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たびガール  作者: 諏訪いつき
6章 鎌倉編

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4話 赤い紫陽花

 明月院を出た後、来た道をちょっと戻ってから、県道21号に合流して、東南へと歩みを進めた。景色は一軒家とたまに喫茶店が並ぶ何の変哲もない景色ではあるものの、その奥には背の低い山が見えて、「山と海に囲まれた地に鎌倉幕府が作られた」と教わったことを思い出す。

 二人はとりあえずの目的地を鶴岡八幡宮に設定して、そこへと向かう道に良さそうなお寺があれば気分で寄ろうという流れになっている。本当にここまで何の計画もなしに来ていたことに驚いていた茉莉だったが、「行き当たりばったりでも楽しくない?」という涼乃の一言にどこか腑に落ちるところがあって、今日はその通りに行動してみることにした。

 雨は降り止んだけれど、むしろその湿気だけが残って、空気はぬるく少し気持ち悪い。時折木々の香りとともに向かい風が吹いてくるのが救いだった。寺に入らずとも、道端でもたまに紫陽花を見掛ける。

 そのあとも少し歩けば、大きな門のある寺の前にたどり着いた。近くにある石碑に「建長寺」と大きく書かれている。

 「ここ、寄ってみる?」

 今度は茉莉から尋ねてみた。

 「いいね、行ってみよ」

 そんな軽いノリで、建長寺の参拝が決まった。

 建長寺は境内が国の史跡にも指定されている寺で、七百年前には既に存在していたとされている。北鎌倉駅と鎌倉駅の中間に位置しており、少し南に歩けば鶴岡八幡宮へとたどり着く位置にある。

 拝観料を払って敷地内に入った後すぐに、また1つ大きな門が目の前に見えた。

「浅草寺の時にも思ったんだけどさ、こういうお寺って大きな門多いよね」

 顎を人差し指でついて、茉莉はふと思ったことを口にした。

「確かに」

「なんでこんなに大きい門があるんだろ」

「うーん……仏様が実は私たちよりはるかに大きかったりして」

 なんて事のない会話をするくらいには、茉莉の活力も戻ってきているようだ。

「この鐘、突くことあるのかな」

 門をくぐるときに見かけた鐘にも目を付けた。

「除夜の鐘とかで使ってるのかも」

「あー!確かに」

 門をくぐり終えたら、まずは本堂に参拝することになった。道もまっすぐでわかりやすい。本堂の奥に、少し大きな地蔵が安置されていた。

「お地蔵さんもこの大きさならあのサイズの門必要かも」

「通ることあるのかな……」

「そりゃあるでしょ、買い物とか」

「そうかな……そうかも……」

 そう言っている涼乃をよそに、茉莉は探すような足取りで付近を回って、何かに気づいてそれに走って近づいて、涼乃を呼んだ。

「涼乃ー!真っ赤な紫陽花あったー!」

 そこには言う通り混じりけの無い深紅の紫陽花が咲いていた。

「ちょっと待ってよ……。ほんとだ、綺麗に真っ赤だね」

「でしょ?さっきのところは青い紫陽花しかなかったから、なんか珍しいもの見た気分」

 スマホで写真を撮った。涼しい風が吹き込んできて、それも少しいとおしいような感覚があった。紫陽花の葉も揺れている。

 そのあとも建長寺境内の建物をいくつか見て回りつつ、その道中に咲いている紫陽花も愛でていった。やっぱり建物が少なく木々が生い茂る場所はとても心が落ち着いて、茉莉は自分が心のどこかで焦っていたことを再確認するのだった。

 一通り境内の散策が終わって、二人はまた別の場所へと向かうことにした。

「この道の先は……切通を通って、鶴岡八幡宮に行くのがいいかも」

 涼乃はスマホの地図を見ながら言った。

「じゃあそこにしよう!鶴岡八幡宮、久しぶりに行くなぁ」

 歩き始めてすぐに、屋根のついた坂道に差し掛かった。

「ここが切通?」

 上を見上げて茉莉は聞いた。雨は止んだと言えど、上空には濃い灰色の雲。

「……だと思う。うん、やっぱりそうだ。巨福呂坂(こぶくろざか)切通だって」

「じゃあ、もう少しで鶴岡八幡宮にもつきそうだね」

 屋根のあった道を抜け、その先のずっと続く下り坂を歩いていく。すると先ほどまで止んでいた雨が、少しずつまた降り始めてきた。

「やばっ、また降ってちゃった」

「今日の天気はよくわかんないね」

 二人はまた傘をさして、傘の分ちょっとだけ距離を開けた。

「なんか、すごい降ってきてない?」

 傘から手を出した茉莉は、雨の勢いがどんどん強くなっていくことを確認した。次第に雨粒は音を立てて地面に降り注ぎ、傘からもすさまじい音が聞こえてくる。

「本当に今日の天気はどういうことなの?」

「どこか、雨宿りできる場所とか無い?」

 焦ったような口調で茉莉は聞いた。

「確か、もうちょっとだけ歩いたところに休憩所があったはず」

 雨音で涼乃の声も掻き消えそうだ。

「じゃあそこ、行こ!」

 雨音に急かされるように歩調を強めた二人は、その休憩所へと向かって行った。

 

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