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第3話 亀終組と遠藤さんとの関係性(平野鏡side)


「え?」


 私の名前がテレビのニュースから流れて驚く。

 まるで犯罪者のような扱いじゃなかっただろうか。


 テレビに注視すると、私が行ったダンジョンに人が集まっていた。

 戦いの痕跡も血の跡もある。


 間違いない。

 私が昨日行ったダンジョンだ。


 そして、ニュースでやっているのは、私達のことで、何やら殺人事件として取り扱われているらしい。

 犯人は私じゃない。

 あの仮面の男の人なのに。


 だが、これで分かったことがある。

 私の名前がテレビで流れたのは聞き間違いじゃなかったのだ。


『尚、亀終組は兼ねてより人身売買をしている疑いがあるとのことですが、真偽の程は定かではありません。次のニュースです』


 不吉な単語が出て来た。


 人が殺されただけじゃなく、別の犯罪も絡んでいるようだ。


「じ、人身売買って何ですか……?」

「俺達の世界から異世界へ人間が拉致されている事件のことでしょうね」

「ら、拉致って、でも、侵略は終わったはずじゃ……」

「表面上は終わりました。でも、まだ異世界からの侵略は続いているんです」


 異世界――ザナドゥ。

 彼らは突如として現れ、地球を侵略した。

 圧倒的兵力差と、未知の力によって地球は征服されてしまった。


 それから十年。

 世界は異世界色に染まってしまった。


「見てください」


 エイジさんがカーテンを開けると、そこには見慣れた光景が広がる。

 ビルの合間にかつての地球じゃ決してみられてない物質が、いくつも存在している。


 ワープゲート。


 形状はワープゲートによって違う。

 大体、長方形の闇の中に、雲のようなものが渦巻いている形状が普通だ。


「『ワープゲート』が異世界へ繋がっているのは知っていますよね?」

「はい。私達は毎日のように『ワープゲート』を通ってダンジョンへ行くので、それぐらいは知ってますよ」


 今時子どもでも知っている。

 異世界人が侵略して来た時、彼らは『ワープゲート』を使ってこの世界へ転移してきたのだ。


 異世界人が侵攻して来た理由の一つが、モンスターの大量発生問題。

 彼らは駆除しきれなくなったモンスター問題を、地球人に丸投げすることにした。

 例えそれで地球人が滅びようが彼らは痛くも痒くもない。


 だから、異世界人は『ワープゲート』を使って、彼らの世界に存在する『ダンジョン』と呼ばれるモンスターが存在する迷宮を繋げているのだ。


「本来だったら『ワープゲート』はダンジョンにしか繋がっていないとされていますよね? でも、それが嘘だったら? それが本当だったら地球人を拉致し放題だと思いませんか? 『ワープゲート』さえあれば、簡単に人間なんて拉致ができる」


