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たびガール  作者: 諏訪いつき
3章 秩父編

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9話 長瀞岩畳とお土産探し

宝登山を下山するロープウェイは行きとは違いすぐに乗ることができた。座席に座った瞬間にこれまでの疲れを初めて認識した茉莉は、下山するまでの数分間、もう見慣れた山肌と車内ではしゃぐ子供をあまり目の焦点も合わせないまま眺めていた。そうしていたら、登っていた時よりも体感短い時間でロープウェイは麓駅まで到着していた。

 麓駅でお土産を買おうと少し迷ったけれど、一旦長瀞駅の方まで戻ることに決めた。確か、長瀞駅近くにいくつかお土産屋があったはず。ちょっと前に来た道をまだ咲かない桜を眺めながら歩いていると、春めいた風が吹いてきて、蕾がさっきよりも膨らんでいた気がした。

 長瀞駅に戻ってきたら、線路をまたいで反対側の方へと歩みを進めた。この辺りは商店街のようになっており、様々なお土産屋が軒を連ねていた。それぞれの建物の作りは一昔前の物のようで、茉莉は勝手に昭和の風景はこんな感じだったのかなと考えながら店頭で売っているものを流し見していた。お酒、お菓子、みそ漬けなど、様々なものが売られていて目移りする。

 ウィンドウショッピングを続けていたら、この道の終わりにすぐたどり着いてしまった。その先は階段になっていて、下った先は石畳になっている。さらに奥には太い川が見えた。今までもずっとそばを流れていた荒川だろうか。なんだか川の流れを無性に見たくなって、階段を駆け下りて水たまりを避けつつ川べりの方まで歩いて行って、そこに腰掛けた。川の水は翡翠みたいな色をしていて上流で聞こえたような急な流れの音はせず、今を流れる時間のようにゆっくり流れていた。水面に面した足をゆっくりばたつかせる。

「……半日はこうしていられるかも」

 見上げた空には小さな雲。春風を手で受け止めれば、瞼が重くなって目を瞑った。そのまま眠ってしまいたくなる。

「……」

 目を瞑っていても、川の流れの音と春風は感じる。瞼の裏には今日見てきた風景が淡く映し出されていく。山の中の静かな神社、鍾乳洞へと至る道、さっきロープウェイで見た景色。どれも日常では味わえない景色だった。そういえば、今頃ロープウェイの乗客は私のことが見えているのだろうか。そんなことを目を瞑って考えていたら、心の中に確かに存在する『心の穴』もはっきりと感じられた。

「今回の旅でもダメだったのかな」

 これじゃあ何をやっても治らないかもと、弱る心を誤魔化すようにして目を開けた茉莉は、そのまま川に落ちないようにしてゆっくり立ち上がってその場を後にした。

「ううん、帰ったらきっと良くなってる。今日も収穫あったし」

 『収穫』とは、三峯神社での出来事のこと。それを胸に、お土産の売っていそうな商店街に戻ることにした。

 通りに戻って、いくつかある土産屋を見比べると、1つ疑問が湧いてくる。

「秩父の名物ってなにがあるっけ……?」

 湘南地域では鳩サブレがお土産界の覇権を轟かせていたし、川越ではどこでも和菓子を売っていた。しかし秩父ではどうやら覇権を握っているお土産は内容である。そもそも、先の二カ所と比べて、お土産を売っている場所も少ない。それはともかくとして、とりあえずお土産屋に入ってみた。

 まず目を引いたのは板こんにゃく。だいぶ昔の社会の授業で、この辺りはこんにゃくが名産であることを学んだ覚えがあった。だけど。

「今度涼乃を読んだ時、お茶と一緒に食べるって考えると……」

 お茶の隣に切り分けられたこんにゃくが盛り付けられている場面を想像する。

「……ちょっとシュールすぎるよ」

 こんにゃくはお土産審議から脱落した。他の物も吟味したけれど、大体の物は同じように脱落していった。

 結局生き残ったのはこの辺りの名産らしいメープルシロップで作られた『すのうぼうる』くらいであった。

「ちょっと少ない気もするけど、これでいっか」

 お土産選手権唯一の生き残りを会計に通したら、帰路につくため店を後にした。いつの間にか赤みを増していた西日に照らされた街並みを歩いて、踏切を超えた。旅の中で傾いた日に当てられている時間は、どうしてこうも寂しさがますのだろうかと考えながら。

 長瀞駅に戻った茉莉は、『秩父路遊遊フリー切符』を買ったときと似たようなテンションで、駅員に話しかけた。

「すいません!急行券大人一枚ください!」

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