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【連載版】地方に追放された伯爵令嬢は、子爵の夫と第二の人生を幸せにすごす  作者: 森田季節
第1部 落ち目の伯爵令嬢は、田舎の子爵の元に向かう
9/41

9 お互いの過去

「え! どうして、そう言い切れるんですか!」



 私はびっくりして聞き返した。



「冗談でも暗殺の話など、軽々しくしちゃダメだ。それは成功の目で9割近くになってからやること。実際、ティエラは計画に無理があると強く反対して、王子が暗殺の話を出した事実だけが残ってしまった」



「王子とその婚約者の侯爵令嬢も人払いはしていたんですが」



「気休めだね。人払いをするならその監視を全幅の信頼をおける家臣に任せるぐらいでないと。漠然と、部屋に寄りつかないように言っておく程度では何の意味もない。むしろ、密偵でもいれば、人払いをする必要がある話があると思う。逆効果のおそれすらある」



 そういえば、あの時、聞いている者がいないかの監視を徹底していたわけではなかったと思う。



「王太子という地位なら、常に天井で誰かが聞き耳を立てているぐらいの気持ちでいたほうがいい。地下に貯蔵庫があるなら、そこから聞かれている危険もある。とにかく、いずれ『王を殺したいと王子が思っていること』は漏れる」



 言われてみれば、王太子の動向ぐらい、誰かが見張っていてもおかしくないのか。



「たしかにティエラが誰かに告げたとしても、証拠が何もないから王子が危地に陥ることは考えづらい。だから王子もティエラに言ったんだろう。それでも、王を殺す意思があること自体を仲間と言い切れない相手に知らせる時点で論外だ」



「……やけにお詳しいんですね」



「このあたりは、まだまだ家督相続がもつれればたくさん血が流れる土地だからね……」



 オーキッドは頭をかいた。



「とにかく、ティエラの状況はよくわかった。少なくとも、当面王都には戻らないほうがいい。王子たちの派遣した追加の暗殺者が来るとは思えないけど、仮に来たとしても、村の中に不審な者がいればすぐにわかる」



「ありがとうございます。たしかに、これで王都に戻れば確実に殺されますよね。王子が王を殺そうとしたとしゃべりに来たと思われますから」




 戻るつもりがなかった王都に戻れなくなったのは、ふんぎりがついてよいかもしれない。



「さて、ティエラにいろいろ聞いたから、次は僕が話す番だけど……」



 オーキッドがためらっているのがすぐにわかった。



「仕事で多くの人を殺してきたので、言いづらいのだと思いますが、遠慮は不要ですよ」



「えっ! 僕はまだ何も話してないんだけど……」



 今度はオーキッドのほうが驚く番だった。



 もっとも、こちらとしては答えを見せつけられていたようなものなのだが。



「山賊を倒すところを目の前で見ていたんですよ。あれは領主が戦場で戦う時のものではありません」



 もう少し、考察を続けるとしよう。



「大昔の戦記でも、兵を所有してない小領主が自分の身一つで戦ったという記録は多く残っています。オーキッドは、そういう立場の方だったんですよね。そして生き残るために、戦い方が今のものになった。その過程まではわからないんですが」



「うん、僕の親もそんな立場だったそうだ」



 オーキッドは苦笑した。



「幼い頃に父母を亡くした僕は、このナクレ州の大貴族、深山しんざん伯のところで養われた。養われたといっても、何かあった時に飼われていたというのが実情だね」



 そこからのオーキッドの言葉はショッキングなものだった。



 深山伯家で家督争いが起こると、オーキッドは敵対陣営の有力者を殺して回る仕事をやらされた。



「まだ十代だったし、無名な小領主だから存在も知られていない。それに失敗して殺されたところで、小領主が一つ断絶するだけだ。使い勝手がよかったんだよ」



 オーキッドは笑いながら話しているが、それは想像を絶する地獄の日々だったはずだ。



 失敗すればそのまま自分の人生は終わるのだから。



「あの、先ほどの戦闘の技術はどこで学ばれたんですか? あれは領主が誰でも教育させられるものではないはずです」



「ほとんど、独学で覚えた。覚えてなければ今頃、ここにいない」



 オーキッドは左手を首の前に横に動かした。首が飛ぶというジェスチャーだ。



「どうにか、家督争いは僕の所属する陣営が勝って、深山伯を継いだ。彼はまだ16歳だけど、地位を継いだ時は11歳だった。報奨を与えるとおっしゃったので、この役目から解放してほしいとお願いした」



 5年前ということは、今のオーキッドが21歳だから、暗殺者さながらの生活を16歳まで続けていたということか。



 言うまでもないことだが、私より不幸な人間もこの世界にはいくらでもいたということだ。



「深山伯もその側近も、所領を大幅に加増するとか、重臣として取り立てるとか提案してくれたけど、さすがに疲れた。それに、加増される所領は僕が当主を討ったことで滅んだ領主のものだ。そんなところの領主になっても、命を狙われる」



「それで、オールモット村に戻ってこられたんですね」



「この5年は本当に平和だよ。小さな村なので、変化らしい変化も何もない。仇討ちに来られたこともない。まあ、これが僕の正体さ」



 そこまで言うと、オーキッドは少しワインを口にした。

 正体という表現が妙に頭に残った。



「僕は恐ろしい暗殺者だ。気味が悪いなら結婚は諦めたほうがいい」

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