1.拝啓、お父さんお母さん。僕は、また――
ひらり、と春の桜の花びらが地面に落ちる。
ポカポカと温かい、春の日差し。花のにおいを運んできてくれる、やさしい風。
拝啓 父さん。母さん。お元気ですか?
僕はまた、留年します――
「って、なにちょっとカッコイイ(?)冒頭文で堂々と恥ずかしいこと言ってんですか先輩っっ!」
「ん?……ああ、楓良か……」
「そんな晴々しい顔で涙を流さないでください! わたしのほうが悲しいくなりますよ、もうっ!」
うっすら涙を浮かべて悟ったようにつぶやく幽霧雄介に、彼の二歳下にあたる彼の後輩――杉山楓良は本当に悲しそうに突っ込んだ。
私立、誠光学園。都内でも難しいと評判のあるこの学園にギリギリの成績で入学した雄介は、留年を繰り返すこと早二年。彼が初めて三年生になったころにこの学園にトップの成績で入学した楓良(もちろん、雄介よりも頭がいい)と同学年になってしまった。
「いやー……。とうとう同学年になっちゃったね、俺ら。クラス、一緒になったらいいなぁ。」
「まったくもって常識から外れた会話を笑顔でしゃべらないでください。」
顔に縦線を入れつつ、楓良は、はぁ、とため息をついた。
「神風先輩もあきれてましたよ?『まさか幽霧先輩より先に卒業するとは思わなかった』、って。」
「ちっ、神風め……。この俺様を差し置いて」
「それは貴様の成績のせいだろう。後輩……いや、同僚いびりはやめろ、幽霧」
雄介が悔しそうにこぶしをぎゅっ、と握る。すると背後から突然声がして、雄介は頭をポカン、と殴られた。
「ぐわぁっ! こ、この声……貴様、大魔王か!?……て、いったぁー!」
「だれが大魔王か。しっかり雨森先生と呼べ。また留年されたいのか。」
雄介を殴ったのは、五年連続で雄介の担任を務める雨宮剛史だった。別段生徒から人気がないわけでもあるわけでもないこの先生を大魔王と呼ぶのは、学年主任であるこの教師の手によって毎年留年させられてる雄介くらいだった。
「あの、雨宮先生」
「おお、杉山か。そうか、お前もとうとう三年生になったのか……。懐かしいな、入学した当時のお前の顔。学年代表として演説してたよなー……」
雨宮は懐かしそうに目をつむった。二年という時間は短いようで長い。ちなみに五年という長すぎる記録を持っている雄介の入学当時の顔などは、いくら記憶力のいい雨宮でもすでに記憶の彼方だ。
「おい……。俺を忘れてないか、二人とも」
「あ、いや。別に忘れてたわけじゃ……」
「記憶にないな」
「ちょっ……お前それでも教師かーーっ!」
「こういうときだけ『教師』か。さっき『大魔王』とか言っていたくせに。」
食ってかかる雄介を、雨宮はさらっ、と受け流す。だいぶ慣れているのだろう。
それをみて、楓良はおもわず吹き出してしまった。
「な、なんだよ楓良! お前まで俺をバカにする気かっ!」
「い、いやその……。そ、それより先輩! もう八時ですし、早くクラス票に行きましょうよっ」
楓良は雄介の腕を引っ張り、先生に軽く頭を下げて校舎のほうへ駆けて行った。
はじめまして。あるいはお久しぶりです。優癒です。
旅唄などいろいろな連載小説をほっぽってまた連載始めちゃいました……。浮気性なんです。ゆるしてっ!
うちの知り合いが留年の瀬戸際にいると聞いて、突発的に思いついた学園ネタです。ほとんどをギャグで占めるつもりなので、どうぞお付き合いください。