あわあわ〜
奇しくも予定通りに冬里が先に入ってくれたので、予定通り夏希はたっぷり時間をかけゆっくり服を脱ぐと意を決してお風呂場に突入した。
「どや!」
「ワー、スゴイネー」
ボディソープの泡をたっぷりと全身に纏った冬里が迎えてくれた。
あわあわな姿を夏希に見せたいがため、春樹であったなら風呂に入って出てくるであろう時間を使いただ延々と冬里はボディソープを泡立たせていた。出来る事ならお風呂に入っている間、その泡が洗い流れないようにしておいて欲しいと夏希は拍手を送り思った。
「さあさあ、ここに座ってなっちゃん。約束通りまずは背中を流したあげるから!」
「まずは、ね」
冬里は座っていたプラスチック製のイスから立ち上がり、そこに夏希を座るように言った。こちらとしては約束した覚えはない夏希だったが、背中と髪を洗ってくれているうちは安全だと判断し言う通り大人しくイスに座った。
はたからは動揺を見抜かれないよう装っているが、まだ突然の出来事に夏希は心の中で混乱していた。
しかし冷静に考えてみれば冬里はまだ夏希の半分も生きていない十二歳の小娘で、先程見た通りお風呂で泡遊びするくらいに子供だ。まだ甘えたくて親離れができない子供なのだ。そんな相手になぜ自分は狼狽えてしまっていたのだろうか。
彼女は年の離れた妹、もしくは娘だ。そう考えれば愛おしくさえ感じてさえきた。すると大きく打っていた鼓動も鳴りやみ平静となってきた。
この小さな身体になってから夏希は性欲が全く湧かない。試しに成人指定のサイトを閲覧してみたがこれぽっちも肉体はおろか精神的にも興奮する事はなかった。
よく考えてみればあの時に夏希が見たのは女性だった。そして今の自分も女性。ということは男性を見ていたらまた違う反応があったのだろうか。
そこで思考を止めた。なんておぞましい想像をしてしまったのだろうか夏希は自分が信じられなかった。
結論は肉体年齢的な問題だ。異議は認めない。
それにこれから夏希が女性として生きていく中で同性の裸を見る機会は訪れるだろう。
もうすでに学校の更衣室では年若い多数の女子生徒とともに半裸になり着替えをしている。もちろん目を背けて視界に入れないようにして端の方に縮こまって着替えている。
今日のカヌー部の更衣室ではシャワーを浴びない選択肢が採れ回避できたが、毎回それができるとは限らないのだ。今のうちに慣れておく方がいいに決まっている。
冬里には申し訳ないがせいぜいわたしの女子力?の糧となるがいいさ!
「ひょわぁっ! な、なにしてるの冬里!?」
「泡のおすそ分けだよー。あわあわー」
「あわわわ」
夏希の背中に冬里が身体を擦りつけるように往復させる。
微かに。でも確かにある二つの柔らかなふくらみを夏希の背中が敏感に感じとる。
そういうお店のプレイなのかとも思ったが、夏希も知識としてしか知らないのに冬里が知る由もない。
当の冬里はたまたま泡立てなくてもボディソープの泡がいっぱい身体に付いていたからそれを使った。ただそれだけ。そこにやましい気持ちなどあるはずもない。言うならこれはただの子供同士のじゃれあいだ。
でも確かに言えることは普段の行動や言動からまだまだ幼いと思い夏希が小娘と侮っていた少女はたしかに大人へと成長していた。
「お客さぁん。むず痒いところはないですかー?」
「あ、はい。大丈夫っす」
充分な泡が冬里から夏希に移ると身体を離しボディタオルで優しく背を擦っていく。
お客さんと呼んだあたり、コイツやはり知っているのではと夏希は思ったが、カチコチと固まった身体で何とか首を縦に振り短く返事するのがやっとだった。それにむず痒いどころか緊張から何も感じなかった。
