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第83話 アスター伯爵領の女領主(あくまで仮です)

 俺はローレシアの言う通りに詠唱をしながら、魔法のイメージを頭の中に思い浮かべる。さっき伯爵の放った魔法はたぶんレーザー光線だ。それを念頭に伯爵のやっていた魔力オーラの操作をトレースしてみる。


 最初は身体中のオーラを循環させて魔力をどんどん大きくしていく。やがて体内に収まりきれなくなったオーラが身体からあふれ出し、回転しながら光属性の白い閃光を放つ。それを再び身体に押し込めてさらに循環。これを繰り返して身体の隅々から魔力を搾り取るのだ。


 それが限界に達したら、魔力を右手の先に集める。ローレシアは左手をロザリオに触れるように言っていたが、この魔法の魔方陣も最初からこのロザリオに入っていたんだな。


 さてここからがオリジナル。さっき伯爵がやっていた光の圧縮を現代風にアレンジだ。目の前の魔力の塊を光の粒子「フォトン」に変換。極小空間にぎゅっと押し込めていく。


 境界面上を反射しながら光が共振を始めて、周りのマナを吸収しながらどんどんと増幅していく。やがてエネルギーが臨界点に達すると・・・。


 よしできた。レーザー光線っぽく仕上がったな。




 次の魔法を詠唱しながら、俺の魔法を警戒していたアスター伯爵は、目の前に出現した光塊に驚愕した。


(この魔法は、まさかカタストロフィー・フォトン! ローレシアにはちゃんと教えたことがなかったのに、さっきのたった一度の詠唱で呪文を全て覚えたのか。いや、この魔法は呪文よりもイメージの方が難しい。だからローレシアなんかにこの魔法が使えるはずがなく、この勝負も私の勝ちだったはずなのに、こいつはマズイ。しかもなんなんだこの魔力量は。私のものとはケタ違い。ヤバイ!!)


「ま、待ってくれ、ローレシア! そんなものを撃たれたら城が吹き飛んでしまう。やめるんだーーっ!」



 【光属性魔法・カタストロフィー・フォトン】



 俺の右手から放たれた眩い閃光は、パーンッという乾いた音だけを残して天井に大穴を開けた。さらに上階の天井も同時にぶち抜いていて、その大穴からは冬の青空が顔を覗かせていた。俺は伯爵には当てないよう、上に向けて魔法を放ったのだ。


 それでも伯爵はその破壊力を目の当たりにし、恐怖で完全に腰をぬかして床にへたりこんだ。


 俺はゆっくりと伯爵に近づくと、その首筋に虹色のオーラをまとった魔剣シルバーブレイドを突きつけた。そして続けて詠唱していたアイスジャベリンの鋭い氷の槍が俺の頭上に次々と出現し、最終的に1ダースの槍が伯爵の身体に狙いを定める。



「チェックメイト」



 俺のこの一言に、アスター伯爵は力なく頷いた。


「・・・私の敗けだ、ローレシア」


「ではアスター伯爵、この領地を明け渡しなさい」


「わかった・・・」


 悔しさを滲ませながら伯爵はそう言うと、俺を連れて執務室のさらに奥の隠し部屋に入った。そこには古い魔術具が置いてあり、伯爵はその水晶の部分に手を翳し、俺にも同じようにやるよう促した。


「ここに手を翳せばいいのね」


 すると水晶の中の魔力が伯爵の身体に入っていくと同時に、俺の魔力が水晶の中へと入っていった。


「これはアスター家に古より伝わる当主交代の儀式。これでアスター家の当主はローレシアだ」


「わたくしの要求に素直に応じていただき、ありがとう存じます。アスター伯爵」




 さあこれで俺たちは一時的にアスター家の当主となった。早くアスター騎士団をブライト男爵領に進軍させなければ。もう時間がない!


 だが俺は焦る気持ちを抑えつつ、アスター家当主が座る大きな椅子にどっかと座ると次々に命令を下す。


「伯爵は騎士団を緊急招集なさい。マーカスたち分家は手分けして、なるべく多くの領民を城の前庭に集めること。それからジョセフたち執事は前庭で騎士団の出陣式の準備を。アンリエットたちも手伝ってあげて。その出陣式でわたくしが、キュベリー公爵家の侵攻に対する徹底抗戦を宣言いたします」


 するとマーカスたち分家は、アンリエットに叩き込まれた綺麗な敬礼をして、


「ハッ、アスター侯爵閣下! 私たち分家一同、直ちに領民をかき集めて参ります!」


 だが伯爵がマーカスを呼び止め、


「おいマーカス。お前いつからローレシアの家来になったのだ。いつもローレシアのことをののしっていたくせに」


「そんな過去の事は言わないでくれ。このマーカスめは今やローレシア様の忠実なる下僕。ご命令とあらばどんな汚れ仕事でもこなしてみせますぜ」


「マーカス! そんな気持ち悪い忠誠は示さないで! それに無駄口を叩く暇があるのなら、早く領民たちを集めに行きなさい」


「ハッ!」


 そういうと分家たちは全員駆け足で外に出ていった




「伯爵もぼーっとしてないで早く騎士を招集なさい」


「なんだとローレシア! それが親に対する口の利き方か!」


「もう親子じゃないって何度言ったら分かるのよ! いいから早く騎士団を招集なさい!」


 ぶちギレた俺は、執務机を思いっきり叩いた。


 すると、


 ドーンッ! バキッ! ガッシャーン!


