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第8話 令嬢勇者ローレシア爆誕

 翌朝、旅の疲れがすっかりとれた俺たちは、さっそく冒険者ギルドへと向かっていた。


 アンリエットは途中の防具屋に寄って防具と盾を購入し、見事な女騎士姿になっていた。兜を脇に抱えて颯爽と歩くアンリエットに、街行く人々はみんな思わず振り返っている。後ろで跳ねている緑のポニーテールも健康的で美しい。


(アンリエットかっこいい・・・)


(アンリエットは騎士団の中でもファンが多く、特に他の女騎士たちの憧れの的でしたから)


(騎士団! ローレシアの家には騎士団があるのか)


(貴族家は普通どこでも持っています。アンリエットの実家であるブライト男爵家にも騎士団はあるのですが、彼女はわたくしの護衛騎士ですので、アスター侯爵家の騎士団に所属していました。わたくし直属のバラ騎士隊の隊長ですよ)


(バラ騎士隊っ! 隊長っ!)


(ええ、アンリエットはとても強いのです)


 俺は改めて、アンリエットの優秀さに感心した。侍女としてよく気がきき何でもこなす上、騎士としても強いのか。なによりもローレシアへの忠誠心が厚い。すごい女の子だ。




 さて、片や俺の服装は相変わらずの修道服である。シスターローレシアのままだ。


「あのー、アンリエットさん?」


「なんでございますか? ローレシアお嬢様」


「わたくしの装備はこれで大丈夫なのでしょうか」


「お嬢様は回復系魔法を使う職業をご希望されているので、修道女の服装がそのまま冒険者の装備として使えると思います」


「たしかに回復職は僧侶やシスターと相場は決まっていますからね」


 妙に納得してしまった俺は、そのままアンリエットに連れられて冒険者ギルドへ到着した。






 冒険者ギルドは、冒険者たちにクエストを紹介してその活動をサポートする互助組織であり、どの街にもたいがい一つはある。この街の冒険者ギルドは宿屋と同じ繁華街の中にあり、クエストを求めて朝から冒険者でにぎわっていた。


 さて冒険者と一口に言っても、様々な年齢層の男女がおり、ジョブも戦士や格闘家などの肉体派から、黒魔導士といった頭脳派まで、RPGでおなじみの様々な職種がある。


 そして冒険者がギルドを利用する際には、最初に冒険者登録が必要で、個人の適性を検査してその人にあったジョブを登録し、ギルドがクエストを依頼する際の判断基準に用いるのである。


 俺たちはその冒険者登録を行うため、ギルドの奥にいる受付嬢に話しかけた。


「あら、あなたたちは初めて見る顔ね。城下町クールンの冒険者ギルドへようこそ」


「私たちは冒険者になりたいのだが、ここで登録を行うことは可能か」


「もちろん大丈夫よ。じゃあさっそく適性検査をするから、こちらの部屋に入ってちょうだい」


 受付嬢に案内されるがまま、俺たちは奥の部屋へと入って行った。





 部屋の中には大きな水晶が一つあり、この水晶に手をかざすとその人が持つ魔法の属性や身体能力などが見えるらしい。まずはアンリエットから適性検査をする。


 アンリエットが水晶に手をかざすと、水晶の中に赤い光が輝き始めた。それと同時に、何か文字のようなものが水晶の中にいくつか浮かんでいる。


 受付嬢がそれを真剣に読み取って、手元のメモに何かを書き込んでいく。そして、


「アンは火属性の魔力が強く、また武術にも秀でていて槍や剣、斧が全て扱えるわね。そして魔法と剣術が高いレベルでバランスが取れていてとても素晴らしいわ。ギルドに登録するジョブは上位職種の魔導騎士よ。これから頑張ってね」


「魔導騎士か、登録感謝する」


 アンリエットはそう言うとすっと横にずれて、俺に水晶に手をかざすよう促した。




(なんか緊張するな。ローレシアは何属性だろうな)


(わたくしは光属性ですよ。ただ、魔力は貴族の平均以下しかございませんが・・・)


(そうか、光属性の回復職だったな。もう結果は分かってたか)


 だったら何も緊張する必要がない。俺は水晶に手をかざしつつ、ちょっとでもいい結果が出るように念を送ってみた。


「えい」


 するとアンリエットの時とは異なり、水晶の中に赤、青、緑、茶、黄、白、紫の7種類の色が同時に現れた。その7色の光がだんだんと強くなり、それらが渦を巻き始めて融合すると虹のように色を変えながらキラキラと瞬きだした。


