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第91話 二人だけの結婚式

 アルフレッド王子との会見を終えると、ローレシアはアスター伯爵だけを王子の元に残し、護衛騎士たちを引き連れて転移陣でソーサルーラとの国境までジャンプした。


 そこから国境を越えてソーサルーラ側の建物へ移動すると、再び転移陣を使ってソーサルーラ王宮に向かった。


 そしてローレシアが国王への謁見を申し込むと国王は他の予定を全てキャンセルし、すぐに国王の執務室へと通された。





「急な謁見をお許し頂き、国王陛下には誠に・・・」


「挨拶などよい。それよりフィメール王国でのエール病治療がうまく言ったとの報告は受けていたが、その後の状況がよくわからなかったのだ。アスター侯爵は突然滞在を延長するし、我が国の外交官も王家から公式発表以上の情報が得られないでいた。あの国で今、一体何が起きているんだ」


「はい、それをご報告したく、急ぎ戻った次第です。実は・・・」



 ローレシアはフィメール王国で起きた出来事を順を追って説明していった。


 エリオット王子の廃嫡の理由が実は、王女にエール病を意図的に感染させたことだったこと。


 そして、それを裏で糸を引いていたのがキュベリー公爵だったこと。


 フィメール国王が公爵排除に乗りだし、王家やそれを支える貴族たちが分断して争いが始まったこと。


 実家であるアスター伯爵領が公爵軍に攻め込まれ、一部の領地を奪われていたこと。


 アンリエットの実家であるブライト男爵家を救うために一時的にアスター伯爵家の当主になり、キュベリー公爵軍を領地からまとめて一掃したことを告げた。




 その話を聞いていたソーサルーラ国王と、その隣に座っていたランドルフ王子は、あまりの想定外の展開に呆れ返ってしまった。


「エリオット王子の廃嫡の報告は受けていたがまさかキュベリー公爵がそのような暴挙に出ていたとは本当に驚いた。危険な奴だと思って警戒はしていたが、なんと大胆な・・・」


「ローレシア、お前がフィメール王国に行ってたった2、3週間だぞ。そんな短い時間で、なんでそんなことになるんだよ・・・」


「わたくしも、なぜこんなことになってしまったのか困惑しておりますが事態は既に動き出しております。全ての元凶であるキュベリー家は、先々代ぐらいから強引な手段で領地や権力基盤を拡大し、王家との婚姻関係も着実に結んで今や王国最大の権力を持つにいたりました。そしてわたくしを追放して次女のマーガレットを第三王子の婚約者に潜り込ませたことで、権力が確固たるものになったと確信したのでしょう」


 ローレシアの話を聞いた国王は、何かに思い当たったように、


「キュベリー公爵は外国勢力とも通じているところがある。あの西の大国の皇族とも政略結婚を結んでいることは知っているな」


「はい、存じ上げておりますが」


「最近そこからの軍事物資がフィメール王国へ流れていて、不穏な気配は感じていたのだ」


「それは存じませんでした。だからキュベリー公爵軍はあのような立派な装備を大量に保有していたのね」


「今回の件、下手をするとフィメール王国内の騒動に他国の軍勢が介入してくる危険性もある」


「それは我がソーサルーラについても、同じことが言えますよね」


「そうだ。アスター侯爵は一時的にせよ、今はフィメール王国内に領地を保有していることになる。よって侯爵から王家に要請があれば、我が国はアスター家の領地保全のために派兵を行う用意がある」


「そのことですが、わたくしはその領地をすぐに手放すつもりです」


「すぐに手放すだと?」


「わたくしはもともとフィメール王国に戻る気がございませんので、いずれはあの領地をアスター家の誰かに渡そうと考えていたのですが、その前にフィメール王家が領地を接収するために大軍を進軍させました。わたくしはこれを機にフィメール王家に領地を譲渡しようと考えており、そのことも本日ご相談させていただくつもりでした」


「・・・なるほど。侯爵が我がソーサルーラを選んでくれたことは大変うれしいが、その領地はすぐには手放さない方がいい」


「とおっしゃいますと?」


「現国王が暗殺されるか懐柔されて、キュベリー公爵が完全に王国の支配権を握った場合、アスター家の領地はまるまる公爵のものとなる。その結果、公爵が国内貴族への見せしめのために、そなたの領地や領民にひどい仕打ちを行う可能性が高い」


「アスター家の領民たちが見せしめに使われるなんて絶対に許せません! でもそう簡単に王国の支配権が奪われてしまうものでしょうか。実権は未だに国王が持っていますし、貴族の中には公爵を良く思っていないものがたくさんいます」