 なんでそうなったのかよく分からないが、いきなり机が真っ二つに割れて、背後の窓ガラスも粉々に吹き飛んだ。


 突然執務室が大惨事になり、伯爵は完全に顔を青ざめている。だが怯える伯爵にもう一度命令をする。


「伯爵! は・や・く・招・集・な・さ・い」


 すると伯爵は慌てて立ち上がると、


「わ、わかった」


 そう言って執務室を飛び出していき、部屋には床にへたりこんだ母親だけが取り残された。


「・・・あなた本当にローレシアなの?」





(もうっ! ナツはいつもやりすぎなのよ)


(すまん。でもなんで机が真っ二つに?)


(魔法防御シールドが展開したままになってるのよ。戦いは終わったんだから、部屋の中でバリアーを拡げないでよ。危ないでしょ)


(あ、そうだった)


(それに、椅子にふんぞり返ってみんなに命令するのもやめて)


(・・・なんで? 一応ローレシアっぽく見えるように演技したつもりなんだけど)


(どこがなのっ! あんなの短気でわがままな女王様がアゴで家来をコキ使ってるだけじゃないの。わたくしをなんだと思ってるのよ、もうっ!)


(いや、俺から見たら高位貴族も女王様もあまり区別がつかないと言うか)


(・・・でもいい気味ね、お父様のあの怯え方って。フフフ、なんかちょっとスッキリしたわ)


(それはよかった。少しやり過ぎたことは認めるけど時間がないし仕方がなかったんだ。早くブライト男爵領に援軍を送らないとな)


(そうよね。とにかく公爵家の騎士団を蹴散らすことが何よりも最優先よね)






 伯爵が緊急招集し、城の庭にずらりと集結した騎士300騎と、分家たちがかき集めた千人程度の領民を前に、城のバルコニーに伯爵と並んで立った俺は、拡声の魔術具を使って全員に聞こえるように話した。


「つい先ほどこのアスター家の当主は、隣にいるアスター伯爵から、このわたくしアスター侯爵に引き継がれました。本日からこのわたくしがこの領地の領主ですので、わたくしの指示に従うこと。いいですね」


 この突然の発表に、騎士団も領民も騒然となった。


「おい、あれってローレシアお嬢様じゃないのか? いつこの領地に帰って来られたんだ」


「この領地はついにローレシア様が継がれたのか」


「でもローレシア様はソーサルーラで大聖女と侯爵になられたはずなのに、なんで今さらこの落ち目のアスター伯爵家の当主なんかに?」


「ローレシア様がここの当主になるということは、このフィメール王国にお戻りになられるということだ。まてよ、あるいはこの領地がフィメール王国から魔法王国ソーサルーラに移ることになるのか?」




 騎士たちが混乱しているが俺は構わず話を進める。


「みなさまも知ってのとおり、この領地はキュベリー公爵の執拗な攻撃や嫌がらせを受けて苦しめられています。ほとんどの臣下は我がアスター家から去り、この伯爵領も少しずつ領土を奪われて、アスター家の長い歴史の中でも最大の危機に直面しています。でもわたくしが来たからにはこれ以上の暴挙は許しません。断固として公爵家に対抗いたします」


「おい、ローレシア様がキュベリー公爵に対抗するっておっしゃってるぞ!」


「公爵に逆らって、俺たちに勝てるのか」


「だが、ローレシア様はあのソーサルーラの大聖女、つまりバックには軍事強国ソーサルーラがついてる」


「だとしたら、キュベリー公爵と言えどもそう簡単には手が出せないはず。もうおれたちは公爵家の不法行為を見て見ぬふりをしなくていいのか」


「ああ、これまでは伯爵に止められて何もできなかったが、ローレシア様からのお許しが出たんだ。これからは思う存分に仕返しができる。あまりの弱腰に盗賊にまでなめられ放題だったこの屈辱を、倍にして返してやる」


「おい、ローレシア様の話がまだ続くぞ」




「そしてみなさま聞いてください。今まさに、我がアスター家に最後まで臣下として残ってくれたブライト男爵の居城が公爵軍500の兵に包囲されています。すでに攻撃は始まっており、ブライト騎士団200騎が必死に防衛中です。しかしみなさまもご存じのように、あの居城は籠城には向いておりません。城門を突破されて城下町が蹂躙されるのは時間の問題。それを見過ごしてもいいのですか!」



「なんだと・・・ブライト男爵領がそんなことに!」


「あの忠義の男、ブライト男爵を放っておくわけにはいかない」


「直ちに救援に駆け付けよう!」



(ローレシア、アスター騎士団のみんなは男気のある素晴らしい騎士たちじゃないか!)


(そうですね。今まではお父様の命令で忸怩たる思いをしてきたのでしょう。でもよかった。みんながちゃんと騎士でいてくれて)


(よし、彼らを引き連れてすぐにブライト男爵の救援に行くぞ)




 俺は身体の操作を再びローレシアに交代し、アンリエットたち護衛騎士や分家、それにローレシアの両親も連れて急ぎ城の前庭に降り立ち、騎士団の前に姿を現した。


「これよりブライト男爵領に向け進軍を開始します。アスター騎士団全騎、わたくしのあとに続きなさい。全軍出撃っ!」


「「「ハッ!」」」


 アスター騎士団を引き連れて先頭で城門を駆け抜けたローレシアに、集まった民衆は興奮と熱狂のるつぼと化し、大歓声でその雄姿を見送った。




 ローレシア様万歳。


 その声援はいつまでも続き、全ての騎士たちの姿が完全に見えなくなった後も、しばらく鳴りやむことはなかった。

次回、ブライト男爵領の防衛戦です


ご期待ください

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