第92話 初めての一人お風呂
「ローレシアお嬢様、お風呂の準備が整いました」
バスルームからアンリエットの声が聞こえた。
「わかりました。今から入ります」
俺が再び身体の操作をローレシアに交代すると、ローレシアはゆっくりとバスルームに入っていく。中ではアンリエットがお風呂の準備を終えて立っていた。
「お嬢様、お手伝いは必要ですか?」
アンリエットがあえてそんな質問をするが、
「今日は大丈夫です。一人で脱げるようにアンリエットのを着用しておりますので・・・そうですね、髪の毛を洗う時にまた呼びますので、それまで外で待っていてください」
「承知いたしました。それではお嬢様・・・お風呂、頑張ってください!」
それだけ言うと、アンリエットはバスルームから出て行き、パタンと扉を閉めた。
この世界に俺が転移して初めて、ローレシアが一人で入るお風呂。正確にはローレシアと二人だけのと言った方が正しいか。そして初めて、ローレシアが目を開けて入浴する。
バスルームはランプの明かりがゆらゆら揺れていてとても幻想的だった。
床にはお湯がたっぷりと張られた大きなバスタブがあり、正面には全身が映るほどの大きな鏡がおいてある。その鏡には今、アスター邸のお揃いのメイド服を着たローレシアが映っている。
(今からお風呂に入ります。・・・わたくしのありのままの姿を見てくださいませ)
(・・・わかった)
心臓が激しく鼓動する。
緊張で喉も乾いてきた。
ローレシアは震える手でゆっくりとメイド服を脱いでいく。服が床に落ちると、鏡には肌着姿のローレシアが映し出される。
ローレシアは目をそらさずに、鏡の中の自分をまっすぐに見つめており、結果的に俺も一切目をそらすことができない。鏡の中のローレシアは恥ずかしそうな表情で、頬を赤く染めていた。
そしていよいよ肌着に手がかかる。肩ヒモをずらしてそれも床に落ちると、ローレシアの身につけているものは、いよいよ下着だけとなった。
ゴクッ・・・
純白で細かなレース模様で飾られた清楚な下着は、いかにもローレシアが着用するに相応しいものだった。
(ナツ・・・この下着はあまり見ないでください)
(いや、ローレシアが見ているものは全て俺にも見えるから、目をそらすのは無理だ)
(この下着、上はわたくしのですが、下はアンリエットの物なの。今日は自分で脱げるように借りたのよ)
(アンリエットの下着・・・)
(だからこの下着はすぐに脱ぎます・・・今はアンリエットではなく、わたくしのことだけを考えて)
(わかった)
そう言うとローレシアは、一瞬ためらった後、思いきって下着を全て脱いでしまった。
(・・・これでわたくしのことだけを、見て下さいますね)
(ああ・・・とても綺麗だよローレシア)
鏡の中には、一糸まとわぬローレシアの姿が映し出されていた。ランプの明かりで幻想的に浮かび上がったローレシアのその素肌は、真っ白で一切の穢れを知らず、とてもこの世の物とは思えないような、透明な美しさを醸し出していた。
鏡に映った自分を真っ直ぐに見つめるローレシアの顔は、恥ずかしさで真っ赤になっていた。瞳は潤み、ピンク色の唇が小刻みに震え、息が少し荒くなっている。
(どうですか、わたくしの身体・・・)
(美しい・・・とてもこの世の物とは思えない。前にも思ったが、キミは本当に人間なのか。この世に妖精が実在するなら、それはキミのことだと思うよ)
(そこまで褒められると気恥ずかしいですが、これがわたくしたち二人の身体です)
(・・・俺たち二人の身体)
(あまりじっくり見られると、やはりとても恥ずかしいですね。・・・ナツ、今からお風呂に入って身体を洗いましょうか)
そういうとローレシアは、バスタブに両足を入れて身体をゆっくり沈めると、全身をお湯に浸した。
この世界のせっけんはあまり泡立たないものだが、ローレシアはそれを両手にたっぷりとつけると、辿々しい手つきで身体に触れ、ゆっくりとしかし入念に、全身を洗っていった。
肩から腕、そして胸からお腹の辺りを、手でやわらかく洗っていく。さらにお尻から太もも、足の先まで丁寧に洗い終えた。
(わたくし、自分で自分の身体を洗うのはこれが初めてなのです。上手く洗えたかしら)
(大丈夫だよ。ちゃんと隅々まで綺麗になった)
(・・・今度はナツも洗ってみますか?)
