7話 宝登山へ
秩父駅を出発して北へと向かう電車に乗っている茉莉は、雲が少し増えてきた晴天をみて、長瀞駅に到着するまでを待っていた。時折眩しい日差しが電車に差す。
「もうちょっとすれば春が来る。そうしたら、ちょっとは気分も晴れるよね」
日差しに当てられながら、そんなことを考えていた。
長瀞駅は赤い駅舎に木製のベンチのレトロな雰囲気がある駅で、降り立つだけでも多少ノスタルジックな気分に浸れる。駅舎を出ると遠くに見える山に向かって真っすぐ伸びる道が見えて、その山の反対側も店が立ち並んで賑わっているようだ。
「とりあえず、宝登山の方から行こう」
この駅最初の目的地へと歩き出した。
宝登山へと向かう道には駅から歩いてすぐの場所に白い綺麗な鳥居が見える。どうやらこの道はもうここから参道のようだ。
「確か、山の中に神社があるんだよね」
計画の中では、その神社を参拝した後、山頂まで向かう手はずになっている。
鳥居をくぐって民宿の横を通り過ぎ、信号を渡ると、春が待ち遠しいような色に染まった蕾を身につけている並木の下を歩いた。桜だろうか。電車に乗っている間に春の事を考えていたから、どこかその蕾に親近感があった。歩けば歩くほどに山肌の木が鮮明に見えてくるようになって、駅から歩いて約20分ほどで道の終わりが見えてきた。道の終わりの突き当りには右手にまた白く綺麗で、「宝登山神社」と文字の彫られた鳥居があって、その奥、階段の先から社殿が小さく見えていた。
宝登山神社はその名の通り宝登山という山に鎮座する神社で、宝登山の麓と山頂にそれぞれ神社とその奥宮が位置している。奥宮に行くためには宝登山を登らなければならないが、わざわざ登山をする必要はなく、ロープウェイで山頂まで簡単に到達できる。祭事は神武天皇や火産霊神で、諸難よけのご利益があるようだ。
鳥居の前でお辞儀を済ませたらそこをくぐって、小さな橋を渡ったら階段に何度目かのチャレンジをした。「これくらい、鶴岡八幡宮とか江の島のやつよりも簡単!」と自分を奮い立たせながら。
宝登山神社境内は三峰神社のように背の高い木々に囲まれた神社となっていてよく雰囲気が似ていた。違う点と言えば、標高か立地の影響かは定かではないが、宝登山神社の方が晴れやかな雰囲気を持っているように感じられる。秩父に来てから時間を追うごとに良くなっていった天気もその雰囲気を後押ししているようだ。そんな境内をよく見まわしながら賽銭箱の目の前まで歩いてきた茉莉は、五円玉を賽銭箱に入れてから今日だけでも三度目の二礼二拍手一礼をして、神様に願い事をした。
「なんかもう、いろいろ良くなってください!」
『心の穴』が空いていることに気づいて三カ月。様々な神社で願い事をしてきたが、そうやって過ごせば過ごすほどにいったい何が良くなればいいのかもわからなくなってきて、ついに願い事すら神頼みのアバウトなものになってしまった。最後の一礼が終わった後、自分のその様がなんとも不甲斐なく感じた茉莉は、小さくため息をついた。
麓の宝登山神社の参拝が終わったら、先ほどの道の突き当りまで戻ってきて、今度はその道を左に進んだ。標高約500mの比較的登山しやすい宝登山ではあるが、今回はもう登山するほどの体力も残っていないので、ロープウェイを使うことにした。神社から歩いて数分もすれば、宝登山ロープウェイの山麓駅に到着した。駅舎はかなり大きく、その中にはお土産を売っている売店もあって充実している。平日の今日はロープウェイが30分に1回しか出ていないらしく、今から15分は待つことになりそうだ。とりあえずチケットを用意するため、チケットカウンターの係員に話しかけた。
「すいません、往復券を一枚お願いします」
「往復券ですね、1200円です」
千円札と偶然2枚あった百円玉でちょうど1200円を払ったら、小さな硬い切符を貰った。
「思ってたよりも高かったけど、これも記念品になるよね」
その切符を眺めながら、茉莉はロープウェイを待った。




