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第18話 命の軽い世界で特訓の成果を(平野鏡side)


 桜さんを庇って、殺し屋の中年男と対峙する。

 だが、私なんて眼中にもないようだ。


「俺達の世界じゃ、命は軽いもんだ」


 無造作に殺し屋が手を振るうと、私の左腕が切断される。

 二メートルは離れていたのに、一瞬で私の腕を攻撃された。


「きゃああああああああああっ!!」


 桜さんが大きな悲鳴を上げるが、私は歯噛みして痛みに耐えるだけだ。

 これぐらいの傷だったら、まだ間に合う。


「『ヒール』ッ!!」


 私の切断されたはずの腕がくっついた。

 傷口はほとんど目立たないほどに修復できた。


「な――に!?」


 殺し屋が目を剥く。


 私はこの任務に就く前に、『アンダードック』で拷問に近い特訓をしてきた。

 火にあぶられたり、水責めされたり、電気ショックを流されたり。

 自分のスキルがどこまで使えるのかの実験をしたのだ。


 だから、腕の一本や二本切断されたところで、私の『ヒール』があればすぐに完治することができる。

 だが、それは自分の身体だけだ。

 桜さんが斬られた場合、魔力のコントロールが効かない私が彼女を完璧に癒すことはできない。


 私が彼女の盾となり、剣になるんだ。


「やあっ!!」


 懐から取り出した銃で発砲する。

 特訓はしてきた。


 ――お前、下手だな。


 エイジさんにはそう評価された。


 当たり前だ。

 銃なんて使ったことない。


 今まで使ったことがある武器なんて杖ぐらいなものだ。

 その杖も、人並み以下だったのだ。

 だから武器を使うことには抵抗があった。


 ――だけどまあ、ナイフとかよりかはマシか。


 ただ、腕力が私はない。

 だから腕力を必要とせずに戦おうとしたら、強力な威力を持つ武器に頼らざるを得なかった。

 だから私は銃の練習だけをずっとしてきた。

 それこそ、朝から晩までずっと射撃訓練場を貸切ってやっていた。


 ――威嚇射撃は必要ない。自分の命を守る為なら、迷わず引き金を引け。でないと、お前が死ぬぞ。


 忙しいだろうに、エイジさんはずっと面倒を見てくれた。

 お陰で何十発に一発は狙った場所に着弾するようになった。


 その上がった命中精度で私は桜さんを助ける。


 放たれた弾丸は回転しながら殺し屋の肩を貫くはず――だった。


「え?」


 金属音がしたと思ったら、銃弾が床に落ちていた。

 それに殺し屋の男が苦悶の表情を浮かべている訳でもないので、直撃してはいないはずだ。


「くっ!!」


 私は弾が切れるまで引き金を引いたが、同じ結果だ。

 銃弾が床に落ちるだけだ。

 転がっている銃弾は真っ二つになっていた。


「……ふっ」


 殺し屋の男は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


 最後の銃弾は中空に停止していた。

 よく見ると、幾重にも張り巡らせている線の束に銃弾が絡み取られているように見える。

 これは、


「糸!?」


 蜘蛛の巣のように糸が張り巡らせていた。

 光の反射で見えるが、少し動くと見えづらくなる。

 あんなに細い糸なのに、数重に張っただけで銃弾を止めるなんて何という強度と柔軟性だ。


 私が持てる最大火力を完全に防ぎきっている。

 これは、勝てない。


「に、逃げますっ!!」

「ええっ!? いきなりですか!?」


 桜さんの手を引いて身を翻す。

 今の私じゃ太刀打ちできない。

 エイジさんと合流するしかない。


「ちっ!!」


 追いかけてくる殺し屋の男に、椅子やらポッドなど手あたり次第に投げつける。


「無駄だっ!!」


 投げつけた物を次々に切り刻む。

 大した時間稼ぎにはならないと思ったが、


「ちっ」


 斬った物を見つめると足を止める。

 何か思う事があるのだろうか。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 今は逃げ切る事だけを考えよう。


 私は全速力で保健室から離れた。


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