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【連載版】地方に追放された伯爵令嬢は、子爵の夫と第二の人生を幸せにすごす  作者: 森田季節
第4部 雪が積もるところでの生活

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35 部外者がいる店

「ティエラ薬草店」は常にお客さんで大にぎわいという店ではないので、お客さんが店にいない時間のほうが長い。



 大にぎわいだったら地域が病人だらけということだから、あまり繁盛されるのも困るのだ。



 なので、妹のヘルティアと二人でいる時間がどうしても長くなる。



 いきなり乗り込んできたヘルティアのほうがよほど気まずそうな顔をしているが、こっちも平常心ではいられない。



 少なくとも一人、人間が多いわけで、それだけでもリラックスできないのは間違いない。



 ヘルティアのほうも押しかけて椅子で眠りこけるほど肝は据わってないようで、やたらときょろきょろ店の中に視線をやっている。



 その視線が私の薬の調合のほうに向いた。

 こちらは乾燥させた葉と根を砕いて、瓶に入れていく作業中だった。



「お姉様、ずいぶん手慣れてらっしゃいますわね……」


 

「そんな特殊な技術でもないでしょう? これも簡単な強壮剤です。強壮剤といっても、体への影響も知れているので気休めといったものですけど。副作用みたいなものもないので、王都でもよく練習用に作らされました」



「そういうものなのですわね……。わたくし、あまり実践をしたことがないので……」



「まあ、知識をしっかりと蓄えてから、実践に移るという考えもありますからね。私はまず植物をいじって、そこから知識を得る側だったんだけど」



 薬草の効果というのは、種類によってまったく独自のものばかりということは少ない。


 たとえば胃腸に効く薬草や、発汗をうながす薬草はいくつもある。特定の効果しかないものも少なくて、たいていいくつもの薬効がある。植物は薬になるために生まれてきたわけではないからだ。



 なので、効果と効能を丸覚えしようとしても頭の中で混乱してしまうということは多いのだ。断定的に言えるほど、多くの薬草学者と会ったわけではないから、実際のところはわからないけれど。



 なので、私は早いうちから実際の植物をいじることで、知識を頭に入れていった。



 直接、自分で触った植物ならそうそう忘れることはない。



 そして、できれば調合もしていく。どの薬草と薬草を足せばいいのかという実験は、ろくに親が遊んでくれないのもあって、私のいい遊び相手のようなものだった。



 その根幹の部分は、ここでお店をやっている今も変わらない。



 たまにお店にお客さんが来ると、それに合わせて薬を作る。



 たとえば、生薬が必要な場合はその場で植物をすりつぶしたり、根をスライスしたりして、その分を渡す。



 相手を目の前に待たせているわけだから、スピーディーに、かつ分量を間違えたりしないように慎重に。



 このあたりも毎日やっていることだから、大きな失敗はない。



 ただ、こっちが適切に薬を作っても、相手が変な飲み方をすれば問題が出るから、そこははっきりと伝えておく。

 今日もこんなことがあった。



「いいですか? 食後に飲んでくださいね」



「食事前に飲んだらどうなるんだい? 死ぬんですか?」



 こういう質問も慣れっこだ。専門の知識がなければよくわからないのは仕方がない。



「そんなに危険な毒性があるなら、食後に飲んでもどっちみち死にますよ。この薬草はなかなか効果がきついんです。だから、まず食事をして胃にものが入ってる時に薬も入れてしまうんです」



「ああ、そういうことですか。わかりました。必ずそのようにします」



「はい、お大事に。あと、もし明らかに体調が悪くなった場合は、町までお医者さんを呼んでください。薬草では急な悪化には対処できませんからね」



「奥方様、ありがとございます」



 お客さんにまで奥方様と呼ばれるのはなかなか慣れないが、狭い村だし、私を単なる店主と見なすことも難しいのだろう。



 そんな応対を何件かやっているとお昼休みが近づいてきた。



 いつもなら、今日はどんな昼食が用意されているだろうと楽しみになる時間だ。どの家からおかずが届けられるかでメニューや味付けがいろいろと変わるからだ。オーキッドやサニアが何かを作っていることもある。



 だが、今日は妹を紹介しないといけないので、その分、気が重いな……。



 かといって、これは逃げられるものじゃないので、どうしようもないのだが。



「やっぱり、お姉様は薬草学に関してはほんとに詳しいんですわね。こうやってそばで見ていて実感いたしました」



「これでもお父様が見たら激怒したかもしれないけどね。少なくとも、私は貴人に薬草を処方するほどの気配りはないと思うし。この調子で陛下に薬草をお出しすることはできないでしょうね」



 私はあくまでもオールモット村という小さな村だから許されている面がある。



「これが王都なら薬草の処方でもベテランがもっといるし、私もそのベテランからより適切な調合の配分などを学べるだろうけど、そういうチャンスもここではないし、やれるだけのことをやっているの。今のところ、苦情は来てないから良しとするわ」



「十二分に立派です。わたくしだったら、症状を聞いても、この薬草とこの薬草を混ぜればいいだなんてとてもとっさに出てこないですもの」



「でも、あなただって薬草の基本的な知識は持っているでしょ。でなければ、お父様がもっと怒っていただろうから」



 ヘルティアは首を横に振った。



「漠然とした知識があるだけで、それを間違いなく言葉にすることもできなければ、まして実際に人に処方するなんてまだまだですわ。だからずいぶんお叱りを受けましたの」



 想像はついていたが、父に何か否定されたのか。



 と、ヘルティアのおなかが、ぐぅ~と鳴った。



「もう、礼儀も何もあったものではありませんわね……」



 ヘルティアは顔を赤らめた。



「では、お昼ご飯を食べにいきましょ。面目よりもまずは腹ごしらえね」

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