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【連載版】地方に追放された伯爵令嬢は、子爵の夫と第二の人生を幸せにすごす  作者: 森田季節
第2部 伯爵令嬢は田舎子爵とともにすごす

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13 狩りの名手

 オーキッドは荷物を原っぱに置くと、すぐに弓矢の準備を始めた。



「あの、イノシシが飛び出してきたりすると、少し怖いんですが……」



「ここは大型の動物は出てこない。ここは鳥撃ちの場所なんだ」



 オーキッドは弓を軽々と引くと、簡単に矢を射た。



 直後に何かが木にぶつかりながら落ちていく音がした。



 オーキッドは音のほうに向かっていくと、キジの首をつかまえて戻ってきた。



「こんなふうに鳥がいろいろ獲れるんだ」



「獲れるって、そんなあっさりと成功するものなんですか? 私には狙いをつけたようにすら見えませんでしたが……」



 それこそ、オーキッドは目の前の草でも引き抜くように、あっさりと獲物を手にしてしまった。



「上手なほうだとは思うよ。でも、別に誰かと競ってるわけでもないから、本当のところはわからない。僕は生活のためにやっているからね」



 また弓を引いて、オーキッドは飛んでいる鳥を射落としてしまった。



「すごいですよ! 百発百中じゃないですか!」



「それはおおげさだけど、外れないように努力はしてるよ」



 いや、これは努力がどうとかいった次元のものじゃない。



 オーキッドは易々と鳥を狙って、易々と戦果を得ている。



 横から見ていると、ほとんど集中しているようにすら見えないのに。



 自分が想像していた狩りとはまったく違う。もっと、野山を分け入って、ようやくわずかな成功を手にするものだと思っていたが、矢を射ると自動的に鳥が落ちる仕掛けでもあるようだ。



 しばらくその作業みたいな狩りを行うと、オーキッドは、



「今日はこんなものでいいかな」



 と涼しい顔で言った。



 食べきれないほどの獲物が山になっている。



「しばらく、鳥料理ばかり食べるつもりですか?」



「違うよ。これは村の住人にあげたりする分も含んでるんだ」



 まるで村全員を領主の自分が養ってるような言い方だった。



「これだけ、狩りが上手ければ肉を売るだけでも相当な収入になるんじゃないですか」



「実際物々交換じゃなくて、お金で買ってくれる人もいるし、少しは貯えもある。川沿いに下ったり上ったりして、隣の領内に売りに行くこともあるよ。そのお金も、村を維持するためにある程度の貯金がないと危ういから、貯蓄に回してるよ」



「それにしても、使用人を雇うぐらいのお金はありますよね。使用人を雇えばいいのに」


「まあ、一人で暮らす分には問題がなかったから、そのままにしていたっていうのもあるね。掃除を手伝ってくれる住人も、料理を持ってきてくれる住人もたくさんいるし」



 なるほど。オーキッドがつつましやかな生活を送っているのは事実としても、半分は本人がその生き方を選んだからという面もあるようだ。



 貴族として振る舞うのより、村人の一人として生きるほうが性に合っているのだろう。



 もっとも、使用人が一人や二人いたところで、それが貴族らしい生活かといえば、そんなわけはないのだが。



 私の感覚もだんだんとおかしくなってきている気がする。



 王都と比べると、この村では「裕福」の基準が違う。



 貧しいほうが心が豊かだという教会の説法は信じていないが(それだと、貴族は全員心が濁っていることになるし、まして王族など存在も許されないような悪魔ということになる)、この村の人たちはそれなりに幸せそうな顔をしているようには見える。



「あと、狩りの獲物を配っているのは習慣みたいなものなんだ」



「習慣? 東部の領主の風習か何かですか?」



「自分の所領に敵がいたら、終わりだからね。村には頼れる領主だということはアピールしておきたかった」



 オーキッドは一瞬、寂しそうな目を見せて、また笑みを作った。



「あぁ……仇討ちに誰かが来てもおかしくない立場だったんですよね……」



 村の中に裏切者がいれば、オーキッドは簡単に命を奪われる立場にいたのだ。



 だから、村人にとって自分を領主にしているほうがいいぞと見せておく必要がオーキッドにはあったのだろう。



 そんな時、心がどうだとか、気持ちがどうだとか、精神的なものは役に立たない。



 実利を証明するしかなくて、オーキッドは狩りの能力を示して、それを村に配った。



「今は村のみんなとも仲良くやってるけどね、当時は村に戻ってきたのは久しぶりだったし、受け入れられるか未知数だった」



「そして、受け入れられなかったら、危ないことになっていた立場だったと」



「僕しかいないんだからね。屋敷を囲まれて、火でもつけられたら終わりさ。村人に殺されるとまでは当時も思っていなかったけど、たとえば、武装した兵士が入ってきても見て見ぬふりをされれば、僕はそれで終わる」



 血なまぐさい話だけれど、そこまで注意しなければいけない時代がオーキッドにはあったのだ。



「大変な生活をされてきたんですね」



「昔の話だけどね。この5年、村で火事の一つも起きてないし、平和だよ。むしろ、今はティエラのほうがよっぽど大変だと思う」



「それは……そのとおりですね。私もこんなことになるとは思っていませんでした」



 その時、オーキッドの表情が急に険しくなった。



「何かがいる」

次回は19時頃更新予定です!

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