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【連載版】地方に追放された伯爵令嬢は、子爵の夫と第二の人生を幸せにすごす  作者: 森田季節
第4部 雪が積もるところでの生活

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31 料理を覚えてみる

 冬場はそれまでと比べると、薬草採取で出歩く時間が少ない分、自由時間が多い。



 もちろん薬草学の本を読みこむのにも使うが、どうせならこの時にしかできないことをするのも悪くないと思う。



 それで思い至ったのが、食事だ。



 その日の昼食は薬草店に「お昼休み」のプレートをつけて、屋敷まで食べに帰っていた。



 我が家の料理は豊富だ。凄腕の料理人がいるのではなく、村のいろんな料理上手が領主であるオーキッドのところまでおかずを持ってきてくれるせいである。



 オーキッドは鳥獣をたくさん獲っては村に提供するので、そのお返しが日常的に行われるのだ。



 その中に、見慣れない料理があった。

 シンプルだけど、熱々のスープだ。



 スープも鍋に入れて、持ってきてくれる人もいるが、こんなに熱々ということはないはずだ。



「あっ、それはサニアが作りました!」



 答える時に、サニアの背がぴんと伸びた。



「ありがとうございます。寒い冬は体が温まるものがあるといいですからね」



 口にしてみると、味は少し塩辛いが、悪くない。鶏肉の味もよく出ている。白ニンジンもほくほくとおいしい。



「奥方様、お口に合いましたでしょうか?」



 皿を載せる盆を抱きしめるようにしながら、サニアが言った。



「サニアは料理もできるんですね。とってもおいしいですよ」



「ありがとうございます! お母さんの手伝いをすることがあるので、少しはできます!」



 やはり幼い頃からやっていると、手慣れてくるものなのだろう。



 オーキッドも好感触らしい。オーキッドの顔を見ればすぐにわかる。



 その時、ふと思った。



 私もこの冬に料理を覚えるというのはどうだろうか。



 そもそも料理は薬草の調合と似ているところもあるし、やってみれば意外と私に合っているのではなかろうか。



「あの、私、料理を学ぼうと思います」



 私は自分の目標をはっきり広言した。こういうのは逃げ腰にならないためにも、宣言したほうがいいのだ。



「たしか、ティエラって薬草伯家にいた頃は、料理を許されてなかったんだよね」



「そうです。貴族のはしくれなんだから、そういったことは使用人に任せろと言われていました。その時間は薬草を学ぶ時間に充てろと」



 おかげで、薬草学に関してはそれなりの知識を入れられたとは思うので悪いことばかりではないが、どうせなら少しは料理もできたほうがいいだろう。



 貴族が料理をするのは恥ずかしいという価値観は、この屋敷の中では通用しないのだし。



 まして、家長であるはずのオーキッドが料理を作るのだ。

 本格的な料理は村の人の厚意に甘えていることが多いが、朝食を中心に簡単なものならオーキッドが作ってしまう。



 つまり私はオーキッドに料理を一方的に作らせる形になっている。



 オーキッドが何とも思ってないことは知っているが、バランスが悪いことは解消したい。というか、自分で料理を作って、食べてくれた人に「おいしい」と言ってもらえたら、きっとそれはうれしいだろうと思うのだ。



「料理と薬草学は似ている気がするんです。塩、サフラン、ローレル、そうったものの量で味も変わりますよね。そこは薬草学と同じです」



 オーキッドの顔が少し曇った気がしたが、いちいち理由を問うのはやめておこう。



 おそらく変な味の料理を作ってくるのではないかと警戒したのだろう。



 私が初心者なのは明らかな事実だから、その懸念はわかる。



 だが、逆に言えば、私が懸念を払拭するような料理を提供すればすべて解決する。



「では、奥方様、サニアが初歩のことならお教えいたします」



「いいえ、サニアの手を煩わせるつもりはありません」



 私は右手のひらを広げて、「不要」のジェスチャーをした。



「私は薬草学に関してはお店をやれるぐらいの腕はあります。料理もその経験を元にすればどうにかできると思うんです」



「最初のうちは確認したほうがいいと思うけど……」



 オーキッドはやはり慎重派らしい。



「ご心配には及びません。それに自分の実力がどの程度のものか知ることも大切かと思いますし」



 こうして私は翌日、料理に挑戦することにした。



 ちょうど薬草店も休みの日だし、お昼に料理を出すとしよう。




〇 〇 〇





 さて、料理と言ってもいろいろあると思うが、どうせなら自分らしい料理にしようと思う。



 となると、薬草をいろいろ使ったものになる。



 だいたい、肉料理だと、肉の質で味が決まってしまう。肉を焼くのにも技術は関わってくるだろうが、かといって質の悪い肉を質のいい肉に変えるようなことまではできない。



 私は食用にできる薬草をいろいろと台所に持ってきた。



 薬草と言っても、陰干ししたものや、すでに調合した瓶に入れたものではない。いくら料理に慣れてないからといって、そんなものは使わない。



 野菜のカテゴリーに入れても問題ないようなものだ。



 そもそも、野菜と薬草はまったく重ならないものではない。むしろ野菜はすべて薬草の効果があると言ってもいい。

 問題なく食べられる時点で、それは健康にいいようなものだからだ。



 だから私が作る料理は普段使う野菜の範囲を拡張したものである。



「あまり食卓に上らない野菜・野草をたくさん入れた、健康スープを作ります!」


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