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たびガール  作者: 諏訪いつき
6章 鎌倉編

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8話 紫陽花咲く切通を超えて

 長谷寺の散策も散策路に沿って終えると、二人は「次はどこに行こうか」という話になった。今から帰るにはまだちょっと早い時間。

「そういえば、ここから近い神社の……その近くに、おいしいパン屋があったよ」

「じゃあ、その神社にもついでにお参りして、そこまで行こっか」

 来た道をちょっとだけ戻って、そこから右へ。大通りから一歩それれば、様相は一軒家に挟まれたなんの変哲もない住宅街の道路になる。ここに住んでいる人は日常生活に鎌倉や江ノ島が入り込んでいるのだろうか、海のある生活はどれほどのものなんだろう、やっぱり移動手段の1つに江ノ電はあるのかな、そんな「ここにある暮らし」について、茉莉は思いを巡らせて歩いた。

 道に沿って左に曲がったのち、その道を右に曲がって離れると、小道の先に小さな鳥居が見えた。御霊神社だ。その鳥居をくぐれば、『心の穴』のことを祈ったことが懐かしい、記憶と1つも違わない境内が広がっていた。またどこかから、ウグイスのさえずりが聞こえる。

 わき道から入ったこともあって本殿にはすぐについた。またいつもの作法でお祈りをする。『心の穴』のことは変わらないけれど、今回はもう1つ祈ることがある。

「琴音ちゃんの病気が、何事もなく治りますように」

 何よりも真摯にそれを祈った。

 それが目的ではないにもかかわらず、境内入口の近くにはきれいな紫陽花が咲いていた。よく見るとこの紫陽花は江ノ電の線路沿いに沿って咲いていて、花の道のようになっていた。ふいに踏切がなって、トンネルから来た電車を、桃色と紫色の紫陽花が出迎えて、何となく美しいと思える景色が現れた。江ノ電のレトロな色が、紫陽花を引き立てる良い役割を担っていた。

 二人でその紫陽花の写真も撮ったら、踏切を渡って少し南に歩いた。見覚えのある通りから、記憶と同じパンの香りがする。

「確かに、パンのいい香りがするね」

 その匂いの出所がどこか探ろうと、涼乃があたりを見回している。

「あそこの食パン、ちっちゃくて食べ歩きできるサイズでおいしかったよ」

 右手の方向を指さした。横断歩道を渡ればもうすぐそこに店はある。二人で1つずつ食パンを買って、また元の道に戻った。

「もうここまで来ちゃったらさ、極楽寺駅まで歩かない?ここから長谷駅に戻るのも、ちょっとだけ損した気分だし」

 茉莉はパンを一口食べて「美味し」とつぶやいてから提案した。

「いいね、それにこの先にも紫陽花が咲いている場所があるみたいだよ」

「じゃあ、なおさら行こう!」

「階段はちょっと上るけど」

 一瞬茉莉の足が止まる。

「う……、い、行こう!」

 涼乃はそう言ってまた歩き出した茉莉と笑いながら歩調を合わせた。

 極楽寺駅に向かって緩やかな右カーブを描く切通の道の左、階段を登っていく。ここは地形のせいか家もなく、紫陽花目当ての人しか見当たらなくなる。ほどなくして、また紫陽花が見えた。天気は晴れ模様に木から零れているのか、はたまた本当に雨が降っているのか、時折水滴が降ってきていた。紫陽花の綺麗な青に、変わらず水滴が光っている。

 日差しを浴びてひときわ白く輝く花を付けた木を見つけて、茉莉は立ち止まってそれを眺めた。涼乃もそれに気づいて足を止める。

「かわいい花だね」

「でしょ?琴音ちゃんみたいだなって思って」

「確か病院であった子だよね」

「そう、風邪ひいてから会えてなくて……どうしよう、時間が空いちゃったのもあって会うの気まずい。日光のこと、話しにくいし……」

 悩んだような表情で茉莉は片手で頭を触った。

「その子、茉莉に会うのが楽しみなんじゃないの?日光であんまりいい体験ができなかったとか、そんなの二の次だよ、きっと」

「そうだね、会いに行かなきゃ。また今日のことも話してあげられるし」

「私も琴音ちゃんに会ってみたいな、きっといい子なんでしょう?」

「うん!琴音ちゃんが退院したら、涼乃とも遊んでもらおうかな。きっと、もうすぐ退院できるはずだから」

「楽しみにしてる。琴音ちゃんはお茶好きかな」

「きっと好きだよ、お茶淹れるとことか、目を輝かせて見てくれると思う」

 二人は会話をしながら紫陽花の咲く道を、時折紫陽花の写真を撮りながら歩いた。階段続きではあったけど、その隣には鮮やかな紫陽花が咲いていて、疲れも忘れる。登り切ったら、下る階段の向こうに極楽寺駅前の赤い橋が見えた。

「ここまで来たし、江ノ島まで行っちゃう?帰りは藤沢から帰るし」

「いいね!シーキャンドル登りたいな」

「じゃあ行こう!晴れたし、いい景色が見れるといいね」

 階段を下って、少し歩けば極楽寺駅に到着した。ここにも駅の傍らに青い紫陽花が咲いていた。日差しを受けて明るく輝いている。ちょうど鎌倉へ向かう電車が駅を発つのが見えた。藤沢行きの電車はそれから五分ほど待てば来た。

「この先、海が見えるよ」

「じゃあ、見える方に行きましょ」

 二人は南の窓が見える方に位置どった。極楽寺駅を出て、稲村ヶ崎駅に着けば、もう海はすぐ目の前に来ている。


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