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たびガール  作者: 諏訪いつき
6章 鎌倉編

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5話 雨音に団子

 鶴岡八幡宮のその近くにある御谷休憩所にたどり着いた二人は、傘を閉じてそれについた雫を振り落として、休憩所内に入った。

「せっかくだし、何か食べてこ」

 涼乃がそう言うので、茉莉は店に掲示されているメニューを見て、寸分悩んだのち、「あん団子にしよっかな」と決めた。

「おっけー、頼んでくるね」

 涼乃は注文を受け付けるカウンターの方へと歩いて行った。茉莉はその間、少し濡れてしまった服の様子を確認していた。

 しばらくしたら、注文した団子をもって涼乃が戻ってきた。雨音はしきりに屋根をたたいて、しばらくは止みそうにない。

「「いただきます」」

 モチモチの団子に、甘いあんこの味が飾られている。美味しくないわけがなかった。

「うん!これ美味しい!」

 思わず言葉が出るほどに。

「こっちも美味しいよ」

 涼乃はいつの間にか買っていたペットボトルの緑茶と一緒にみたらし団子を楽しんでいた。

「じゃあ、1玉ずつ交換しない?」

「いいよ」

 やり取りの後、みたらし団子を受け取った。甘じょっぱいたれの味が口の中に広がる。

「これ、甘くておいしい」

 涼乃もあん団子にご満悦のようだった。あん団子の皿が帰ってくる。残りは3玉。

「……」

「……」

 団子を食べているのに夢中ということも有ったけれど、それにしても気味の悪い沈黙が二人の間に流れた。雨音が気になる。休憩所の入口のほうを見やれば、屋根から勢いよく滴った水が地面を叩いている。その沈黙を破ったのは涼乃だった。

「ねぇ、そろそろ……、そろそろ、教えてくれてもいいんじゃない?」

「何のこと?」

 涼乃が聞きたいことは何となくわかっている。それでも茉莉は、何も知らないような口ぶりで返した。

「もうとぼけないでよ、最近……ううん、もうここ半年くらい様子が変なの、自分でも気づいていないわけじゃないでしょ?」

「そう見える?」

「うん。いろんな行動に自信がなさそうだったり、何か迷っているように見えたり」

 涼乃には今の自分がそう見えていたのか、という驚きを感じている間に、涼乃は畳みかけてくる。

「そもそもずっと元気がなさそうだったし。大人びたっていうにしては萎びすぎだし。それで茉莉が良いって思ってるならいいけど、茉莉はそう思ってなさそうだし」

「どうしてそう思ったの?」

「川越とか、日光とか、そういうところに行き始めたのはこれをどうにかしたいからなんじゃないかなって。確かに今までの茉莉でもどこかに行きたい気分にはなっていただろうけど、そういう時は大体私たちを誘ってくれるのに、最近はずっと一人で何かしようとしてた。それに、特に最近は下を向いてることが多くなったし、それから……」

「わかった!わかった!もういいから!」

 もうこれ以上誤魔化すことはできないようだ。そう悟った茉莉は、大きなため息をついた。

「何て言えばいいんだろう、その……笑わないで聞いてくれる?」

「もちろん」

「心に穴が空いたの。なんというか……さかむけができたとか、思い出せそうなことが思い出せないとか、そういうのに似た気持ち悪さがずっと心の中にあるの」

 茉莉は胸のあたりに手を当てた。本当は心がここにないとわかっていても。

「どうしてかはわからないの?」

「うん。だから、どうしたらいいかとか、わかんなくなちゃって」

「それで日光に行ったりしたんだ」

「そう。最初のうちは、何となく心の穴に響くようなものがたまに見つかってたんだけど、日光は全然ダメだった」

「そっか、それで最近は特に落ち込んでたんだね」

 茉莉は団子を口にした。3玉目だからか、味があまりわからない。

 同じタイミングでみたらし団子を口にして、それを食べ終えた涼乃は、続けて話をした。

「で、どうして今まで黙ってたの?」

「だって……」

 口にするのは簡単だけど、それを言うには、ここまで踏み込んでくれた友人に向ける言葉じゃないような気がして、言葉を止めた。

「私たちじゃ力になれないって思った?」

「えっと……」

 図星だ。

「やっぱり。確かに私たちじゃどうにもならないこともあるかもしれないし、今も茉莉が本当に欲しい答えはわからないけどさ、それでも……話してみるだけでもいいから、言ってよ」

「でも」

「私たちが些細な事でも相談するようになれたのは、それをいつでも聞いてくれる茉莉がいたから。なのに、茉莉は一人だけで何かを抱え込むなんて、そんなの……そんなの、寂しいよ」

 ふと涼乃のほうを見やる。涼乃は言葉のとおり、心底寂しそうな表情をして、それをごまかすようにみたらし団子を食べていた。それを見た茉莉は、なんだか底知れぬ罪悪感を覚えて、「ごめん」という他なかった。

「うん、だからもう、一人で抱え込むのはやめて。あ、私たちの前から逃げるみたいにいなくなるのもやめてよ。あれも寂しいから」

 重い雰囲気にならないようにしてくれているのだろう、軽い口調で涼乃が喋っている。

「わかった……」

 そう言いながら、何か言葉を口にすれば目からもう少しで涙が出てきそうで、それを止めるためにも串に残ってる最後のあん団子を口にした。雨音が聞こえる。

「まあでも、聞けてよかったよ。また今度、結城と拓也も混ぜて一緒に話そうよ」

「そんな!いいよ。これは私の問題」

「茉莉の問題は私たちの問題だよ」

 それを聞いて茉莉はハッとした。ずいぶん昔に、同じようなことを涼乃に言った記憶がよみがえってくる。

「そっか、そうだよね」

 固く縛っていた心が解かれるような感覚を覚えた。

「今度また四人でお茶しよ。ちょうど鎌倉で買えるおいしいお菓子あるんだよ」

「鳩サブレー?」

「ううん、今回は別」

「そうなんだ!ちょっと楽しみ」

「じゃあそろそろ行こっか、雨も弱くなってきたし」

 涼乃は席を立ちあがった。茉莉もそれについていく。

「まずそのお菓子を買いに行くの?」

「あれは小町通りに売ってるから、とりあえずは鶴岡八幡宮にお参りだね」

「うん、行こう!」

 休憩所を出たら傘をさして、階段を下りた。雨にさっきまでのような勢いはなくなっている。傘からパラパラと軽い音がした。鶴岡八幡宮は、歩けばすぐそこにある。


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