 確かに簡単だろう。


 ダンジョンは閉鎖的な空間だ。

 普通はビル程の大きさの『ワープゲート』しか私は視認したことがない。

 だが、小型の『ワープゲート』はあってもおかしくない。


 ダンジョン内で小型の『ワープゲート』を発生させて、異世界に連れて帰る。

 拉致された人達の処遇が待つのは、男なら労働価値があるだろうし、女性ならば奴隷として奉仕させられるかもしれない。


 いくらでも金になるだろう。

 でも、それは異世界人だけが関与しているならまだ話は通ることだ。

 さっきのニュースの憶測はいくらなんでも突飛過ぎる。


「そ、それに組が関わっているんですか!? で、でも組って、地球人の人達のものですよね!! そんな、彼らが異世界人に手を貸すなんてっ!!」

「金の為なら人は容易くに裏切ります。それが同族であってもです」

「…………っ!」


 暗い瞳をしたエイジさんに、私は息を呑む。


 異世界人が侵略してから色々あり過ぎた。

 日本人の中にも日本を裏切り、異世界人に阿った人だっていたのだ。

 そんなことはあり得ない、と口が裂けても言えなかった。


「でも、組とか、人身売買とか何の話なのか……」

「もしかしたらカガミさんじゃなく、他のパーティメンバーが関わっているかもしれません。何か心当たりはありませんか?」

「心当たり? それは……」


 組の人と関わり合いがある人なんて想像もできない。

 そんな素振り全くなかったはずだ。


「なんでもいいんです。何か違和感はありませんでしたか?」

「そ、そうですね……」


 そんな事を言われても、そこまで彼らと私は仲がいい訳じゃなかった。

 私が治癒の魔法が使えたから雇ってもらっていただけだ。


 彼らにおかしいことなんて――


「あっ」

「何か思い出しましたか?」

「もしかしたらパーティリーダーの遠藤さんが一枚嚙んでいるかもしれません。お金の動きがおかしかったですし、彼、今思えば不自然に高級品を身に着けていた気がします」


 パーティリーダーだけ、装備品が高級だった。

 他のメンバーも首を傾げていたが、実家がお金持ちなんじゃないかって噂になっていたが、もしかして彼が前々から人身売買に関わっていたら、その装備品にも説明がつく。


 金があるのに、パーティの活動資金にも手を出していたのか。

 欲望が膨れ上がると際限がないな。


 でも、あのニュースを見る限り世間からは、パーティリーダーよりも、私の方が犯人扱いされているように思える。


「……もしかして、私、あの事件の犯人扱いされてますか?」

「重要参考人ってことは、まだ疑いの段階じゃないですか? 任意同行はされるかも知れないですけど」


 任意同行。

 それだけで気分が沈む。


 そんなの犯人扱いとさほど変わらない。

 だけど、拒否すればそれこそ犯人だと断定されるかも知れない。

 早く任意同行されに行かないと。


「逃げますか?」

「逃げるって、そんなの無理ですよ!!」


 個人の力だけで組織から逃げられる訳がない。


 異世界人の作った軍が出来た時は指揮系統がバラバラで混乱していたが、今はかつての頃の混乱はない。

 私は素直に要求に応じるしかない。


「なら警察に行った方がいいと思います。保護を頼みましょう」

「保護って、誰から保護してもらうんですか?」

「軍と、それから亀終組とかいう組からです」

「組? な、なんで……私は関係なんて――」

「組の方々がそんな話を聞いてくれると思いますか?」


 私の話を信じてくれる訳がない。

 いや、私の話をまずまともに聴いてくれるかも分からない。


「捕まったら拷問されるでしょうね」


 水責め、爪剥ぎ、指詰め。


 あらゆる拷問方法が頭に浮かんで、冷や汗が出て来た。


 無理だ。

 耐えられるはずがない。


「でも、なんで軍の人からも狙われるんですか?」


 組の人達が自分達の利益の為に、私を誘拐するのは分かる。


 人身売買について知っているか吐かせるため。

 もしくは、口封じの為。


 だけど、軍の人が私に危害を加える理由はないはずだ。


「軍には殺しを許された異世界人の飼い犬がいます。ダンジョンでの事件で、彼らが動かないはずがありません」

「アンダー……ドッグ……」

「そうです」


 異世界人は地球を統治する為に軍を作った。

 異世界人の配下であることから、警察よりも権力は上であり、その中でも特殊な部隊を『特別派遣部隊』。


 通称『アンダードッグ』と呼んでいた。


 異世界人の飼い犬と呼ばれる『アンダードッグ』という部隊は、あらゆる権限を与えらており、人類にとって憎悪の的になっている。


「彼らは事件の解決の為ならば手段を選ばない殺人鬼です。あなたを殺して、事件を終わらせようとするかもしれません」

「そんな……」


 考え方が組とそこまで大差がない。

 

 やはり『アンダードッグ』は市民の味方でも何でもなかったのだ。

 表では人類の安全の為に戦っているとか軍は語っているが、やはりそれは方便だったのだ。


「とにかく警察署に誰よりも早く駆け込みましょう」

「今からですか?」

「今からです」


 心の準備が追い付かない。

 まだラーメンと餃子にほとんど手を付けていないっていうのに。


「その前に質問ですが、カガミさんは本当に何も知らないんですよね?」

「も、勿論です!!」

「なら身の潔白を証明できることはできますか? もしかしたら警察にも疑われるかもしれません」

「そ、そんなこと急に言われても……」


 口だけ言っても誰も私の言葉なんて信じてくれないだろう。

 物的証拠が必要になる。


「もしかしたら、パーティリーダーの家に行けば何か分かるかも知れません」

「パーティリーダー……ですか」

「はい。遠藤さんの家に行けば、何かしらの証拠が出てくるはずです」


 彼の家には何度か行っている。

 打ち合わせや打ち上げなどだ。

 そこに行けば、必ず組との亀終組との関係を示唆するものが残っているは――


 バリーンッ!! と窓ガラスが破られた。


「きゃああああああああああっ!!」


 悲鳴を上げると、


「伏せて!!」


 と、エイジさんが咄嗟に前に出て、私に覆い被さってくれる。

 そのお陰で窓ガラスの破片は刺さらなかった。


「だ、大丈夫ですか? エイジさん」

「それよりも、逃げて!!」

「え?」


 窓ガラスを靴で踏みながら侵入してきたのは、仮面の男だった。

 外にはロープがぶら下がっている。

 上の階か、屋上からここに来たのだろう。


「わ、私を殺しに?」


 まさか、私を殺しにダンジョンから追いかけて来たんだろうか。

 一日もあれば私の居場所なんてすぐ見つけるか。


「逃げてください!! 早く!!」

「まっ――」


 仮面の男にエイジさんが向かっていく。

 明らかに一般人であるエイジさんが叶う相手じゃない。

 そう分かっていたのに、私は反射的に身体が動いた。


「うああああああああ!!」


 向かっていくエイジさんが組みかかるが、すぐに振り払われる。

 仮面の男が私に向かおうとした時に、エイジさんが足を掴んでそれを阻止した。

 仮面の男は、武器を取り出す為か、気怠そうにポケットに手を入れる。


 私が見られたのはそこまでだった。


 扉から出て、階段を下りている時に、


 ダァンッ!! と人の死を伝えるかのように銃声が響いた。



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