しい家族にまた通うことになった中学校。毎日が新鮮で夏希にとって九月は新しい出会いばかりだ。みな優しい人ばかりで夏希を受け入れてくれている。


「この占いまさしく、なっちゃんを現してるよね! だってなっちゃんは私っていう運命の人の出会ったんだから! きゃー!」

「はいはい。パンくずが付くからくっつかないで」


抱きついてこようとする冬里を阻止する。

さすが占い。バーナム効果とは言ったものだ。こうして事実に当て嵌まれば、つい占いを信じたくなってしまうのも分からなくはない。

でもこれは誰にでも当てはまるような事をつらつら書き綴っているだけだ。夏希でなくとも、それこそ身も蓋もないことを言ってしまえばおとめ座でなくとも当てはまる。

けれども道筋の見えない不安な日々に指標を与えてくれるならば人は縋りたくなるのかもしれない。

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