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第1話 Eランクダンジョンのスライムによってパーティ壊滅(平野鏡side)

 墓多市のEランクダンジョンに、私達は足を踏み入れていた。

 初めてのEランクダンジョンで浮足立っていたせいで、私達探索パーティは全滅しかけていた。


「いや、いやあああああ。助けてぇえ、カガミィイイイイイ!!」


 ダンジョンにいたのは粘液状のスライム。

 弱いと油断して私達パーティは戦っていたのだが、途中でスライムの仲間がやってきて、私達の十倍以上の数で襲ってきた。


 一匹一匹は私達より弱くても、数の暴力で戦力は削られていった。

 物理攻撃はほとんど効かないスライムの大群相手に、私達は魔力を使い果たしてしまった。

 攻撃が効かない私達にできることは、逃げの一手しかなかった。

 だが、それすらも満足にできなかった。


「ま、待ってて、未玖」


 仲間の一人である未玖の足に、スライムの触手が縄のように巻き付いて引っ張られていく。

 合体したスライムの中に未玖が引きずり込まれようとしたので、咄嗟に手を伸ばした。

 だが、


「馬鹿が、もうそいつは駄目だ!!」


 パーティリーダーによって、無残にも手を払われる。


「で、でも」

「あいつはもう、喰われている……」


 スライムによって捕食された未玖の叫びは聴こえず、代わりにボキボキボキッ!! と全身の骨が折られる音がした。


 スライムは人間を捕食する時に、服を溶かして全身を丸呑みにするという。

 自分の仲間である未玖が人じゃなくなる姿を、私は見てしまった。


 同じ後衛職だった未玖。

 彼女は私の先輩で頼れる年上の女性だった。

 私なんかよりも魔力に溢れていて、みんなの能力を底上げするエンチャンターとしての才能はピカイチだったはずだ。


 それなのに、今はもう殺されてしまった。


「うっ――」


 吐き気がするが、立ち止まっている余裕などない。

 そのはずなのに、前を走っていたパーティリーダーが立ち止まる。


「お、おい、どうした!? リーダー!!」

「じゃあな、お前ら」


 リーダーは手に持っていたクリスタルのような結晶を潰す。

 すると、彼の姿はどこかへ消えてしまった。


「一人分の『転移結晶』で逃げやがった!! あ、あいつ……」


 リーダーは『転移結晶』を隠し持っていたんだ。

 でも、大枚をはたかなければ入手は困難なはずだ。

 私達みたいな弱小パーティがそんなもの入手できるはずがない。

 例え、一人だけしかダンジョンを脱出できないアーティファクトだったとしても――。


「も、もしかして……」


 最近、パーティの資金運用で不透明な部分があった。

 会計担当になった私の計算間違いだと思っていたけど、もしかしたらリーダーはパーティの活動資金を自分の懐に入れていたんだろうか。


 もしかしたらその金で、『転移結晶』を購入したんじゃないだろうか。

 不当に手に入れた金で、私達を裏切るなんて最悪だ。


「うっ……」


 涙が出てきた。


 これで残りは、一番のお荷物だった治癒魔法の使い手である私。

 そして、剣士の桐山さんだけだった。


 桐山さんは剣士なのだが、斬撃はスライムに通じない。

 だからスライム相手に私達は完全なる無力だ。


「おい、回復スキルはまだか!?」

「む、無理!! まだ魔力が回復していないみたい!! あと一分はかかるかも!!」

「クソッ!!」


 魔力は無限にある訳じゃない。

 休まないと回復しない。


 そんな風に何度も言っているのに、魔力をあまり使わない戦闘スタイルである桐山さんは理解してくれない。


 足が縺れそうだ。

 スライムの動きが他のモンスターより遅いからまだ私達は生き残っている。

 だけど、正直、逃げ切るのは無理なのかも知れない。


「ああ、もう駄目そうだな」

「そ、そんな――」


 そんなこと言わないで、と言おうとした瞬間、激痛が背中を斜めに走った。


 痛みに倒れながら振り向くと、私に不意打ちの斬撃を喰らわせたのは、紛れもなく桐山さんだった。


「な、んで――」


 血がドクドクと流れるのを感じる。


 ただでさえ満身創痍だったのだ。

 立ち上がる気力もない。


「お前がここで囮になれば俺は助かるんだ。じゃあな、役立たずのFランクヒーラー」

「そ、んな――」


 自分が助かる為に、私を犠牲にして生き残ろうとしているのか。

 ずっとパーティを組んできて、ダンジョンで助け合ってきた。


 役立たずだと言われても、自分なりに頑張って来たのに、最期の最期でこの仕打ちか。

 こんなところで私は死ぬのか。


「ハハハハ――ガハッ!!」


 銃声が反響する。

 曲がり角を曲がった瞬間、桐山の顎が撃ち抜かれたのだろう。

 桐山の顎の肉が眼前に落ちる。


「ひ、ひいっ!!」


 コツコツと鳴る足音共に、影が近づいてきた。

 見上げると、黒いコートに仮面を被った男が銃を握っていた。

 あの銃で桐山を殺したのだ。


「――うっ」


 銃口がこちらに向けられる。

 撃たれて殺される。

 そう思って目を瞑ったが、


「な、なに!?」


 私にお覆い被さろうとしたスライムが爆散した。


 仮面の男が銃で攻撃したのだ。

 とんでもない威力だし、銃弾がめり込んだ地面から炎が上がっている。

 ただの拳銃じゃない。

 魔力を込めた弾丸でスライムを倒したのだ。


 それから何度も仮面の男は発砲してスライム達をあっという間に蹂躙していった。


「う、うう……」


 血を失い過ぎた私は焦土と化したスライムの死骸達の光景を最後に、意識を完全に失ってしまった。

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