当然それ以上のことが起きることもなく。徐々に身体の感覚が戻ってくると、こうして与えられる刺激が懐かしくもあった。
夏希が人に身体を洗ってもらうのは随分と久しぶりだ。自分で洗うのとは違い不思議な感覚で、記憶にある父親に背中を流してもらっていた頃は少し痛いくらいにゴシゴシと洗われていた。
冬里は反対にやさしく、なめらかなボディタオルの素材が肌の表面を擦りくすぐったいくらいだ。
「腕も洗うから横に伸ばしてー」
少し気分が良くなった夏希は冬里の指示通りにおとなしく片腕を横に伸ばす。
たまにはこういう事もあってもいいのかもしれないと夏希はリラックスした気分になる。
ただあれだけ誘われても頑なに断っていただけに自分から言うのは憚られるので、冬里から誘われる事があれば仕方がないので背中だけでも流させてやらなくはない。
「はい。うしろは終わり! 前も洗うからこっち向いて!」
「え!? や、前はいいよ。自分でするから」
「もー。はずかしがるなよー! 私は気にしない!」
ここまでくると全部やってあげたい冬里は自分の方に向かせようとするが夏希はもちろん抵抗する。
恥ずかしがっているわけではなく、向き合ってしまえば泡の装甲が剝がれた冬里が見えてしまうからだ。
先ほど背中に泡を付けられてから、考えない様にしていても夏希は完全に冬里を意識してしまっている。
「まって! わたしが気にするから! ちょ、いや。なにするの!」
「ザンネンまたなーい。この駄々っ子め! そんな子はこうだぞー! うりうりー」
「きゃっ、あははは! ちょっ冬里。くふふ。ぃやめてぇ!」
「やめてほしければ大人しく言うことを聞きなさい!」
いつまで経っても自分の方を向きたがらない夏希に冬里はうしろから脇をくすぐりだす。
ヌルリと泡で滑る素肌を直接くすぐられ夏希の身体は過剰に反応してしまう。その刺激に耐えられず身体をくねらせ逃れようとするも、くすぐる冬里の手は執拗に追いかけてくる。
「あははは! もうムリッ! わかったっ。わかったから! そっち向くからぁもうコレやめてよ。あいたっ」
「ざんねん時間切れ! もう私の気が済むまで続けます!」
「そんな! ほんと、も。うふふっ。もうダメだってばぁ。息できなぃからぁ!」
耐えられず夏希がイスから転げ落ちても冬里は手を休めることなく馬乗りになってくすぐり続ける。夏希の身体は敏感になりすぎてもはやどこを触られても反応してしまっていた。
やっと冬里は満足したのか夏希を解放した。ぐったり横たわる夏希の体感では何時間もくすぐられていた様な気分だ。
呼吸困難寸前で息絶え絶えになった夏希はもはや抵抗する気力すらなく風呂の床に寝かせられたまま冬里に身体を洗われた。またボディタオルで擦られるたびに身体がピクリと反応して、虚ろな目と相まって陸に吊り上げられ死を待つばかりの魚の様だった。
もうお嫁にいけないカラダにされてしまった。行く気はないけれど。
「痒いところはありませんかー?」
「ありません」
寝ころんだままシャワーで身体についた泡は洗い流され地獄のような時間がようやく終わった。
やっと息が整ってきた夏希の脇を冬里が抱えるとイスに座り直させシャンプーを始めていた。
「なっちゃん見て! つのだよ!」
「はい。お見事です」
夏希の返事する言葉に力は感じられなかった。冬里に話しかけられ重たい頭をあげて鏡を見る。
楽しそうに笑う冬里と、笑いすぎ疲れ果てた生気を感じさせない表情をうかべた夏希が髪をピンと逆立てた姿映っていた。
「シャワーするから目閉じといてね!」
一条に逆立てた髪を分けて二つの角を作ったあと冬里はシャワーを手に取り夏希に一声かけ返事をまたず流しはじめた。
