6話 友達と、いつまでも笑って過ごせますように
鶴岡八幡宮の入口は、さっきまでいた休憩所からかなり近い場所にあった。前回来た時とは違う、境内の西側から入れる入り口には、赤い鳥居があって、その奥に階段が見えた。
「なんか神社ってさ、階段多くない?」
その階段をのぼりながら、茉莉は言った。頭の中では、江ノ島や秩父、日光の神社のことを思い出している。思えばずいぶん多くの階段を登ってはおりてきた。
「うーん、神様に見守ってもらうためにその場所の高い場所に建てられるからなのかも。勘だけどね」
涼乃は言葉に予防線を貼っていたけど、茉莉はその説明が腑に落ちたようだった。
境内の脇から社務所の前を通り過ぎると、数か月前と何ら変わらない鶴岡八幡宮の本宮が目の前に見えた。大石段から見下ろす鎌倉の街の見晴らしの良さも変わらない。海からつながるこの参道を歩いてここまで来たのも、すでに懐かしく思う。
あたりは特に混雑もなく、すんなりと本宮の中まで入ることができた。二人で賽銭箱に小銭を入れて、手を2回叩いたあと、少し長い時間祈った。自分だけがそうしていると思っていた茉莉は、自分とほぼ同タイミングで祈り終えて一礼した涼乃に驚いた。
「ずいぶん長く祈ってたけど、そんなにいっぱいお願い事があったの?」
石段を降りながら、その涼乃が聞いてきた。茉莉のほうこそ聞きたかったが、ここは先に答えることにした。
「えーと、もう一度茜さんに会わせてくれてありがとうございますっていうのと、友達みんなと元気に暮らせますようにと、それから……自分勝手だけど『心の穴』のことを……一月にもお願いしたけど、何とかしてくださいってお願いした。それがダメでも、あたしが『心の穴』を埋めようとするのを見守っててくださいって」
指折り数えて言った。
「そりゃ、長くなるわけだ」
「涼乃のほうこそ、何をそんなに?」
「ん?秘密」
「えー、あたしは全部言ったのに」
「私のほうこそ驚いたよ。茉莉、恥ずかしげもなく全部言っちゃうんだもん」
「だって~、涼乃のことも聞けると思ってたから」
「しょうがないなぁ、じゃあ一個だけ教えてあげる」
「なぁに?」
「茉莉を悩ませてる『心の穴』が、早く埋まりますように。それ以外は個人的なものだから、秘密」
涼乃は茉莉のほうを見ずに言った。階段を降り終えて、舞殿の脇を通り抜ける。そこらで鳩がたむろしているのが見えた。
「あたしのことまでお願いしてくれたんだ、うれしい」
「当然でしょ、友達がなんか悩んでるなら、どうにか力になってあげたいし。ほら、お菓子買いに行くよ、ここを右ね」
涼乃は照れ隠しのように話を早く切り上げて、茉莉の袖を引っ張って小町通りを目指した。
小町通りは前回来た時とはさほど変わらない人の多さをしていた。傘を差しているからか、ちょっと窮屈にも感じる。見渡してみれば、お土産やお菓子、そのほかにもカレーパンやコロッケを売っているところもある。
「茉莉、おなかはすいてる?」
「うーん、団子でいっぱいかも」
おなかをさすった。
「じゃあまだお昼はいっか、最悪、どっかチェーン店行けばいいし」
「それは……どうなの?」
「意外とそれはそれで面白いかもよ。ほら、味の最低保証はあるし」
「そうかな……そうかも……」
そんな会話をしていたら、目当ての店に着いたらしく、涼乃は足を止めた。
「あった、ここの半月がおいしいの」
月を食べるの?と聞こうとした茉莉は、商品のパッケージを見て納得した。お菓子の形が半月状になっているのだ。「鎌倉半月」と書いてある。涼乃は10枚入りを取って、レジに向かった。
「10枚だと一人一枚で……2枚余らない?」
「帰りに私たちだけ抜け駆けで2枚食べようよ、買ってきた人の特権。小倉風味と抹茶風味の2種類が5枚ずつあるから……抹茶風味はもらうね」
なんだか楽しそうな涼乃を見て、茉莉もなんだか楽しくなってきた。
「あたし、鳩サブレも買って帰りたいかも、お店寄っていい?」
「それなら、江ノ電の鎌倉駅にも売ってるところがあったはず。この時間に帰るのはちょっともったいないから、ついでに江ノ電で長谷寺も見に行かない?あそこの紫陽花もきれいなんだよ」
「うん、行こう!」
二人で鎌倉駅のほうへと向かった。たった一駅の間に、素敵な場所と経験があったことに思いを巡らせながら。
改札を二つ通れば、その右手に言われた通り鳩サブレーの売店があった。
「お、ちょうど四枚入り売ってる。みんなで1つずつだね」
「茉莉!電車来てる!」
「やばっ、今行くよ」
電車まで急いだ。しかし、電車は到着してすぐ出発するわけではなかったようで、二人は電車の中、椅子に座って「そんなに急ぐ必要なかったね」と笑い合って、しばしの間過ごした。