「あくまで可能性だ。だがいずれ領地を手放すにしても、そのタイミングは良く見極めて行うのだぞ」


「貴重なご助言、ありがとう存じます」


「侯爵は我が国にとって大切な人間だからな。ランドルフ、いつでも派兵できるように騎士団をフィメール王国の国境付近に展開しておけ」


「わかりました父上。俺もローレシアと一緒にフィメール王国に行きたかったところなので、喜んで出兵いたします」


「うむ。それでアスター侯爵はこれから直ぐにフィメール王国に戻られるのか?」


「本日はもう遅くなりましたので、今夜は自分の邸宅に戻り、明朝、転移陣をお借りいたしたく存じます」


「わかった、そのように手配しておく」





 国王への報告が終わり、ローレシアたちは久しぶりにアスター邸に帰宅することにした。冬は早く日が落ちるため、夕方だけど辺りはもう真っ暗だ。


「ただいま戻りました」


 ローレシアが屋敷に入ると、侍女たちが慌てて玄関ホールに出迎えた。侍女長のマリアと同級生のエミリーだ。


「まあまあ、これはローレシア様。お帰りなさいませ」


「ただいまマリア。今夜一晩だけここに滞在することになりますが、お食事の支度は大丈夫でしょうか」


「すぐに用意するように命じます。それでこちらの方々は?」


「ソーサルーラ王国騎士団のジャンと、フィメール王国騎士団のロイ、ケン、バンです。アルフレッド王子の代わりに今はこの4人がわたくしの護衛騎士をしてくれています」


「まあそうでしたか。それでは護衛騎士の皆様方のお部屋も、すぐに用意いたします」




 アスター邸の標準服であるメイド服に着替えたローレシアとアンリエットは、その姿に目を丸くしているジャンたち護衛騎士や屋敷の侍女たちと一緒に、久しぶりに食堂で夕食を食べた。


 その後、ジャンたち4人は玄関ホールの2階にある客間へと通され、ローレシアはアンリエットを連れて自室へと戻った。その後ろに義妹のサラとニアがついて来たが、アンリエットがそれを押しとどめる。


「サラ、ニア、今日のお風呂当番とお花摘み当番は必要ありません」


「え、どうしてですか?」


「・・・・今日は特別な日なので、私一人でお嬢様のお世話を致します」


「えぇ・・、せっかくお義姉様がお戻りになられたので、お世話をするのを楽しみにしておりましたのに」


「また次からお願いしますが、今日だけはあなたたちには遠慮してほしいの」


「・・・わかりました。それではお部屋のお仕度だけして、私たちは自分の部屋に戻ります」


「ごめんね、サラ、ニア」





 久しぶりの部屋に入り、サラとニアが手早く部屋を整えて自室に戻っていくと、アンリエットがお風呂の仕度を始めた。


(今日はめずらしく、アンリエットがお風呂当番をするんだな。サラとニアが寂しそうに帰っていったが、どうしてそこまでこだわるんだろう)


(・・・・・)


(どうしたんだローレシア。急に黙り込んで)


(・・・・・)


(うわっ、すごい緊張感がローレシアから伝わってきた。これから何かあるのかよ)


(あ、あの・・・・わたくしっ)


(ゴクリッ・・・、ちょっと待て。俺まで謎の緊張感に包まれてきたよ。ちょっと深呼吸をしてくれ)


(え・・・ええ、そうね!)





 深呼吸をして少し落ち着いたローレシアが、ゆっくりと話し始めた。


(ナツ・・・・・ブライト領で公爵軍を撃退した時のわたくしの告白を覚えていますか)


(ああ、一生忘れるものか)


(では、その時にわたくしが最後の覚悟を決めたって言ったのは覚えてる?)


(ああもちろん。俺のことが好きだって告白する覚悟を決めてくれたんだよな。本当は俺から告白すべきだったのに、いつもローレシアに覚悟を決めさせてる。ダメだな俺は)


(・・・あの時に言った最後の覚悟って告白をすることじゃないの。・・・わたくしの全てを見せる覚悟)


(全てを・・・見せる覚悟・・・)


(わたくしの・・・ありのままの姿をナツに見てほしいの・・・今夜これから)


(・・・ありのままの姿・・・)


(・・・その前に、ナツに一つお願いがあるの)


(・・・なんでも言ってくれ)


(今からわたくしと、結婚式を挙げてください)


(結婚式・・・)


(わたくしたちは一つの身体を共有していて、肉体的には永遠に結ばれることはないから・・・せめて二人の関係を確かなものにする何かが欲しいの)


(・・・そういうことなら、ぜひ俺も何かが欲しい! そうか、それで結婚式か・・・・うんいい考えだな。でも一体どうすればいいんだろう。俺は結婚なんかしたことないし、そもそもローレシアが初めての彼女なので、そういうことはよくわからないんだ)


(わたくしのことを彼女って言ってくれた。嬉しい)


(俺もローレシアが彼女になってくれて、すごく嬉しいよ。でもあっという間に結婚か)


(・・・うん。それでね、ナツがわたくしにこの指輪をつけてくれればいいの。わたくしの国では結婚する時、殿方が相手の左手薬指に結婚指輪をつけてあげるのが習わしなのよ)


(この指輪・・・これはどこから?)


(ここに来る前、お母様から譲り受けたものなのよ。アスター家の当主夫妻が結婚式で交換するの。こっちの指輪はお父様から無理やり奪って来ました。殿方用は右手中指につけるのが習わしよ)


 そう言うと、ローレシアは自分の右手中指に指輪をはめた。そして、



 【チェンジ】



 身体の操作を代わった俺は、その手に握りしめていた指輪を見つめた。


(その指輪をつけてくれたら、その時からわたくしはあなたの妻になります)


(ローレシア・・・俺はキミに永遠の愛を誓うよ)



 そして俺は自分の左手薬指に、指輪をつけた。


(ナツ・・・愛しているわ)


(俺もだ。愛しているよローレシア)




 その日、俺たちは結婚した。

次回も続きます


お楽しみに

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― 新着の感想 ―
[一言] おー!いい感じのカップル誕生ですね( ´∀` )b 続き楽しみにしています♪ヾ(*・∀・)ノ
[良い点] 活動報告拝見しました。 感想欄が炎上している訳ではないようなので、どちらで賛否両論なのか存じませんが、ラノベをこのような形で公開していれば、こういうこともあると思いますよ。気にせず作者様の…
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