(え・・・本当にいいのか?)
(・・・はい。わたくしたちは結婚したのですから、この身体はもうナツに全て許しています)
(・・・わかった。俺も身体を洗うよ)
【チェンジ】
俺はさっきローレシアがやっていたのと同じように手にせっけんをつけると、今度は足から順番に全身を洗っていく。
ローレシアの肌はきめが細かくすべすべしていて、足は思ったよりも細く、そしてしなやかだった。俺はローレシアの肌を決して傷つけないように、優しくそっと触れるように洗っていった。
そして自分の手が届く全ての場所を洗い尽くした。
(ローレシア・・・終わったよ)
(・・・・・)
(どうしたんだ・・・)
(これでわたくしは、この身体もナツのものになってしまったのね)
(・・・そうだな、ローレシアは俺のものになった)
(・・・大好きよ、ナツ)
(俺もだよローレシア)
ローレシアからは好きという気持ちと幸せオーラがドッと俺に押し寄せてきた。俺もローレシア負けないように愛情を三倍にして送り返してあげた。
バスタブに横になってお湯に浸かりながら、俺たちはずっと頭の中で幸せに浸っていた。
(そろそろお湯も冷めてきたし、アンリエットに頭を洗ってもらおうか)
(そうね・・・とても残念だけど、このままだと風邪を引いてしまいますしね。それではわたくしに身体の操作を代わっていただけますか)
(わかった)
【チェンジ】
ローレシアはアンリエットを呼ぶと、アンリエットは火属性魔法で手早くお湯を作ってくれ、バスタブに熱いお湯を継ぎ足して温かくしてくれた。
そしてアンリエットはいつものように、ローレシアの髪の毛を丁寧に洗っていった。
「ローレシアお嬢様、お風呂はいかがでしたか?」
「ええ、全て上手くいったわ」
「・・・おめでとうございます、ローレシアお嬢様」
そう言うと、アンリエットは暖かい目でローレシアのことを嬉しそうに見つめていた。
(ローレシア、アンリエットと何の話をしてるんだ)
(内緒です。これは女の子同士の秘密だから、ナツには教えてあげられません)
(女の子同士の秘密か。だったらしょうがないな)
お風呂からあがって、アンリエットにネグリジェを着せてもらうが、その時のローレシアはもう目をつぶってはいなかった。アンリエットもそれに気がつくと微笑ましそうに笑った。
その夜はベッドに入ってからも、俺とローレシアは遅くまでずっと幸せに浸った。
チュンチュン
(おはようナツ、もう朝よ)
(ローレシア、おはよう)
ローレシアに起こされて新しい朝が始まった。というか、ローレシアのラブラブオーラがいきなり俺の心に侵入してきて、とても寝ていられる状態ではなかったのだ。
いつもより早く起こされて少し悔しかったので、ラブラブオーラを三倍返しにして、ローレシアにカウンター攻撃を食らわした。
完全にバカップルである。
しばらくしてサラとニアが部屋にやってくると、ローレシアはドレスに着替えさせてもらった。これからフィメール王国の王城に戻らなければならないのだ。
いよいよキュベリー公爵との戦いが始まる。俺たちは気を引き締めると、護衛騎士たちの待つ食堂に向かっていった。
一人で風呂に入ってるだけなので、R15で大丈夫ですよね?