髪を洗うというよりは夏希の髪で遊んでいるようだった。こちらは冬里のバリエーションが少なく短い時間で終わったので助かった。
「おっけー! キレイになったよ!」
「ありがと。じゃあわたし先に上がるから」
「りょーかい!」
今日の入浴はいつもよりも早い時間だったため、まだ浴槽に湯が張られていなかった。そのおかげで冬里の魔の手から流れお風呂からすぐに出てこれた。もし湯張り後であったなら夏希は今頃まだ浴槽の中で冬里の相手を一時間しなければならなかっただろう。
お風呂に浸かっていないし、お風呂場にいた時間もそう長くはなかったはずなのに夏希はのぼせたかの様にぐったりしていた。
夏希はバスタオルを手に取ると背後から聞こえてくる気分良さげな鼻歌をBGMに聞きながら身体を拭いていく。
入浴中に気付かなかったが青葉が持って来てくれていたようで
、脱衣所には夏希の着替えが用意されていた。手早く水気を拭き終えると下着を身に付けていく。
布地が少なく心持たないがそれでもパンツを履いただけでも安心する。まさか女児用の下着を身に着けて安心できる日が来ると夏希は思ってもみなかった。それでもやはり服は人としての尊厳を守る道具なのだと実感した。
タンクトップタイプのインナーは着たものの、いろんな意味で火照った体はタオルで拭いてもうっすら汗が浮かんでくる。
パジャマの上着はクールダウンしてから着ようと片手に持ち夏希は脱衣所からでた。
いつもならこのまま自身の部屋に戻るのだが、帰ってきてすぐに風呂に放り込まれたものだからエアコンの電源が入っていない。
部屋に帰っていまからエアコンをつけても涼しくなる頃にはまた風呂に行かないといけないくらいに汗をかいてしまいそうだ。
汗が引くまでの間はいまこの家の中でエアコンが唯一効いているであろうリビングに夏希は避難することに決めた。
「ああー。涼しいー」
「もう上がったんだ。なにか飲むかい?」
「お茶おねがーい」
リビングでは青葉はソファでニュース番組を見ていたが、夏希から注文を受けたお茶を用意するため立ち上がり台所へと移動する。
言葉に甘え夏希は椅子に座りテーブルに突っ伏した。木のテーブルはひんやりと冷たく心地よかった。
そのまましばらく涼んでいると青葉がお茶の入ったコップを持って戻ってきた。
「冬里の相手ありがとう。ずいぶんお疲れみたいだね」
「うん。疲れたぁ」
「その割には楽しそうな声がここまで聞こえてきてたけど」
「助けを求める悲鳴の間違いでしょ」
夏希はコップを受け取ると半分ほど飲み干すとテーブルに置き、再び椅子の背もたれに寄りかかる。
「あ、夏希ちゃん。また髪乾かしてないでしょ」
「ほっとけば乾くよ。それにもうそんな気力がありません」
「だーめ。ちゃんとドライヤー使わないと、自然乾燥は髪に悪いんだぞ」
「そんなに言うなら青葉がやってよ」
ここにきてから夏希は風呂上がりには青葉から髪を乾かしたかとしきりに聞かれる。
これまで生きてきた中でいまの髪が一番長いため、乾かすのに時間がかかり面倒くさいのだ。それにまだ時期的に放っておいてもすぐ乾くことだし。
やらなくてもこうして青葉か冬里がドライヤーをかけてくれるので今のところ夏希は自分でする気はない。
「ムフフ。しょうがないなぁ。この甘えん坊め」
「あ、やっぱ自分でやるからいい」
「ダメでーす。夏希ちゃんの髪を乾かす権利はもう私のものです。座った座った」
青葉に甘えん坊と言われてしまい夏希はむっとしたが事実だけに言い返せなかった。けれど安いプライドが傷付いたので拗ねた夏希はドライヤーを取りに立ち上がろうとしたが、よく分からない権利を主張する青葉に肩を掴まれ再度座らされてしまったのだった。
本文よりもサブタイの方が悩みまむむむ…。




