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たびガール  作者: 諏訪いつき
3章 秩父編

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4話 三峰神社

山の中をバスが進んでいく。先刻まで見えていた家々もどんどんとその数を減らしていき、もう引き返せない所まで連れていかれてしまったのではないかという恐怖心を冒険気分の傍らに覚えていた。くねくねと曲がっていく道を進んでいくと、採石場と思わしきものや、川の対岸に村が見えたりして、遠く離れた山の奥深くの地域にも暮らしがあることに、感動に似た感覚を覚える。

 途中でダムが見えた。ここは秩父湖というらしく、荒川から来た水はいったんここに溜まるようだ。マップを見れば本当に埼玉の西の果ての方まで来たことが実感できる。

「自分が住んでる県にも、西の果てにはこんな場所があったなんて」

 そんなことを思う。

「後でみんなに自慢できるね」

 茉莉は嬉しそうにそんなことを思った。

 バスはダムを横切ってから山を登り始めた。ここまでくると村や家も姿を消し、針葉樹林とその隙間から見える灰色の空しか見えない。寂しさが『心の穴』をつつく感覚がある。

「一人で、どこまで行けるか確かめるんだ」

 抱いた決意で、その寂しさを振り払った。

「それに、この体験を独り占めしたいしね」

 冗談めいたことも思った。

 バスの中で三峰神社に間もなく到着するアナウンスが入った。いよいよ目的地に到着する。窓からはもう駐車場が見えている。かなり大きい。

 バス専用の停留所にバスが止まって、茉莉ははやる気持ちを抑えながら下車した。長時間の着席で固まった体を伸びでほぐして、神社へと向かうことにした。ここからまた少し歩くようだ。

「うわ、スマホの電波悪……」

 山の中に位置しているここはどうも電波が通じにくいようだ。

「景色に集中できると考えれば、それもアリね」

 神社へと歩き出した。

 三峰神社は秩父に三社ある大きな神社のうちの一社で、茉莉がここまで長い長い移動をしてきたように秩父盆地からさらに西に位置している。公共交通手段でのアクセス手段はバスのみであり、茉莉が乗り始めた三峰口駅から乗る方法と、東京から来る人であれば西武秩父線の秩父駅から乗る二通りが存在する。『秩父路遊遊フリー切符』を所持していない場合は、秩父鉄道を利用して羽生や熊谷から秩父に訪れた場合でも、御花畑駅からバスに乗った方が便利である。

 この神社は日本武尊がこの地を訪れた際、その山川の美しい様に感動し、この地を作った伊弉諾尊、伊弉冉尊を祀ったことが始まりとされている。境内は背の高い針葉樹の森の中にあり、その様はなかなか迫力のあるものとなっている。

 澄んだ空気の中、並び立つ木々に挟まれた道を進むと、赤い大きな門があった。門の上には古い字体のせいで読みづらいが、「山峰三」という文字が見える。その横には「三峰神社」と書いてある石柱が建てられている。石柱の漢字は字体が古くなく、簡単に読めた。門をくぐれば、参道の終点まではすぐ近くで、道の右手に階段と、三峰神社の社殿が見えた。

 神木のそびえたつ横の階段を登れば、社殿はもう目の前。参拝客で少し並んではいたが、賽銭箱の前に立つまでにさほど時間は要さなかった。

 「『心の穴』が埋まりますように。それと、今日の旅が楽しくありますように」

 社殿に手を合わせながら、心の中で願った。

 「……それもこれも、私の努力次第かも」

 「楽しむぞ」と気合を入れ直した。

 参拝が終わったら、御朱印をもらう列へと並びに行った。

 「御朱印帳は……よかった、忘れてなかった」

 この御朱印帳は、涼乃が「旅の記念に書いてもらってきな」と言われて渡されたもの。茉莉は御朱印の事を全く知らなかったため勝手がわからず不安そうだ。

 しばらくすると茉莉の番が来て、御朱印を頼むとほんの少しの時間で書き込み済みになったものが帰ってきた。達筆な字で神社の名前と、今日の日付が書いてあり、ページの真ん中に朱色の綺麗な印が押されていた。

 「確かにこれなら今日の事も思い出せそう!」

 御朱印帳の空白のページはかなりの数がある。

 「いつかこれが埋まる日も来るのかな」

 この神社にたどり着くくらい途方もないことだな、と茉莉はしみじみ考えていた。

 境内には岩でできた丘の上に立っている日本武尊の像があった。岩山で身長をかさ増ししているのもあって、その顔はかなり見上げた位置にある。この像は右手を挙げて挨拶をするようなポーズを取っていたので、茉莉もそれを真似して、写真を撮ってから、その場所を後にした。

 境内で見れるところも大体周ったので、帰りのバスが来るバス停まで戻ることにした。

「お、スマホの電波ちょっと通じる」

 見ると開こうとしていた地図がやっと表示されていた。山を表している緑一色の地図の中に、自分の現在地を表すピンが表示されている。地図を拡大すると、はるか遠く離れた場所に自分の家の場所のピンが差されている。

 「本当に埼玉の西まで来れたんだ、私」

 その瞬間、『心の穴』が、湘南や川越でも感じたような温かい感覚に包まれて、その痛みが一瞬和らいだ後、また何事もなかったようになった。

 「やっぱり、どこかに出かけたときだけこれが起きてる」

 この現象が起きていたのは湘南に行った日と川越に行った日。他の日常の日々では起こっていないことを茉莉は理解し始めていた。「どこかに出かけてみよう」と決意したのも、単純に大宮より外の世界の興味もあったが、この現象が旅行時にのみ起きていたことを鑑みての事だった。

 「これを続けることが正解ってことでいいのかな」

 今の状況では、そう理解するしかない。それからは、いったい今の何が『心の穴』のお気に召したかを考えて、三峰口へと戻るバスを待っていた。

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