3.3年目3年生の最初の災難
「そんなわけで、今年一年間このクラスを担当させていただく雨宮優香と言います。よろしくね、みんな。」
黒板に名前を書き、微笑み(ウインクつき)を浮かべて自己紹介する優香に、3-A中の男子たちが鼻の下をびろ~ん、と伸ばす。
その光景を見て、雄介は感心した。
(やっぱ……担任の先生が美人だと、こうなるもんなんだなぁー……。)
四年間、美人どころかごっつごつの岩男が担任だった雄介には、初めての光景だった。
「じゃ、先生の自己紹介も終わりましたので。右端の人から順に、自己紹介していってください。」
「はぁ~いvV」
とてもうれしそうな声で返事をする男子生徒達。何と分かりやすい青春期。
「……出席番号一番、青木――」
美人でかわいい先生にでれでれする男子たちをじっとりとした目で見ながら、右端の女の子が自己紹介を始める。
(ああ、みんな青春してるんだなぁ……。)
とっくに青春期を終えた雄介は、複雑な気持ちでクラスの様子を見ていた。
雄介の名字は幽霧。だいぶ後のほうだ。
(……よし、寝ることにするか。)
そして……。
「……なあ、楓良……。」
「は、はい。先輩……。」
「なんで……なんでさぁ……」
だれもいない教室を悲しい目で見渡して、雄介はつぶやいた。
「俺が起きた時にはもう……自己紹介どころか終礼までおわってんだ……?」
教室内に差し込む赤い光はさびしく、開きっぱなしの窓から聞こえる鳥の声は「あほー」と聞こえた。
「……。……えーっと……。」
「おかしいだろ!? そりゃ、寝てた俺も悪いよ!? でもさ、初めてなんだから一回くらい起こしてくれてもいいじゃねーか! つか、お前もなに放置してんだよ! 隣の席だろ!!」
楓良は困ったように首をすくめた。
「……いや、起こそうとしたんですけど……。」
「じゃあなぜ?!」
「クラスのみんなに『すでに知ってるから自己紹介の必要なし』といわれ、反論できず……。」
「……。……。……納得できるようなできないような……。」
でも確かに、それなら反論できないな。雄介はそう呟いて、机に突っ伏した。
「三年目の三年生も、しょっぱなから台無しだぜ。」
「台無し、って……今年はちょっといいものにしようと思ってたんですか?」
「いや。そんなこと、これっぽっちも思ってねぇよ。」
ただ、と、雄介は微笑んだ。
「俺は三回経験してるけど、お前にとっては初めての三年生だ。……楽しめよ。」
その言葉に、不覚にも楓良は、ドキッ としてしまった。
こういうことがあるから、この先輩は嫌いになれない。
むしろ、好きだ。
「……先輩……。」
「そういえば楓良。学級委員長はだれになったんだ?」
その言葉に、また別の意味で楓良は、ドキッ としてしまった。
「……。」
「ん、どうした? 急に黙りこくって。あ、さてはお前、推薦されたな? もう一人は誰だ?」
「……です……。」
「え? なんだって?」
「先輩、です……っ!」
「……。……は?」
眉をしかめ、楓良を見る雄介。楓良はその視線をよけて、小さな声で、いった。
「学級委員は……先輩の言うとおり、推薦によって私と、同じく推薦によって先輩に決定しました。」
「・ ・ ・」
教室内の時間が止まった。
外のカラスが三回鳴き、秒針が一回転したころ、雄介は教学と困惑とふざけんなの混じったなんともいえない表情で、
「はぁぁぁぁぁーーー!?」
叫んだ。