第78話 分家へのしつけ
避難所を回ってけが人を治療した後は街の消火活動だ。
今度は身体の操作を俺に交代し、水魔法・ウォーターで水を発生させては街の住人のバケツリレーにより消火を行っていく。
そこへ治療を終えたアンリエットたちもやってきて、消火現場に人が増えてきた。
「アンリエットは、住人達と一緒にバケツリレーを。ジャンは土魔法で消火活動をお願い」
「お嬢、土魔法でどうやって火を消すんだ?」
「ゴーレムを召喚して火元に突入させて、そこでまた土に戻せば火を消火できると思います」
「ゴーレムにそんな使い道が! なるほど承知した」
「それから、マーカスや他の分家たちの中で水魔法か土魔法を使える者はいますか?」
「俺は水魔法なら少し・・・」
「そう、ではマーカスはわたくしと共に水を作る係、それ以外の分家たちはアンリエットと一緒にバケツリレーに加わってください」
「わ、私たちに力仕事は・・・・それに平民と一緒に作業なんかできません」
俺の指示に、マーカスに連れてこられた分家のおじさんやおばさんたちが不満を漏らした。ローレシアが彼らにはアメとムチが必要と言っていたが、どうやらこのことらしい。それなら俺もローレシアっぽく厳しく接してみるか。
「何を言っているのですか、あなたたちは。この緊急事態に貴族も平民もございません。アンリエット、この者たちがちゃんと働くようにしっかりと指示をしてください」
「かしこまりました、お嬢様」
「冗談じゃないわ! なぜ私たちがブライト男爵家の娘なんかの指示を聞かなければならないのよ!」
「そうだ、これでも俺たちは伯爵家だぞ!」
「そんなことをおっしゃるのなら、今すぐあなたたちをこの街から追放して、わたくしの闇魔法ワームホールで敵騎士団のど真ん中に転移させますよ。それでもいいのですか」
「ひーっ! まさか、そんな酷いことを私たちにしませんよね?」
「わたくしは本気です。死にたくなければ早く消火活動なさい!」
「はっ、はいっ!!」
「アンリエット、この人たちがサボらないように、しっかり見張っていてくださいね」
「承知いたしました、ローレシアお嬢様。この分家の者たちをビシバシ働かせます」
「よろしくお願いね」
そうして俺はマーカスと一緒に水を作っているのだが、バケツリレーだと建物の高所に水が届かず、建物がなかなか鎮火しない。だからといってアイスジャベリンで水を飛ばしても、全然水量が足りないだろうし困ったな。
・・・そうだ。
【闇属性魔法・ワームホール】
俺は目の前の地面にワームホールを出現させると、人ではなく地面を転移させるように魔法を作動させ、それを建物の直上に転移させて大量の土砂を降らせることにした。
建物の上空に半球形の巨大な土の塊が出現すると、それがそのまま建物の屋根に落下する。そして建物の屋根をぶち抜きながら土砂が建物の中に降り注ぎ、少し火の手が弱まった。
そして次に、
【水属性魔法・ウォーター】
今度は今できたばかりの地面の大穴に大量の水を発生させ、それを再びワームホールで建物の上に転移させると、上空から大量の水を建物に投下した。
「すげえ・・・建物の火がどんどん消えて行く」
「ローレシア様が街を、我々を救ってくれた!」
街の住人が大歓声を上げる中、マーカスは信じられないものを見るように呆然としていた。
「何なんだこの膨大な魔力は、これが本当にあのローレシアなのか? それに一つ一つの魔法が強力すぎる。それも光魔法ならまだわかる。だが闇魔法も水魔法もどの属性魔法も強力。俺の水魔法なんか足元にも及ばないほどの大量の水を次から次へと作り出し、それを闇魔法でまとめて上空に飛ばす。こんなことまともな人間にできることじゃねえ・・・」
「マーカス、無駄口をたたく暇があるのなら、早く水魔法の呪文の詠唱をなさい」
「は、はいっ! 失礼しましたアスター侯爵閣下!」
そうして街の火災をなんとか鎮火させると、次は街の外で演習という名の攻撃をしかけてくるキュベリー騎士団の撃退だ。
俺はマーカスに命じて、この領地に逃げ込んでいる分家全員と全ての騎士を集めさせた。
そしてマーカスが連れてきたのは、マーカスを含めた4つの分家家族とその配下の騎士50名だった。
「アンリエット、号令をお願い」
「はっ! マーカス以下アスター伯爵家分家一同及びアスター騎士団、そこに全員整列してローレシア様に敬礼っ!」
アンリエットの号令に、半数ほどはちゃんと敬礼をしたものの、残り半数は不服そうな顔でただこちらを見ているだけだった。こいつら本当に言うことを聞かないんだな・・・。
「マーカスっ! どうやらこの領地には、わたくしやアンリエットの指示を聞かない者たちがいるようですね。わたくしは別にあなたたちを助ける義理はございませんので、これにて失礼いたします」
「ま、待ってください、アスター侯爵閣下! お前たち、早くアスター侯爵閣下に敬礼をしろ!」
「いやしかし、なんで俺たちがローレシアなんかに敬礼をしなければならないんだ。それに俺の領地は本家に見放されて公爵に奪われてしまったんだぞ。そんな本家の長女に頭を下げたくない」
「バカ、お前はなんてことを言うんだ。俺がどれだけ頭を下げてローレシアに、いやアスター侯爵に助けに来ていただいたと思ってるんだ。それにお前たちは見てないと思うが、さっきの消火活動で俺は見たんだ。アスター侯爵の魔力はとんでもないレベルなんだ」
「あのローレシアがか? 確かにソーサルーラの大聖女になったようだが、人間、そんなに急に魔力が増えたりなんかするもんか」
「いい加減にしろ! そもそもローレシアなどと呼び捨てにするな、アスター侯爵閣下と呼べ!」
この切羽詰まった時に、いつまでもグダグダと面倒くさい奴らだな。
「マーカス。その者たちが言うことを聞かないのであれば、わたくしはもう王城へ帰ります」
「アスター侯爵閣下! しばしお待ちを! だ、大丈夫です。この私めが今すぐこいつらを殴りつけて、侯爵の命令に従わせます」
「そう? では早くしてちょうだい」
「はっ、直ちに! 今、侯爵閣下に敬礼しなかったやつ全員に鉄拳制裁だ。お前ら歯を食いしばれ!」
「なんだと! やめろマーカス! うわあ・・・」
バキッ! ゴスッ! ドゴッ!
助けを求めるのもお構いなく、言うことを聞かない分家や騎士たちをマーカスは一人ずつ殴っていった。
(ちょっとナツ。さすがにやり過ぎじゃないの?)
(だってアメとムチが必要だってローレシアが言ってたじゃないか)
(そうですが、何もここまで・・・)
(でも俺はローレシアのマネをしてるだけなんだが、どうだ似てただろ?)
(わたくし、こんな女王様みたいな態度など、絶対にとりません!)
マーカスの鉄拳制裁が終わり、全員がアンリエットの前にきれいに整列した。
「コホンッ、それでは改めてアンリエット、号令をお願いします」
「はっ! マーカス以下アスター伯爵家分家一同及びアスター騎士団、ローレシア様に敬礼っ!」
ビシーーッ!
「よろしい。それでは今から、キュベリー騎士団に対して威嚇攻撃を開始いたします。
次回こそ、反撃開始!
ご期待ください




