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たびガール  作者: 諏訪いつき
3章 秩父編

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3話 回想トレイン

高校一年目の最後の期末テストが終わって数日が経ったある日、茉莉と拓也は大宮駅中のカフェにて秩父旅行の相談話をしていた。今日は涼乃と結城は部活があるとかで、二人のみの集合。

「で、茉莉は秩父のどんなところを見たい?」

「んー……よくわかんないかな」

「……秩父で何がしたい?」

「えっと……なにがしたいんだろ」

 茉莉は困ったような表情で笑った。拓也はそれよりも困惑した表情をした。

「ごめん、質問が悪かった。例えば……秩父の奥の方に秩父神社って言う山の中の神社がある」

 スマホで写真を見せられた。木々を背景に、大きな門が見える。

「こういう、豊富な自然と寺社、みたいなところが秩父の魅力の一つだと思う。こういうところを回ってみる?」

「うん、うん!」

「そしたら……茉莉は夏休みの宿題、早めに終わらせるほうだったよね?」

「え?そうだけど、なんで急に?」

「なら三峰神社を一番目の目的地にしよう。この写真の神社。」

 先程と同じ写真。

「この神社は秩父鉄道の西側の終点……からさらにバスに乗った先にある。だから行くのが一番しんどい」

「なるほど?」

「『行くのが面倒臭そうなところは先に行っちゃおう作戦』だね」

「えなにそれ、そのままだし、ダサ……」

「茉莉、それはちょっと傷つく」

「あ、ごめん」

 拓也はコーヒーを飲んで咳ばらいをしてから、続きを検討し始めた。秩父で何をしたいかわからないと言っていた茉莉だが、神社や鍾乳洞などの観光スポットにはよく興味を示したので、訪れる場所も、そこへと向かうルートもとんとん拍子で決まっていった。

「よし、こんなもんかな。電車の時間は乗り遅れたときのことも考えて、大体これくらいの時間に長瀞駅を出れば茉莉の帰りたい時間に帰れるね」

「ありがとう……!」

 茉莉は目を輝かせている。

「それで、運賃だけど、このままだと同じ路線を乗ったり降りたりして結構な金がかかる」

「うん」

「そこでこれ。この切符があれば熊谷から三峰口駅まで乗り降り自由だし、仮に熊谷駅から三峰口駅までを往復しただけでも元が取れる。これが1500円」

『秩父路遊遊フリー切符』と書かれた切符の写真を見せられた。

「これ、江ノ電の時もあった……」

「関東の観光地に通ってる鉄道とかバスにも同じようなフリー切符が売られてることがあると思うから、もし別の場所に出かけるってなった時にも同じようなものが売ってないか調べてみるといいよ」

「ありがとう!私、どうお礼したらいいか」

「別にお礼されることなんてしてないよ。それよりも……」

「よりも?」

「いったいどういう風の吹き回し?」

 拓也はまたコーヒーを一口飲んでから言った。茉莉は会話の中で密かに、「よくブラックなんて飲めるな」と思っている。

「と、言いますと?」

「茉莉がこれまで、『一人でどこかに出かけてみたい』なんていう事なんて無かった。別にそれが悪いことなんて少しも思ってないけど、いつもだったら『みんなで一緒に出掛けよう』とか言いそうだなって思って。半分は他人の受け売りだけど」

「……」

 答えに窮する。『心に穴が空いた」なんて言えるわけがない。たとえ十数年を共にした親友の一人であっても。しかし『自分探しの……旅?』とか誤魔化していても、すぐにバレることもわかっている。こういう時が来ることは容易に想像できたのに、その時のための言い訳を作ってこなかったことを、茉莉は激しく後悔していた。

「別に答えられないならいいよ。聞いておいてなんだけど、僕はあんまり気になっていないからね」

 あっさりと引き下がられた。

「じゃあなんで」

「僕が茉莉と秩父の話をするって言ったら『茉莉に何があったかそれとなく聞いてきて』って言われた。それも二人に。それとなく聞くのも面倒だからこうやって聞いちゃったけど」

「その二人、聞かなくてもわかるわ……」

 結城と涼乃だろう。あの二人は茉莉の心に穴が空いてから、ことあるごとに心配の言葉をかけてくれる。その心配が、自分の事をうまく話せない茉莉の心に重くのしかかっている。

「茉莉がいない所でたまに『茉莉の調子が心配』みたいな話するんだよ最近」

「そんなに調子悪そう?私」

 自分の顔に指を指す。

「うーん。僕はそうは思わないけど。『何か新しいことを始めたい』なんて思う事、僕らの歳なら普通でしょ」

「よかったぁ……。私、ずっと『調子が悪いです』みたいなオーラ出しちゃってると思ってた」

「他の人は僕と同じで特に気にしてないんじゃないかな。むしろ、僕が薄情なんじゃないかって不安になってきた」

「全然薄情じゃないよ。ほら、私いつも通り元気だし。元気すぎるかも」

 精いっぱいの笑顔を作って言って見せた。それを見た拓也の表情が、安心から来るものとは言い難いものであったのが気がかりだったのを、秩父の車窓から思い出していた。電車はいつの間にか秩父駅を通り過ぎ、裏山口駅まで到着している。秩父駅の辺りは少し栄えている街の風景が流れていたが、今は秩父盆地に到着した時のような、迫ってくるような山肌の景色が戻ってきている。

 浦山口駅を出発したすぐ先にて、電車は橋を渡った。渡っている川は先程と変わらず荒川。橋のかなり下を川が流れていて、ちょっぴり怖い。進んでいくごとに奥に見える山も近づいてきているように見えている。

「ちょっとした冒険気分だ……!」

 その景色ははまるで、長らく使わないでいた『わくわく』という言葉を使わせるためのように存在しているようなものだった。

 一駅、また一駅と奥に見えていた神社に近づいて行って、ついにその山の手前、三峰口駅に到着した。ここまで二時間半の電車旅。だが、最初の目的地である三峰神社にまでは、もう少しだけバス移動をする必要がある。

 電車から降りて、二時間半分の伸びをして、おまけのあくびまでしたら、三峰神社行きのバス停の前に立った。

 バスを待っている間見ていた携帯の地図で、自分の現在位置を確かめたら、家のある大宮からすでに遠く離れていて、程よい感慨深さが茉莉の心を包む。

「あとちょっとバスに乗るだけ。頑張ろうっと」

 気合を入れ直して。

「ま、ここまでもこれからも、頑張るのは運転手さんなんだけど」

 それを茶化して見せた。

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