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【連載版】地方に追放された伯爵令嬢は、子爵の夫と第二の人生を幸せにすごす  作者: 森田季節
第2部 伯爵令嬢は田舎子爵とともにすごす

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15/41

15 あなたを支えます

 人を殺したことがあるから平気だなんてことはないんだ。



 この人が疲弊していることぐらい、誰が見てもわかる。



 これは巡り巡って、私のせいだ。



 もちろん一番の発端は殺し屋を呼んだ王子と侯爵令嬢だ。



 けれど、少なくとも、私がこの村に来なければ、オーキッドはこんなことはしなくてすんだのだ。



 私を守る以外の選択肢はオーキッドにはなかった。



 つまり私がいたことでオーキッドは必ず疲弊することになった。



 私はぎゅっと自分の手に力を込めた。オーキッドの手を包む。



「このオーキッドの苦しみは私が必ず癒します。それが私の役割です」



「悪い……。やっぱり消耗するね。でも、これで、ティエラを狙う人間は来ないはずだ。ゆっくりオールモット村で第二の人生を生きてくれればいい」



 私に目を向ける時のオーキッドの顔は優しい。私を困らせないためだろう。



「また敵が来ても、僕が倒す。不安にさせてしまったかもしれないけど、それだけは約束する。これでも失敗したことはないからね」



「じゃあ、その傷ついたオーキッドの心は私が癒します。いや、心だけじゃ駄目ですね。体も癒します。屋敷に帰ったら薬湯を作りましょう」






 しばらく時間がたつと、オーキッドの顔色もよくなってきた。



 それこそ、山賊を殺した直後は、毒でも盛られたみたいに顔が青かったから。



「ありがとう。もう問題ない。昨日は割と大丈夫だったんだけどね。もう敵がいないってわかったせいか、余計に緊張の糸が切れたらしい」



 立ち上がって、伸びをするとオーキッドはナイフの血をぬぐった。オーキッドはあまり刃物も見たくないのだ。



「本当にオーキッドは暗殺者には向いてない性格なのに、なんでそんな役目を押しつけられたんですか? 適材適所とは言えないじゃないですか」



「元々、捨てゴマだったってことさ。誰もやりたがらない仕事だから、僕がやらされた。今になって思えばよく生き残れたと思うよ」



 もう、オーキッドは元の調子に戻っている。



「やっぱり、オーキッドには誰かがそばにいたほうがいいです。別にそれが従者でもなんでもいいと思いますが、誰もいないのなら私が支えますよ」



 私ははっきりと腹を決めた。



 運命がこの村でオーキッドと生きろと言っているのだったら、その運命とともに歩いていってもいいだろう。それに抗う理由も何もないんだから。



「わかった」



 ゆっくりと、オーキッドが私の肩に手を伸ばした。



 まるで壊れ物を包むように、優しく抱きしめられた。



「じゃあ、僕もティエラに頼らせてもらう。もちろん、ティエラの邪魔にならなければだけど」



「だから、邪魔も何もこうなったのは、私を狙う敵をオーキッドが倒したせいじゃないですか。その責任は私がとります。これはいわば貴族の責務です」



 私もオーキッドの体を自分の手で抱き締めた。



 普通、こういうことは愛し合った男女がするものだと思っていたが、私たちの場合は少しだけ違うと思う。



 お互いの気遣いがまだ全然抜けきっていないのだ。



 むしろ、結婚だって気遣いの延長線上でやろうと私はしている。



 でも、それで何も問題ないと私は思う、誰かのことを気遣う心が悪いわけではないのだ。



 私はオーキッドを支えていきたいと心から思っている。

 それは人によっては恋愛感情と考えるかもしれないし、人によっては一種の責任感によるものだと考えるかもしれない。



 どういう解釈をされても私はいい。



 どちらにしろ、オーキッドに「あなたは悪くない」と言ってあげるのに、彼に命を助けられた私ほど適任の存在はいないのだ。



〇 〇 〇





 その日の夜、私が寝泊まりする教会で聖職者のクリエラさんと少し話をする時間があった。



 クリエラさんは私に、こんなことを言った。



「ティエラさん、どうか子爵にたくさんわがままを言ってあげてくださいね」



「迷惑をかけるなではなくて、わがままを言え、ですか?」



「そうです。ずっと子爵は特定の誰かのために生きるということをしていませんでした。あの方は村を支える生き方ができればそれでいいと思っているかもしれませんが、それは寂しいことです。愛する誰かのために生きる道も知ってほしいんです」



「はい、私も努力します」



 クリエラさんは聖職者らしい優しい微笑みを浮かべた。



「ティエラさんはどちらかというと自分で何でも解決させようとする性質だから、たしかにわがままを言うように努力しないといけないかもしれませんね」



「そう言われると、難しいですね……」



 王都ではわがままを言うことなど、何も許されなかった。正妻の子ではない私はわがままを言う権利がないと家族はみんな思っていた。



 もちろん、王太子邸に侍女として仕えるようになった時も、私にそんな権利はなかった。



 わがままって何だろうか。こういう料理が食べたいとか、どこかに旅行に行きたいとか、そういったものか? いざ考えてみると、あまりわからない……。



「やっぱり少し困ってらっしゃいますね」



「そこは少しずつ慣らしていきたいと思います……」


次回、明日7時ぐらい更新です!

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