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【連載版】地方に追放された伯爵令嬢は、子爵の夫と第二の人生を幸せにすごす  作者: 森田季節
第1部 落ち目の伯爵令嬢は、田舎の子爵の元に向かう
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4 遠方の州を目指して

 遠方の領主との婚約を命じられた三日後、私は王都の城門を抜けて、東部へと旅立った。



 馬車や御者の一部は王子が出してくれた。



 ありがたいことではあるが、私は王子の性格を知っている。これは王子が支援しているのだから、婚約解消などという愚かなことは考えないようにという意味だろう。



 そう、私はまだ婚約者であって、結婚はまだなのだ。それなのに、後ろの馬車には私の「嫁入り道具」が明らかに積み込まれている。



 薬草伯家としても、婚約を解消して戻ってくることなど認めないということなのだ。



 私の人生は本当に流されてばかりだな。





 オーキッド・ハルクスという子爵は標高の高いところにある山里を一つ持っているだけの弱小地方貴族らしい。



「らしい」というのは、王都で調べてもほとんど情報が出てこなかったからだ。



 独立した子爵とはいえ、事実上、地方の大領主に臣従しているのではないか。



 ならば、個別に王都と接点を持つこともないから情報も入らないだろう。



 王都にいたところで幸せになれるとも思えなかったし、流刑に近い扱いを受けても絶望はしない。私には希望がないからだ。希望がなければ絶望もない。



 ただ、懸念点はある。



 東部の領主は今でも家督相続がもめれば、小規模な合戦になることは珍しくないと聞く。



 オーキッドという領主も血の気の多い男かもしれない。

 とくに拳が飛んでくるような男は勘弁してほしい。



 その点、薬草伯家の父は私と正妻の子供との間に差はつけたが、暴力を振るうことはなかった。



 それと……侯爵令嬢の「消えてもらう」という言葉だ。



 たんに遠方に飛ばす以上の意味が込められてるような凄みがあった気がしたのだけど……。








 オーキッドという領主のいるナクレ州は東部といっても山岳地帯で、6日ほど東部街道の馬車の進みやすい道を通った先で4日北上することになる。



 そこにオールモット村という村があり、そこがオーキッド・ハルクスの所領らしい。



 村一つが全所領というのは、王都に暮らす薬草伯家にとってですら、ずいぶん小さな規模だ。薬草伯家でも村なら20以上は所有している。



 といっても、そもそも村が貴族の所有単位に使われることなどない。



 普通は荘園の数や郡の数がおおまかな規模を知る。荘園1つの中にいくつも村があるのが自然だし、荘園は規模がまちまちだが、おおまかにいって3つほどで1郡に相当する。



 郡がいくつも合わされば、州になる。州を支配していれば、地方の大領主と考えていい。




 とにかく、村一つを支配しているだけの貴族なんて、あまり聞いたことがない。それは大貴族の身分の低い家臣ではないかというレベルなのだ。



 むしろ、大貴族の家臣のほうが立場も楽だろう。

 ナクレ州なら、州の大半は深山しんざん伯が治めているはずだ。そこで深山伯と無関係な独立した領主としてやっていくのは軋轢あつれきも多いのではないか。



 もっとも、軋轢なら私も王都でさんざん経験してきたし、今更か。








 北へと向かう道は細いところも川に転落しそうなところもあり、あまり整備もされていない。



 馬車が川に転落しないでくれよと願いながら、私は酔いに耐えた。



 川といっても王都近くを流れる大河ではなくて、滝のような急流だ。落ちたら、流される前に岩に叩きつけられて絶命するかもしれない。




 どうにか事故もなくナクレ州に入り、ようやく子爵の治める村落が近づいてきた。




 日も暮れてきたが、これなら残り1時間ほどで村落につけるだろう。



 だが、そんな時、突然、馬車が止まった。



 何か嫌な予感がして、馬車の幌から顔を出した。



 5人組の山賊らしき風体の男がそこにいた。



 道の左側は谷川へと落ちる崖、右側は木々の生えた斜面で、連中はそこから降りてきたらしい。



 変化はそれだけではなかった。



 すぐに御者が馬を置いて、走って逃げていった。ほかにも逃げ出す供の者がいた。



 逃げようとすること自体は自然の反応だが、やけに手際がよすぎる。普通はパニックになると、人間は硬直するものなのに。それに王子が派遣してくれた者ばかりのような……。



 その違和感はすぐに証明された。



「悪いが死んでもらうぜ。アルデミラ侯爵令嬢に依頼されてるんでね」



 侯爵令嬢は最初から私を殺す気だったのだ。



「処刑したい奴を流刑の途中で殺す、古来からよくある例だろ」



 なんでそこまで? と思ったが、暗殺の話を聞かせたのだし、念には念を入れようということなのだろう。




「ん? やけに落ち着き払ってるな。どういうこった?」



 山賊の一人が不思議がった。



 理由は簡単だ。私は諦めているからだ。



 これまでが、ことさら恵まれていたとも思えない。

 また似たような不幸がやってきたというだけのことだ。



 谷川へと身を投げれば辱しめを受けることなく、死ねるだろう。ここまで進退窮まったからには、それしか道はない。



 私はゆっくりと谷川の崖へと近づいていった。

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