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【連載版】地方に追放された伯爵令嬢は、子爵の夫と第二の人生を幸せにすごす  作者: 森田季節
第4部 雪が積もるところでの生活

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34 意外すぎる来客

 雪景色も最初のうちはかっこいいなと思っていたが、毎日のように見ていると次第に見飽きてきてしまった。



 とっとと春が来て雪解けの季節にならないかと思ってしまう。



 そんなことを考えながら、私は「ティエラ薬草店」までの道を下っていった。



 薬草店の生活も板についてきて、だいぶ慣れてきた。



 お客さんがいない時間で薬草を陰干ししたりして、お客さんが来たら応対をする。その繰り返しなので慣れもする。



 もちろん初めて来るお客さんや体調に大きな問題があるお客さんには丁寧に対応しないといけないが、お店を続けるうちに、日常的にこの店を使うお客さんの割合も増えてくる。



 そうなると、お互いに勝手知ったるものだから、接客の時間もたいしてかからないというわけだ。



 気持ちが弛緩する面もあるが、このままだらだらできるのはありがたいし、ずっとこうしていたいな……。



 と、ドアが開く。



 今日最初のお客さんだ。



「いらっしゃいませ。どういった御用ですか?」



 そこまで言って私の顔は固まった。



 よく知っている人物、しかもこのオールモット村にいないはずの人物がそこにいたからだ。



 私の妹のヘルティアがそこに立っている。



「お久しぶりですわ。お姉様がお店をやっているというのは手前の村などでも聞いたのですが、本当だったんですね」



「ええ。このように仕事をしているのよ。なかなか上手くいってるのだから」



 こんなところにまで来て、私を笑おうというつもりなのだろうか。



 たしかに常識的に考えれば、貴族の妻が客商売をしているというのは異様ではある。

 それは生活に余裕のない証拠みたいなものだ(そして、実際に裕福というわけではない)。



 だが、異様だろうとなんだろうと私は楽しくやっているし、多くの人の役にも立っている。常識から違うというだけで笑われてたまるかと思う。



 嘲笑に対してははっきりと反論してやろう。



 だが、ヘルティアの姿は遠くから来たというのもあるだろうが、そこまで立派というものではなかった。



 服は上等な生地を使ってはいるが、どこかくたびれているのだ。それは使用人が整えたりしなかったことを示している。



「お姉様、恥ずかしながらお願いがあるのですが……」



 ヘルティアはうなだれたような態度で、むしろ自分自身が羞恥を耐え忍んでいるという顔をしている。



「お願い? 今の私ができることなんて、ほとんど何もないと思うけど。あなたも知っているように、私が嫁いだ家には権力なんてものはないし」



「いえ、権力などは関係ないんです……。しばらく泊めていただけませんこと……」



「泊める? それは不可能ではないけれど、満足のいく待遇を求めるなら、この街道を北にいって、宿場町の高級宿に宿泊することをおすすめするわ。私の住まいは何人も使用人がいるような環境じゃないから、あなたの応対もいいかげんなものになるわよ」



「そんなことは求めてないから構いませんわ……。それに高級宿を使い続けられるほど、お金に余裕もありませんから……。ろくに準備もせずに飛び出してきてしまったので……」



「あなた、まさか、家出をしてきたというの!?」



 ほぼ確信がついた。

 そもそも、それぐらいの理由でしか、ヘルティアがやってくるわけがないのだ。



「そういうことですわ。長く逗留できる場所といえば、お姉様の嫁ぎ先ぐらいしか思いつかなかったんです。遠方の領主の友人がいるわけでもありませんし……」



 これを追い返そうものなら、さすがに恨まれても仕方ない。



 私は深く嘆息した。仕事にも慣れてきたと思ったら、こんな爆弾が降ってくるのか。



「わかったわ。ただ、すぐにお店を閉めるわけにもいかないし、あなた一人で屋敷まで行ってちょうだい。まだ子供ですけれど、使用人が一人いるし、私の夫も狩りからそのうち帰ってくるから応対はしてくれるはずだわ」



「それなら、お姉様のお仕事が終わるまで待ちますわ」



「待つって……。お昼休みに一度戻るとしてもまだ三時間はあるけど」



「王都から落ちぶれてやってきた伯爵の娘ですと自己紹介するのは悲惨ですもの……。せめてお姉様がいてくれないと苦しいですわ……」



「気持ちはわからなくもないけど、あなたと私はお世辞にも仲がいいとは言えないでしょう。私をそんなふうに信用していいの?」



 母親が違う姉妹は反目しやすいそうだが、私たちはまさにそうで、はっきり言ってヘルティアにはずいぶん意地悪もされた。



 意地悪といっても言葉によるものばかりだが、だからといって許しているわけではない。



 もっとも、薬草学を学ぶものとして、呪いだなんて不確かなものを使って苦しめようと思ったことはないので、嫌な妹がいたなとたまに思い出すぐらいだったが。



 妹は覚悟を決めたように私に顔を向けると、ゆっくりとその場で頭を下げた。



「お姉様、これまでの数々のご無礼は謝罪いたします。足りないと言うなら、打擲ちょちゃくの数回ぐらいは我慢いたします。どうかご容赦を……」



 私は自分の顔に手を置いた。



 まさか、こんな日が来るとは。



「やめて。こんなところにお客さんが来たら私の品位まで下がってしまうわ。とりあえず、こっちに入ってきて、そこの椅子にでも座って暇をつぶしてなさい。村を散策するのでもいいけど」



「いえ、噂になりますから、ここでじっとしていますわ」



 小さな村なのだから、どうせ噂にはなると思うけど……。



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― 新着の感想 ―
[一言] せっかく平和だったのに面倒臭いのがきましたね(苦笑
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