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第84話 ブライト城の攻防戦

 ブライト男爵領はアスター伯爵領から馬で丸1日の距離にあり、途中森の中で夜営をし、ローレシアたちアスター騎士団が到着したのは翌日の昼前だった。


 ブライト男爵の居城が見えてくると、キュベリー公爵の騎士団が城を包囲して攻撃を加えている様子が確認できた。


 まだ城門は突破されていない。だが、



「・・・城が炎上している。アンリエット!」


「お嬢様、あの程度の火災ならまだ耐えられます。それよりも敵にどうやって攻撃を加えるか作戦を立てましょう」


 アンリエットがそういうと、ローレシアの周りに護衛騎士たちが馬を近づけてきた。ローレシアは数百名規模の戦闘を行った経験がないため、王国の騎士団に所属しているジャンやケンたちに意見を求める。


「ジャン、ケン、バン、みんなの騎士団ではこの場合どのような作戦を取るのですか」


 まずジャンが、


「お嬢、この場合は騎士団でなくても、下町の悪ガキならそっと近づいて後ろからガツンだな」


 するとケンも、


「そうですね。まだ敵は我々に全く気がついていないようなので、ここはローレシア様のようなエレガントさで、そっと近づいて奇襲です」


 バンも、


「ローレシア様が命令されるなら、僕はどんな作戦だって構いません」


「・・・・わかりました、敵にそっと近づいて背後をつく奇襲作戦で行きましょう。敵騎士500に対して我が騎士団は300。数の劣勢を覆すために、初撃でできるだけの損耗を与えたいので容赦はいりません。チャンスは一度きり、みなさまがんばりましょう」


「はい、ローレシアお嬢様」


「それからジャンと土魔法使いの人は、また例の作戦をお願いします」


「うへー、またあれか。了解しました、お嬢!」






 アスター騎士団は静かに馬を走らせて敵にそっと近づく。ブライト城への大攻勢に士気が上がった公爵軍は、完全に背後への警戒を怠っている。木や岩陰にうまく身を隠しながら敵を取り囲むように扇形に騎士たちを配置させると、ローレシアとアンリエットが攻撃のタイミングを合わせる。


(・・・・こちらの準備はできました。アンリエット今です)


(承知しましたお嬢様)


 そしてアンリエットが全軍に号令を出す。


「全騎、撃て!」



 敵背後に姿を現したアスター騎士団は、アンリエットの号令のもと、突撃しながら遠隔攻撃を開始した。敵キュベリー公爵軍に至近から放った矢が、魔法が、一斉に襲いかかる。


「うわああっ!」


「敵襲ーーっ!」


 奇襲攻撃がうまく成功し、完全に虚を突かれた敵軍は防御や反転する暇も与えてもらえず、次々にその命が奪われていく。


 だが二の矢、三の矢と続くうちに敵もようやく一時の大混乱が収まり、隊長が部下に指示を出す。


「全軍このまま前進して、敵の射程外に退避せよ」




 城への攻撃を中止し、一旦奇襲を逃れて態勢を整えるらしい。左右は空いているがこちらに転じるとアスター騎士団の矢や魔法の格好の的になる。そして真正面は城壁だ。だが一方向だけ城壁をかすめて前進できる経路がある。敵はその経路を目指して駆け抜ける。


 そしてそこから大きく迂回し、アスター騎士団の側面を突く気なのだろう。


 だが、その動きは予想通り。


「ジャン、今です」



 【土属性魔法・ゴーレム】



 俺たちは敵の逃走経路を予測し、騎士団本体はアンリエットに指揮を任せて、あらかじめジャンたち土魔法使い数名をワームホールで転移させていたのだ。


 そしてたくさんのゴーレム兵を起動寸前の状態で待機させ、魔法発動と同時に一斉に地表に姿を現し、敵兵の前に壁を作った。


「うわあ、ゴーレム兵だ!」


 図体の大きなゴーレム兵が敵兵の進路をふさぐと、こん棒を振り回して騎士を馬ごとふっ飛ばす。


「なんて馬鹿力なんだ、こいつら」


 のろまだが騎士団の進路を塞ぐには絶好の魔法だ。




 そしてジャンの隣に立ったローレシアが、ハッタリ魔法・グロウを発動する。敵兵の目の前、ゴーレム兵たちに守られながら、ローレシアの身体が虹色に輝き大人へと成長していく。


 当然ローレシアの頭上には神々しい光が降り注ぎ、敵兵は急速に戦意を喪失させていく。


「何だあの女騎士は・・・なんて神々しい」


「聖女・・さま?」


 そんな敵騎士にローレシアは警告を与える。


「直ちに軍を引きなさい。さもなければあなたたちに神罰が下ります。神はこの侵略行為を絶対に許しません。神の怒りの閃光があなたがたを焼き尽くす前に猶予を与えます。命の惜しいものは直ぐに逃げなさい」


 そしてローレシアはカタストロフィー・フォトンの呪文の詠唱を始めた。


 威嚇攻撃でもするのか?


