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【連載版】地方に追放された伯爵令嬢は、子爵の夫と第二の人生を幸せにすごす  作者: 森田季節
第3部 ティエラ薬草店と王都の「呪い」

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20/41

20 ユキノシタを見つける

 私がオールモットの村に来てから、ちょうどひと月後。



 私は「ティエラ薬草店」をオープンさせた。



 入口側に看板が一つかかっている。あと、煙突には薬草を描いた絵だけの看板がかかっている。文字を読めない人でも何の店か、これでわかるだろう。



 開店は村の人が集まって祝ってくれたので、なかなか華やかだった。



 ただ、大繁盛かというと、お店の性質上そんなことはなく、整腸剤用や食欲不振用に調合した商品が売れたぐらいだった。たとえばオオバコを煎じて飲むと食欲増進効果がある。



 薬草の店というと体調が悪い時に来る者なので、あまりお客さんが多いことを喜ぶのも変だし、悪いことではないのかもしれないが、商売としては問題がある。



 滋養強壮に効くアマドコロの根でも多目に調合しておくか。あとは、薬用酒も作っておくか。



「なかなか商売は大変そうだね」



 お客さんかと思ったらオーキッドだった。どうやら、狩りで得た獲物を乳製品と交換してきた帰りらしい。



「あら、ひやかしですか。正直なところ、のんびりしてますから、ひやかしでもどうぞ」



「山で珍しい花が生えてたから、役に立つかなと思って持ってきたんだ」



 オーキッドの持ってきたのは花びらの尖った可憐な小さな花だった。花びらは白で、中心のあたりだけ青っぽくなっている。



「えっ! これ、ユキノシタですか。同定はもう少し慎重にしたいところですが……近縁種なのは間違いないですね」



 私は葉っぱの部分を目に近づけた。



「そこまで珍しい草だった? だったらうれしいな」



「珍しいというより、図鑑だとこの国では生えないことになっている薬草なんですよ。たしかに花が咲く時期としては適切ですし、実はこの国でも生えていたと考えるしかないですが」



「この道をずっと北に行くと、隣の国に行くからね。隣の国の商人が通ることもあるから、馬車に種でもついていれば、こっちで生えてくることもあるよ。そういえば、このあたりは花の種類が多いって言われたことがあったような」




 なるほど

 街道に面したこの村はいよいよ薬草伯家の人間にとってはよい環境なのだ。



「この植物は様々な薬用効果がありますし、食用にもできます。とにかく、いろんな用途に使える万能植物です。むしろ、栽培しておきたいぐらいです」



 その時、嫌な予感がした。



「あの、根こそぎ持ってきてたりはしないですよね……?」



 どこにでも生えている植物ではないかもしれないので、全部抜かれてしまうと消えてしまうかもしれない。



 にっと、オーキッドは笑った。こうやって笑うと本当に少年のような表情になる。



「僕もティエラと一緒に暮らしてきて、だんだん薬草の感覚がわかってきてるよ。ちゃんと残してるし、どこに生えてるかも確認した」



「ありがとうございます。これは本格的に薬草園を作ったほうがいいかもしれませんね」



 薬草伯家の一族ならノドから手が出るほど、うらやましがるのではないか。

 なにせ、いい薬草だからといって、王都近辺で手に入るとは限らないからだ。



「あのさ、ここからそんなに遠くないし、行ってみない?」



「えっ、まだ営業中ですよ」



「でも、誰もお客さん、いないだろ」



 そう言われてしまうと、返す言葉がない。

 私は店のドアに「出かけてます」という小さなプレートをつけて、ユキノシタの自生場所に向かった。



 そこは樹木のせいで少し暗くなった丘だった。

 思ったより多くの、小さなユキノシタの花がそこに見えた。



「よくぞ生えていてくれたという感じです。これはありがたいですね~」



「ティエラ、そんなうれしそうな顔をするんだ」



 オーキッドが面白そうに笑っていた。



「楽しそうというより、にやにやしているって感じだったよ。やっぱり薬草好きなんだね」



「にやけているだなんて……女性のそんな表情を指摘するなんてエチケット違反ですよ」



「僕はティエラがどんどん楽しそうな顔をしてくれるほうがいいんだけど。そのほうがティエラがより美しく見えるからね」



 あっけらかんとした調子でオーキッドはそう言う。



 女性に慣れてないと言っていたこともあるけど、あくまで慣れてないだけで、苦手というわけではないんだなと思った。



 もしオーキッドが王都のそばに住んでいたら、遊び人になっていたかもしれない。



「そういう言葉、ほかの女性には言わないでくださいね」



 私はぽんとオーキッドの胸に手を置いた。



「心配しなくても言う相手がいないよ」



 お返しのように、ぽんぽんとオーキッドは私の肩に手を置いた。



 本当にわかっているのだろうか。裏表がない性格というのは確かだと思うのだけど。



 そういえば、わがままを言ってあげてと聖職者のクリエラさんに言われたことがあった。



 私はオーキッドにぴたっと自分の体を寄せた。



「しばらく、じっとしていてください。休憩します」



「いいけど、立ったままだとあまり休めなくない」



「このままでいいんです」



 休憩というには胸が落ち着かなくて自分に薬草を処方したいぐらいだったけれど、体力は回復した気がした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 動植物にとって国境という人間の縄張りは関係のないものなのだろうな、と思いました。 では。
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