5.驚きの真実
「なあ、楓良。」
「はい、なんですか? 先輩」
「付き合ってくれ。」
「……うえっ!?」
それは、教室での出来事だった。
『……え、ちょ、ええー!?』
『い、今の聞いた!? 付き合って、だって』
『ひゅーぅ。熱いねぇ♪』
『つーか、意外と男前だな。先輩って』
さまざまな意見が飛び交う中、楓良はひとり、取り残されたようにぽかんとしていた。
「え?……え、え!?」
「駄目か?」
「や……えっと、その……突然過ぎませんか……!?」
「駄目か……」
雄介はがっくりと肩を落とした。
「うーん……残念だ、楓良がいれば百人力なんだがなぁ……」
『……は?』
雄介の発言に、クラス中がえっ、と声を上げた。
「……あの、先輩?」
「ん? なんだ?」
「……ごめんなさい、さっきの言葉の意味って……」
「?……だから、ちょっと今日買い物に行くのについてきてくれっていう……」
『ああ、そういう意味か!』
「?? 他に何かあるのか?」
「い、いや! わからないならそれでいい、です……。」
あはは、と楓良は曖昧に微笑み、心の中でため息をついた。――この先輩は、そっち方面に関して驚くほど疎いらしい。
「あ、でもそれなら大丈夫ですよ。」
「え、ほんとか!? よっしゃぁ!」
雄介がガッツポーズを作る。
「でも、何を買うんですか?」
「ああ、勉強道具だよ。」
『なにぃ?!』
またクラス中から、叫び声が上がる。
『ゆ、雄介先輩が勉強……だと!?』
『嵐か!? 嵐の前触れなのか!?』
『いや、夢よ! これは夢! 悪い夢!!』
「てめーら、ちょっとあとでツラ貸せや。」
雄介は顔をしかめた。
「失礼だな。俺だって勉強道具くらい買うっての。」
「先輩、勉強してたんですね……。」
「そりゃあするよ。俺だって好きで留年してんじゃないんだからな。」
「どれくらい勉強するんですか?」
「うーん……五時間、かな。」
『五時間!?』
いつも隅っこで本を読んでいる子でさえ、その言葉に顔をあげて驚いた。
「五時間、ですか……すごいですね。その時間も、それだけやって留年しまくってる先輩の頭も。」
「うるせー…公式とか見ても右目から左目に抜けてくんだよ」
『どうやって?!』
教科書は両目で見るものだ。
『私…、自分は物覚えが悪いと思ってたけど、なんか自信が出てきたわ。」
『俺もだ。』
「ま、とにかくよろしくな。楓良」
「あ、はい」
将来に不安を覚えていた思春期クラスメイト達に希望を与え、騒動は終わった。
そして次回から「楓良と雄介――ドキドキ☆初デート」編に入ります(笑)