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たびガール  作者: 諏訪いつき
三章 秩父編
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一話 秩父へ行こう

寒さも手加減を覚え始めた三月の下旬。今日が秩父旅行決行日の井町茉莉()は、慣れを覚え始めたような動きで荷物の最終確認をしていた。

「一応寒くなった時の上着もある、お財布ある、ハンカチ、ティッシュもある……あとは……ICカード、はいらないんだっけ?」

 友達に計画を手伝ってもらったことを思い出す。確か、「秩父鉄道にICカードは使えない」とか言ってた気がする。

「でも熊谷までは使うっけ」

 パスケースをポケットの中に。

「Suica、よし。あとはない……かな」

「ま、他は忘れてもなんとかなるか」

 心構えもだいぶ慣れてきたようである。

 荷物を背負って階段を降りたら、今しがた起きたであろう茉莉の父、柊に出くわした。時刻は朝5時。休日にしてはかなりの早起きである。

「パパ、おはよう」

「おはよう茉莉。秩父に行く日、今日だったか」

「うん!そういえば、お土産、何かいる?」

「いや、楽しんでくればそれでいい」

「わかった。じゃあ、行ってきます」

「茉莉」

「ん?」

「……気を付けて行ってくるんだぞ」

「うん!」

 柊が何か言いたそうな雰囲気を出していたが、気にしていても仕方がないので玄関の扉を開いた。

 昼間の寒さが和らいだ三月ではあるが、早朝であればまだその寒さは厳しい。朝日はまだ出たばかりで、スマホの天気予報が5℃を指している。縮こまりそうな体を深呼吸で整えて、駅までの道を歩き出した。

「行こう!秩父へ!」

 いつも通っているはずの大宮駅への道も、今日だけは特別に見えた。

 早朝の大宮駅はいつものように人でごった返すわけでもなく閑散としている。土曜日だからだろうか、この時間に見かける眠そうなサラリーマンすら見つけるのが難しいくらいである。

 改札を通ったら、いつもは使わないホームへと向かう。高崎線を待つ八番ホームの乗車口の一番前に並んだ。次の電車は三分後には来る。せっかくの早朝の澄んで冷えた空気を大きく吸っては吐いてをしていたら、電車はすぐに来た。各駅停車高崎行き。

「高崎はどんなところなんだろう。いつか見てみたいな」

 今まで思ったこともなかったことを考えて、電車に乗りこんだ。

 朝6時前の高崎線、さらに北行きのこの電車は見たことないくらいに人が乗っていなかった。当然シート端の席にも座れる。ドアの前にも人がいないので、外の景色もよく見れる。いつもは見ない景色が窓の外を通り過ぎるたび、非日常感が増していって、心をくすぐられる。

 鴻巣を過ぎると、景色に田園が増えて来る。冬の田園は灰色の土一色で味気ない。

「早く春にならないかな」

 色味のない景色はどこか寂しくて、そんなことを思った。

 大宮駅から四十分ほど。乗換駅である熊谷駅に到着した。早朝に起きたので途中うとうとしていて、詳しい景色が思い出せないまま電車を降りる。辺りの景色は埼玉県ならよく見るような光景で、物珍しさはまだない。頭上には新幹線の高架線があって、日当たりは少し悪い。

 改札を出て秩父鉄道の改札へと向かう。朝の六時半だからだろうか、やっぱり人はいない。

 改札横の駅員窓口に辿りついて、茉莉は恐る恐る駅員に話しかけた。

「あの!、秩父路遊遊フリー切符?ください!」

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