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【連載版】地方に追放された伯爵令嬢は、子爵の夫と第二の人生を幸せにすごす  作者: 森田季節
第4部 雪が積もるところでの生活

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27 冬の朝

 本格的に冬がやってきて、一番つらいのが寒さだ。



 オーキッドをはじめとしてオールモット村の住人はさほどつらそうではないのが不思議なぐらいだ。



 今日も肌の作りが私と村の人たちの間で違っているのではと思うようなことがあった。



「ティエラ、もう朝だよ。そろそろ起きないと、焼いたパンが硬くなるんだけど」



 オーキッドの声が上から届く。どうやら、知らないうちに二度寝していたらしい。



 冬のベッドはとても冷たいが、それは入った時のもので、目覚める頃になると、ちょうどほどよく温かくなっている。この布団から出るのは相当の苦痛なのだ。



 ベッドの隣は空っぽになっている。オーキッドはとっくに起きて、朝ごはんの準備をしているらしい。



 私は薬の調合だとかそういったことは丁寧にやれるのだが(それは当たり前で、調合する分量を間違ったら、薬が毒になってしまうのだが)、料理は全然やってこなかっただけあって、とても人に出せるものではなかった。



 なので、朝ごはんはオーキッドにお任せしていた。

 昼と夜は村の人の手助けで、どうにかしていた。



「もう少しだけ待ってくださいませんか。この温かさと安心感は何物にも代えがたいんです」



「言いたいことはわかるけど、朝が遅いといろいろ響くよ。それなら夜に寝るのを少しでも早くしたほうがいいかな」



「そんな正論はわかっているんですが……」



 そういえば、こんなふうに甘えたことなんて、これまでの人生でなかった。



 というより、甘えるという発想が私の中になかった。

 甘えて家から捨てられたら、それで破滅してしまうので選択のしようがなかったわけだ。



 だから、少しぐらい甘えさせてもらったっていいだろう。



「じゃあ、その……頭を撫でてくれたら、起きますよ」



 これぐらいのわがままならいいはずだ。むしろ、わがままを言えとクリエラさんから勧められたぐらいなのだし。



「あ~、今はそういうのはいいかな。後回しのほうがいいかなと思うんだけど」



「えっ、後回しって……。こういうこともオーキッドの仕事の一つですよ」



 ダメですと言われてすぐ起床というのも格好がつかないので、私はもう少し抵抗を試みる。



「いや、だって……難しいんだよ。僕も恥ずかしいしさ」



「恥ずかしいって、ほかに誰もいないんですから、気にしなくていいじゃないですか」



「いや、それがそうでもなくて……」



 何かおかしいぞと思って、私は顔をちょっとだけ上げた。



 そこには、オーキッドとその隣にエプロンをつけているサニアが立っていた。



「あの……奥方様、おはようございます……。今日は早く目が覚めたので、朝食も少し手伝わせていただいていまして……。寝室にまで入ってしまってはまずかったでしょうか?」



 私は自分の顔が赤くなるのを感じた。



 すぐに飛び起きる。



「大丈夫です! 起きました! 着替えますので、オーキッドは料理のほうに戻ってください!」



「普段は、横で着替えたりしてない?」



 余計なことをオーキッドに言われた。新婚だから、そこまで気にしないかもしれないけれど、サニアがいるところで話すことではない。



「とにかく、一時的に出ていってください! すぐ私も行きますから!」



 オーキッドは、声を出して笑いながら、寝室から退出した。







 私はサニアに着替えを手伝ってもらう。そのほうが一人で着替えるより早いからだ。

 貴族の服はどうも使用人が横についているのを前提にしている気がする。一人で着るのは難しい。



「ありがとう、サニア。朝から恥ずかしいところをお見せしましたね」



「いえ、あまり奥方様はなまけているところをお見せにならないので、サニアは楽しかったです」



 楽しいと言われるのも複雑な気分だけれど、怖い奥方だと思われるよりはずっといいか。



「サニアはもう簡単な文章なら読み書きできますし、次は短い本を一冊読んでみましょうか。もちろんわからない言葉は聞いてくれてけっこうですから。一冊読み終えた頃にはとても実力がついてますよ」



 元々、この屋敷には子供向けの本などはないので、それは街道を通る商人に頼んで取り寄せてもらっていた。



「はい、それもサニアはうれしいのですが、奥方様に教えていただきたいことがあるんです!」



 少し気負うようにサニアは言った。いったい、何だろうか。



「奥方様、サニアに草花のことを教えていただきたいです!」



 ぴしっと背伸びして、サニアは元気な声を出した。



 たしかに私が特別に教えられることとなれば、植物のことになるか。



「できなくはありませんけど。私が薬草店をやっているから、興味を持ちましたか?」



「それもあるのですが、奥方様は食べられる野草もたくさん知ってらっしゃいますよね? それをサニアも知ることができたら家族のために野草をとってきたりできるなって思うんです」



 そういうことか。気持ちはわかるのだけど、少し厄介なところがある。



 でも、実物で説明をしたほうがわかりやすいか。



「では、朝食と掃除をさっと終わらせて、野草の勉強をしましょうか」



「あっ! 朝食はゆっくり食べていただいてけっこうです……」


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