 俺は慌てて、昨日やったのと同じように魔法イメージを構築する。




 ローレシアの警告を受けた敵は前後をアスター騎士団に囲まれて立ち往生している。背後からは間断なく遠隔攻撃が放たれ続け、この状況に気が付いたブライト騎士団も、城壁から大量の矢を敵に撃ち始めた。


「狼狽えるなお前たち。数では我々の方が上回っている。早くこのゴーレム兵どもを蹴散らして、偉そうに警告してきたその女騎士を殺せ」


 隊長に逃げるつもりはなく、あくまで戦いを選ぶようだ。だが逃げようとする騎士を必死に鼓舞すれど、騎士たちの士気は一向に上がらない。


 ローレシアはさらに魔力を高めて行く。



 ズズズズズ・・・



「おいちょっと待ってくれよ、何だよこの魔力は! どう考えてもヤバいやつだぞこれ」


「魔力のない俺でも感じるぐらいだ。これはやはり、神からの攻撃じゃないのか!」


 そしてついに詠唱が終わり魔法が完成した。昨日よりもさらに強力なレーザーの発射態勢が整ったのだ。


「さあ、神の鉄槌が地上に現れました。今逃げるならこれを撃つのはやめて差し上げます。でも攻撃の意思を捨て去らない場合は、容赦はいたしません」


 ローレシアが真剣な顔で敵を睨み付ける。だが怯える敵騎士たちに隊長が毅然と命ずる。


「全員突撃せよ」


 隊長の命令に騎士たちは顔を引きつらせながら、突撃を開始した。ローレシアに向けて矢も多数放たれた。


 ローレシアは悲しそうな顔をして、そしてその言葉を発した。




 【光属性魔法・カタストロフィー・フォトン】




 まばゆい閃光が敵騎士団を包み込む。


 そして先頭の数名の騎士を瞬時に蒸発させてこの世から完全に消し去ると、その後方の騎士たちにも一瞬で致命傷を与えた。


「ぐぎゃーーっ!」


「熱い・・・た、助けてくれ・・・」


 悶え苦しむ敵騎士団のさらに背後、まだ健在な騎士たちに向けて、ローレシアは無表情に次の魔法の準備を始める。



 ズズズズズ・・・・・



「また撃って来る気だ」


「じ、冗談じゃない。逃げろ!」


「こんなヤツとは戦えねえ!」


「ひぃーーーっ!」



 再び膨れ上がる膨大な魔力を感じて、敵兵は完全に戦意を喪失させた。逃走経路用にわざと開けられていた左右方向に散り散りに逃げていく。


 だが逃げ出す騎士たちに、隊長が命令する。


「待てお前たち! 命令を無視して逃げるな。魔法の詠唱中にあの女を討てばいいだけだろ!」


「それまでに俺たちの仲間が何人死ぬと思ってんだ」


「貴様ら、敵前逃亡は死刑だぞ」


「うるせえ、だったらお前が死ね!」


「何をする! うぐわあっ!」


 数人の部下に囲まれた隊長は身体を串刺しにされ、あっという間に息絶えて地面に捨て去られた。そして雪崩を打ったように敵軍が崩壊していった。





 敵軍は完全に逃走し、ブライト男爵の居城の周囲に敵兵は一兵たりとも残っていない。アスター騎士団は残党狩りは行わず、ローレシアの指示で生きている敵兵を捕縛し捕虜にしていった。


 この戦いの結果、アスター騎士団に死傷者はいなかったが、キュベリー公爵軍には最初の奇襲攻撃で50程度、その後のローレシアの攻撃で同数の死傷者が生まれた。



(ローレシア、お前・・・)


(ナツ・・・これが領主の責任なのです。例え一時的にせよ、領民や騎士団の命を預かったからには、それを脅かそうとする敵に対して何の容赦もすることはできません。敵に甘い考えで接した結果、自らの領民や騎士たちの命が失われたら、それこそ取り返しがつかないのです)


(そうかも知れないが、敵といえども大量に人を殺したんだぞ。本当に大丈夫なのか、ローレシア・・・)


(ナツの世界では、こういった戦争は起きないのでしょうか)


(いや、俺たちの世界でも常に戦争は起きていて、もっと悲惨な状況になっているが、俺の国は70年以上戦争をしていないから、こんな経験はまずしない。だから正直ちょっと戸惑っている)


(そうですか・・・。でもこれが、この世界の現実で領主になったわたくしの責務なのです。もしつらいなら戦闘行為はわたくしが行いますので、ナツは見ていてください)


(いや、こんなことをキミにだけ背負わせることはできない。俺たちは二人で一人、キミがその覚悟を決めたのなら俺も覚悟を決める)


(・・・でも無理はしないでね)


(ローレシア、身体の操作を代わってくれ)


(・・・はい)



 【チェンジ】



「アスター騎士団のみなさま、まだ助かる見込みが少しでもある敵兵は、わたくしが治療いたしますので、一ヶ所に集めてくださいませ。それから、もう助かる見込みもない敵兵も・・・一ヶ所に集めてください」


 そして敵兵に応急措置となるキュアを全体魔法でかけた後、俺は助かる見込みのない敵兵の前に立った。確かにこれは誰が見ても治療の施しようがない。


 俺は静かに目をつぶると、呪文の詠唱を始める。



 ズズズズズ・・・・・



 騎士団のみんなが思わず息を飲む。そしてアンリエットが悲痛な表情で俺を見つめると、



 【光属性魔法・カタストロフィー・フォトン】



 眩い閃光と共に、地面に横たえられた瀕死の敵兵を蒸発させた。


 これ以上苦しまないよう、トドメを刺したのだ。



(ナツ・・・ごめんなさい)


(俺の方こそごめんな、ローレシア。一時的に領主になればいいなんて俺が安易に言ったばかりに、キミに余計な覚悟を決めさせたようだ。だけどもう後戻りはできない。この血塗られた道を二人で歩いて行こう)


(うん・・・・二人で。今わたくしもやっと、最後の覚悟ができました。・・・愛しているわ、ナツ)

次回、ローレシアとアンリエットのそれぞれの想い


ご期待ください

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