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たびガール  作者: 諏訪いつき
二章 川越編
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三話 願い事は

道を進めば、目の前に鳥居が見え始めた。茉莉の地元には大宮氷川神社があるから、今見ているそれは彼女にとって小さく見えた。

 境内に入ると、本殿や社務所や池、手水舎などが所せましと敷き詰められていた。

 川越氷川神社は、江戸時代よりもはるか前、6世紀ころから存在していると言い伝えられている神社である。境内にある本殿と八坂神社は、県指定の重要文化財となっている。祭神は素戔嗚尊など複数柱が祀られており、この神社も縁結びのご利益があるとか。

 「そう一日に何社も回っても、祈ることなんてないんだけどな」

 縁結びのお祈りもした。『心の穴』の行く末は……。江の島神社で祈って何も起きなかったので、多分神様の管轄外か、自分でなんとかしろという事なのだろうと解釈しているので祈っても意味がない。少しマナーがなっていないような心配があったけれど、神様にお祈りする前に境内の散策を済ませることにした。

 本殿の裏は回廊のようになっていて、そこには風鈴が一面に飾られている場所や、絵馬が夥しい数飾られている場所があった。歩きながら流し目で見ていても、誰かと結ばれるように願っているものから自分が裕福になりたいという願いまで様々な願いが書かれていて、神様も大変だと感じた。

 「誰かと恋したい!とか、今はいらないや」

 誰か他の人に『心の穴』を埋めてもらえるのではないかと仮説を立てたことを思い出した。それくらい大事に思っている人にこそ、今の姿を見せたくないし、離れ離れになったらもっと大きな穴が空きそうだという結論に至ってからはそれきりの思考。

 そのあとも風景に対しては少し上の空になりながら歩いたら、本殿の場所まで戻ってきてしまった。いまだに少し迷っている茉莉は、どうしようどうしようと考えを巡らせることしかできない。

 もう少しばかりの間境内で右往左往して、名前の知らない鳥が何回か鳴いた後にやっと決心した顔で茉莉は賽銭箱の前に立った。

 「友達と、いつまでも友達でいられますように」

 茉莉には四人の親友がいた。いずれも家が近く、幼い頃からの間柄だった。ここまでならどこにでもあるような関係ではあるが、この四人が特異な点はその関係の長さであった。幼い頃から仲が良くてもいずれ疎遠になるという人間関係はありふれているもので、そんな例は身近な場所で何度も見てきた。彼女も小学校でクラスが別れたとき、中学でそれぞれが別の部活に入った時に「こういう風に疎遠になっていくんだ」と感じたことがあった。が、結局月に一度はどこかで集まるような関係が続き、高校受験の合否の成り行きで四人全員が同じ高校に入った時には、「これはもう運命じゃなくて呪いだね」と笑いあったこともあった。人間関係はふとした瞬間疎遠になってしまうことを身近な親友以外であれば経験しているからこそ、縁結びの神々に祈るにはふさわしい内容だと、境内を散歩して思いついたのであった。

 「こんなこと、みんなの前だったら恥ずかしくて言えないもんね」

 だからこそ、神様の前で。

 せっかくだからいつも通りおみくじも引いておくことにした。毎回大吉を出されるのはもはや癪の域まで来ているからこそ、念入りに引くおみくじを選んだ。

 結果は……大吉。

 「ほんとになんで?」

 もう何が何だかわからなくなってきたし、見て回れる場所はすべて訪れたので境内を去ることにした。おみくじのリベンジは、また今度にするとして。

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