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たびガール  作者: 諏訪いつき
4章 東京編

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6話 『茉莉はどうして桜が好きなの?』

 有楽町線で14分、永田町駅に戻ってきた茉莉は、若干気が乗らない乗り換えをしていた。ほんの少し前にここで10分以上かかる乗り換えをさせられたからだ。しかしそれは杞憂に終わった。

「そういえば半蔵門線って、さっき歩いて通り過ぎた路線か」

 先ほどの乗り換えでホームの端から端まで歩かされた、その路線が今回お目当ての路線であった。

 次は半蔵門線でたった一駅。この程度の時間だと、暇つぶしをしようとしてもすぐに時間となってしまうため、何もできずむしろ暇となってしまうなと思っていた矢先、半蔵門駅に到着。

 半蔵門駅の地下から出て歩いてすぐ、特徴的な景色が見えた。川を隔てて向こう側に林が見える。地図から見れば東京のど真ん中に大きく穴が空いたように見える、皇居であった。

「たしか、この堀に沿って公園があるんだよね」

 大きな道を渡れば、桜が咲く公園に多くの人が集まっている、今日はよく見る光景が見えた。日は高く昇っていて暖かく、公園が全体的に鮮やかに照らされている。すっかり冬の日差しに慣れていたから、ここでは最近見たことないくらいの上機嫌なお日様に少し驚く。

 この公園の桜は堀に沿って花を広げているものと、公園の中で柵に囲われ、近くでも見れるようになっているものの二種類が植わっている。酒類の持ち込みが禁止されていた新宿御苑とは違い、公園の端でシートを広げ、花見酒を楽しんでいる人も見られる。春風の暖かい匂いに、アルコールの匂いが混じっていた。

 柵に囲われて公園の中に植わっている桜のおかげで、ただ通り過ぎるだけで目の前に桜の花びらが映る散歩を楽しむことができる。時間にちょっと余裕があるとは言え、大量の人の流れの影響と今後の予定のために茉莉は桜を立ち止まって見ることはせず、ほぼ流し見のような形で公園を北上していったが、それでもなんだか満足のできる散歩だった。花びらが飛んできて、前や横に飛んでいくたびに自分の顔がほんのり笑顔に染まっていることに気づく。

 そのまま北へ向かうと公園は沿道のようになった。この周辺では公園だけでなく堀の向こう岸、皇居の側にも桜が咲いていた。この景色には茉莉も一度立ち止まって、携帯でその風景を写真に収めた。周囲には桜の薄桃色と他の植物の明るい緑、堀の川の深い緑で彩られており、写真の上の方に高層階の建物が映っていなければ、ここが東京だなんてわからないかもしれないなんて思った。

 写真を撮ったついでに、幼馴染のトークルームに未読のメッセージが溜まっていたので覗いてみた。お花見に持っていくお菓子の話で、『人形焼きは粒あんとこしあんどちらが良いか』という内容で論争が繰り広げられていた。こしあん派の茉莉は論戦に参加できていないので、粒あん派の涼乃と結城を、もう一人のこしあん派である拓也が一人で健闘している。茉莉も援護しようとして何文字か打ち込んだけれど、「……両方買ってけばいっか」と決めて、スマホをしまった。この手の論争になってしまうと、みんなそれを楽しんでいる一面もあるせいで終わりが見えないことを、茉莉は知っていた。

 沿道を九段下駅方面にまた歩き始めた茉莉は、桜を見ながら過去の思い出を掘り返していた。思い出していたのは、またあの写真の時の事。

「あの時も『桜を見に行きたい!』ってママに言ったんだっけ」

 さっきまで思い出せなかったことも、桜を見ていたら思い出してくる。

 『本当に桜が好きね』そんな言葉に、『うん!大好き!』幼い頃の自分がそう答えていたことも。

 でも、『茉莉はどうして桜が好きなの?』と聞かれて、『うーん』と悩んだ後、結局わからなくて、『わかんないや』とはにかんだことも思い出した。

「そんなの、いまもわかんないよ」

 そんな調子で、自分は「桜が好き」と言っていいのか。そんなことを考えながら、気づけば九段下駅に到着していた。

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