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第16話 友達がいない人のトラウマ(平野鏡side)

 私達のクラスはエイジさんに連れられて、運動場までやってきた。


 そこで身体を動かすということで、準備体操をすることになった。

 体育の授業ではないので、軽い体操で終わった。

 その時までは平和だった。


 エイジさんがトラウマとなる一言を言い放つまでは。


「それじゃ、今度は二人で組を作って下さい」


 地獄だ。

 みんなは流れるような動きで二人組を作っていく。

 当たり前のように私は余ってしまった。


「うう……」


 転校生だから仕方ない。


 でもまあ。

 前の学校でも、似たようなものだったけど。


 エイジさんのところまでトボトボと歩く。

 こうなったら、エイジさんに体操の相手してもらわなきゃ。


「あの、鏡さん。一緒に組みませんか?」

「え?」


 そう言ってきてくれたのは、護衛対象である桜さんだった。


「いいんですか?」

「ええ。全然」

「そう、ですか……」


 私が居なかったら桜さんは一人だったはずだ。

 もしかして、私と同じでぼっちなタイプなんだろうか。

 それともただただ優しいだけの人なんだろうか。


「これから何するんでしょうか?」


 二人で組むことになったので、軽い体操を始める。

 ただ体操をしているだけでは間が持たないと思ったのか、桜さんが質問を投げかけて来た。


「軽い実戦じゃないでしょうか? 本格的にやるなら、一時間丸ごとしそうですし」

「ですよね」


 顔が青白くなっている。


 もしかしたら、実戦に不安になっているかも知れない。

 私も初めてダンジョンに行った時は怖かったので気持ちは痛いほど分かる。


「護衛って大変ですよね。すいません。まさかこんな可愛い人が護衛してくれるなんて思わなかったです」

「い、いいえ。可愛いなんて、そんな、桜さんの方が全然!」

「わ、私は可愛いなんて、そんな、言われたことないですから!」

「え。本当ですか?」

「本当です!」


 そうは言い張るが、この見た目で可愛いと言われないなんて周りの美的センスがおかしかったとしか思えない。

 私よりも儚い雰囲気である桜さんは言われやすいと思うけどな。

 高嶺の花過ぎて、周りに避けられちゃっていたのかな?


「そもそもあんまり人と話す機会がないので」

「そう、なんですか?」

「あまり人と話すのは得意じゃないので」

「……普通に話せていると思いますけどね」


 本当に喋れない人っていうのは、こういう会話のキャッチボールすらできない人だ。

 桜さんはむしろ喋っている方だと思うけど。


「人見知りしちゃうんです。転校が多いせいでもありますかね」

「転校ですか。大変そうですね」

「ええ。そのせいで友達ができたとしても、すぐにいなくなっちゃうんですよ」


 転校の原因って、親の仕事の都合とかだろうか。

 転校の頻度が高かったら、そもそも友達を作ろうっていう気にもならないのかも。


「でも、どうしてかな? 鏡さんとは喋れている気がします」

「そ、そうですか? 私、話しやすいですかね?」


 私も友達いないから、こうして話せているだけでも楽しい。

 学校にはいい思い出なんてなかったけど、桜さんのお陰で楽しい思い出が作れそうだ。


「……あなたみたいな人に会えてよかった」

「大袈裟ですよ、大袈――さ」

「あふっ!」


 二人の足をくっつけながら、手を引っ張り合う準備運動をしている時。

 手が滑ってしまって、桜さんの鼻に当たってしまった。


「だ、大丈夫ですか!?」

「へ、平気、です……」


 桜さんが鼻を抑える手を取ると、ポタポタと血が滴る。


「血が!」

「だ、大丈夫。私、血が出やすいだけですから」

「そ、そうなんですか?」

「ええ、だから大丈夫です」


 大丈夫とか言いながら、血が全然止まらない。

 私の手が当たったせいで、ここまで血が出るなんて。

 鼻毛カッターで切ってしまっても、こんなに鼻血が出ることなんてない。


「タオル使って」


 影が差したと思ったら、エイジさんが横にいた。

 あんなに遠くにいたのに、異変に気が付いてここまでやってきたのだろう。

 早いし、気配も感じなかった。


「は、はい……」


 桜さんはタオルを手に取るが、どこかボゥとしている。

 やっぱり鼻が痛いんだろうか。


「平野、保健室に連れて行け」

「は、はい!」


 行きましょうと言いながら、桜さんの肩に手を置く。


「授業には帰ってこなくていい。ずっと監視しておけ」


 エイジさんの抑えた声に一瞬だけ足を止めた。

 私にだけ聴こえる小さな声。

 私は緊張しながらも頷いた。


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