 これは一体なんだろう・・・。


(ローレシア・・・これが光属性の反応なのか? なんか随分とド派手だな)


(・・・・いいえ、光属性は白い光が現れるだけで、わたくしもこんな反応初めてみました)


(そうなのか。だったらローレシアは何か別の属性でも持っていたんじゃないのか)


(そんなはずはないのですが・・・変ですわね)


 俺たちが頭の中で会話をしている間も、受付嬢は水晶に現れた7色の光と手元の分厚い本を交互に見ながら、うんうん唸っていた。そして驚愕の表情で検査結果を俺達に告げた。




「・・・ちょっと信じられないけれど、どうやら間違いなさそうね。ローラは魔法の7属性全てに適性があり、さらに光と闇の2属性を同時に持つことで派生する聖属性の魔法も使える8属性持ち。しかも魔力もかなり高い。登録できるジョブは・・・勇者か聖女のどちらでもいいみたい。どっちにする?」



(おいおい、随分と話が違うじゃないか。平均以下の魔力で光属性しかないという話だったからすっかり回復職の気分でいたのに、全属性に適性があってしかも高い魔力を持ってるってさ。本当なのかこれ?)


(ええ! わたくしも驚いています。属性が多いこともそうなのですが、水晶の中の光がこれだけ明るくなることなど、これまで一度もありませんでした)


(でもこれはすごいよローレシア、勇者か聖女のどちらかを選べるんだよ! 俺は勇者がいいんだけど、ローレシアはどっちがいい?)


(そんなこと急に聞かれても、わたくしには判断できません。ここはアンリエットに相談いたしましょう)


(それもそうだな)




「アン、わたくしはどうすればいいと思いますか?」


 するとアンリエットはキラキラとした瞳を輝かせて、


「凄いですよ、お嬢様! いつの間にこのような魔法属性を手に入れられたのですか!」


 アンリエットがすごく喜んでいる。彼女から見ても、以前のローレシアからは考えられないことのようだ。


「ど、どうしてこうなったのかは、わたくしも存じ上げませんが、とりあえずどちらで登録すべきかを考えましょう」


「そうですね! お嬢様は戦闘があまりお得意ではありませんので、聖女の方が向いていると思います。でも聖女を名乗ると教会への登録も求められてしまうので、何かと行動の邪魔になりそうですね・・・逃亡とか(ボソッ)」


「教会への登録・・・たしかに邪魔ですね。ところで受付嬢さま、登録しなかった方のジョブの能力は、使えなくなったりしますか?」


「そんなことはありませんよ。登録はあくまでもクエストの委託可否をギルド側が判定するためのものなので、冒険者の能力に制限がかかることはありません」


 なるほどだったら・・・。


 俺はアンリエットと目配せをして、それからおもむろに受付嬢に告げた。


「勇者でお願いいたします」






 冒険者登録が終わり、ついに俺は勇者となった!


 これだよ、これ!


 ここから俺の伝説が始まるのだっ!



 テンションMAXの俺に、受付嬢は説明を続ける。


「それではローラ、あなたは極めてレアなジョブである勇者になったわけだけど、いまから大事な注意事項を言うから覚えておいてね」


「はい、何なりとお申し付けください」


「まずあなたは身体能力が皆無よ。そして得意とする武器も何もなし。ジョブは確かに勇者なんだけど、クエストにはかなり制限をかけさせてもらうわね」


「制限・・・ですか?」


「そう制限。勇者なんて伝説級のレアな職業なのに、本当にもったいないわね。どうしてそんなに身体能力がないのか教えてほしいぐらいよ」


 なんだか急に雲行きが怪しくなってきたな。


「そんなに身体能力がダメですか?」


「今まで見たことがないほど低いわね」


 なん、だ、と?


「では、どのような制限がかかるのでしょうか?」


「ローラだけ定期的に検査を受けてもらうわ。そしてギルド独自のレベル判定をしてあげる。ちなみに今のローラは勇者レベル1よ」


 ゆ、勇者レベル1・・・。


「あのー、勇者レベル1だとどんなクエストを受けることができますか?」


「そうね。今のローラだと魔獣に遭遇するとすぐに殺されてしまうので、薬草採取のクエストが最適ね」


 薬草採取ーーーっ?!


 伝説級のレア職業の勇者なのに、小さい子ども用のクエストである薬草採取しかできないだと?!


 ゴルアーーーッ! おいこらローレシアーッ!

次回よりポンコツコンビで令嬢勇者はじめます


ぜひご期待ください

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