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【連載版】地方に追放された伯爵令嬢は、子爵の夫と第二の人生を幸せにすごす  作者: 森田季節
第4部 雪が積もるところでの生活

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37 廃嫡されてもかまいません

 数日がたっても、ヘルティアはオールモット村に来た当初の遠慮がちな態度を崩すことはなかった。



 毎日、薬草店についてこさせるわけにもいかないし、空き時間はオーキッドが険しくない道経由で狩りを披露したり、私が村を案内したりした。



 これには先にヘルティアを紹介してしまって、根も葉もない噂までは生まれないようにするという意味合いもあった。




 そのうち、ヘルティアの態度にも変化が現れた。横暴になったわけではないが、だんだんと笑顔が増えてきた。



 村での時間が長くなって、緊張が緩和されたということだろう。



 実家がヘルティアにどういう沙汰を下すのか見当はつかないが、かといって村の中でつまらなそうにするメリットはヘルティアにもないのだ。



 ヘルティアが来たことは実家に隠しておくわけにもいかないので(それでは私まで罪に問われかねない)、すでに王都に使いを送っていたが、その使いが帰ってくるまで、早くても10日以上かかる。



 使いが来た直後にヘルティアの処遇を決めて対応するとも思えないから、二週間は猶予があると考えていい。



 逆に言えば2週間はヘルティアは宙ぶらりんの時間が続くとも言えるのだが、そこまで不安そうな顔を彼女は見せなくなった。



 むしろ、サニアに冗談を言ったりするような姿まで見えた。





 




 ヘルティアがこちらに来て10日後、私は考えがたい彼女の姿を目にした。



 なんとヘルティアがサニアの掃除を手伝っているのだ。



 濡れた雑巾を持って歩いているヘルティアと廊下で出会った。



「あなた、どういう風の吹き回し? まさか、変なキノコでも食べたりしてないでしょうね? キノコの中には幻覚性のあるものが混じっているって習ったでしょう?」



「そんなもの食べてはいませんわ。客人というよりわたくしは居候の身だから手伝いもしようと思い立っただけです」



 そのままヘルティアは雑巾で壁を拭く。



「あなたがやるというなら止めはしないけど」



「では、このままやらせていただきますわ」



 笑いながら、ヘルティアは答えた。昔のような鼻につく態度の笑い方ではない。もっとやわらかいものだった。



 ずっと妹と敵対するメリットもないのだが、和解に至る原因がいまいちわからない。



 居候であるヘルティア側が下手に出るしかなかったのは事実だが、それは居心地の悪さの元にはなっても、関係改善には役立たないだろう。



「あの、これまでのあなたとずいぶん生き方が変わったようだけど、どういうつもりなのかしら?」



 こう尋ねたのは率直に言って、ここまでヘルティアの態度が昔と違うと、気味が悪かったからだ。



 心を入れ替えてくれてうれしいと呑気には言えない。何か裏があるのでは思ってしまうし、まだそれぐらいならいいものの、精神に作用する薬草でも服用していたら大問題だ。



「こちらに来てから、お姉様の生活を見ていましたわ。とくに薬草についての部分をです」



 掃除の手は止めずにヘルティアは続ける。



「それで思ったんです。お姉様はわたくしが漠然とイメージしていたよりもはるかに立派だと。わたくしではかないもしないほどの能力を持っていると」



「まあ、そう言ってもらえるなら悪い気はしないわね」



「それで……わたくしの中にあった敵愾心が壊れていったんですわ。お姉様のことをわだかまりなく尊敬できるようになったのです」



 ヘルティアの表情は無理をしているようには見えない。

(信じがたくはあるが)本当にそう思っているらしい。



「じゃあ、感謝のしるしに掃除を手伝っているということかしら?」



「いえ、これは手持ち無沙汰だからといったほうがいいですわね。大人の使用人ならともかく、サニアちゃんはまだ10歳というじゃありませんか。一日中働かせているわけではないとしても、自分が何もしてない横で彼女が働いていれば気をつかいますわ」



 その気持ちはわからなくはない。



「それと、まだお父様からの返答は届かないとは思いますが……」



 ヘルティアは私のほうに顔を向けた。

 相変わらず、表情は落ち着いたもののままで。



「自分が廃嫡されて、お姉様が嫡女の地位を継承しても恨んだりはいたしませんとだけ先に言っておきますわ」



「ヘルティア、別に私はそんな地位を求めてはないわよ! だいたい、嫡女も何も私には夫がいるし。オーキッドが今から薬草伯を継ごうとしてもそれこそ薬草について学ぶのに10年はかかるわ。できるわけがない」



「あくまでも、そういう事態になったらというだけのことです。家出までしたのだから廃嫡されることもありえますし……それに、むしろそうなるべきだと思ったんです」



「どういうこと?」



「お姉様のような薬草学の知識がわたくしにはちっとも足りていません。薬草伯の地位は自分の婚約者か弟が継承するものかもしれませんが、だとしても、薬草伯家の人間としてはわたくしは不適当なんです。お父様のおっしゃった言葉は正しかったのですわ」



 ヘルティアは本気でこう言っている。



「だから、わたくしは勘当されて生きていくのでも、かまわな――」



 その時、急にヘルティアの力が抜けたように見えた。



 ぺたりとヘルティアが床に倒れ込んだ。

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