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第76話 歓迎式典(後編)3組の父と娘

 それから何人かの貴族が挨拶に見えた後、再びローレシアの顔見知りがこちらに近付いてきた。


 アンリエットの父親のブライト男爵だ。男爵は周りに聞こえないように、コッソリと話した。


「ローレシア様お久しぶりです。マリエットから報告を受けておりましたが、例の死者召喚の魔法がうまく作動したようで本当によかった。それにソーサルーラでは大変なご活躍をされたご様子で。お元気なお姿を拝見できてとても安心しました」


「ブライト男爵。わたくしが今こうして生きていられるのは全て、ブライト男爵家の皆様のお力と、ご先祖様から代々受け継がれてきたというあの死者召喚の指輪のおかげです。それにアンリエットには何から何までいつも助けられて本当に感謝の言葉もございません」


「うちの娘など剣の腕しか取り柄のないじゃじゃ馬ですが、お役に立てたのなら何よりです」


「お父様、じゃじゃ馬は酷いと思います!」


 ブライト男爵の言葉に、アンリエットがほっぺたを膨らませて怒っている。


「すまんすまん、だが無事役目を果たしたようだな」


「はい、一時はローレシアお嬢様を暗殺されるという大失態を犯してしまいましたが、どうにか無事ここまでお連れすることができました」


「ご苦労だったアンリエット。そしておかえり。お母さんも来ているから、後で会っておくといい」


 そう言ってブライト男爵は、アンリエットの頭を強く撫でた。それを嫌がりながらも父親に甘えるアンリエットを見て、ローレシアから寂しげな感情が伝わってきた。





 だがそんな心暖まるシーンを台無しにするかのように、取り巻きの貴族を従えながら、ローレシアに近付いてくる者がいた。


「これはこれはアスター侯爵閣下。この度は我がフィメール王国の要請に応じて、レスフィーア姫の大病の治療をいただき、王国貴族を代表して感謝の意を伝えに参りました」


「お久しぶりです、キュベリー公爵閣下」


 なるほど、こいつが噂のキュベリー公爵か。


 年齢的には先ほどのアスター伯爵と同じぐらいだが覇気が違う。野心に燃えるエネルギッシュな男という印象だな。


 そしてエリオットを裏で操るぐらいだから、王族も駒の一つぐらいにしか考えていないような策謀家、そんなイメージにピッタリの男だ。


 だがキュベリー公爵と対面したローレシアの感情は今のところいたって冷静。作り笑顔を張り付けてはいるが、粛々と礼を返すところはさすが生まれながらの高位貴族。


 俺には絶対にマネはできないな。




「わざわざこ挨拶をいただき、ありがとう存じます。わたくしもレスフィーア姫が無事助かって心より安堵しております。それにあと一歩遅ければ、危うくエリオット王子を殺人者にしてしまうところでしたし」


「それについては、娘の元婚約者の不始末を尻拭いいただき大変助かりました。しかし聞きましたよ。どうしてエリオット王子はエール病感染地のラグなんかを入手したのでしょうね」


「あら変ですわね。エリオット王子は公爵からご紹介いただいた業者から入手したと言っておりましたが」


「私の紹介した業者ですか。確かに王子には世界の品々を手広く扱っている一番いい業者を紹介いたしました。有名な商人ですので今度ローレシア様にも紹介いたしましょう。だがそうすると、王子とその業者の間でひょっとして何か手違いがあったのかもしれませんな」


「では公爵は、エリオット王子がどのような品を望んでいたのか、聞いてはいなかったのですか」


「おおよそのことはうかがっておりました。アスター侯爵には早くこのフィメール王国に帰ってきてほしいと、王子は強く望まれておりましたので、であればソーサルーラの馴染の品をそろえて差し上げればきっと喜ばれるのではとアドバイスいたしました」


「なるほど。ではなぜその品を妹姫の部屋へ置くのでしょうか」


「さあ、なぜでしょうね。女性に喜ばれる品かどうかをまず妹姫で試そうとしたのか・・・甥ではありますがエリオットの考えることは昔からよくわからないところがありましたので、そのあたりは元婚約者のアスター侯爵の方が良くご存じかと」


「そう・・・公爵はあくまでも関係はないと」


「もちろんでございます。なんならその業者をお調べいただいても結構ですよ。今すぐ呼びましょうか」


「結構です。公爵を疑ったことお詫び申し上げます」


「いえいえ、ではお詫びついでという訳ではございませんが、せっかくの機会ですので、私と一曲踊っていただけませんか」


「わたくしが、公爵とですか?」


「はい、もしよろしければ」


「・・・誠に申し訳ありませんが、この後に先約が入っておりますので、後日に機会があれば是非」


「それは残念です。では後日に機会があることを祈って本日はこのあたりで失礼させていただきます」


 そして胸に手を当てて優雅に一礼をすると、公爵は悠々と立ち去って行った。




 アルフレッドはローレシアの耳元でこっそりと、


「アイツは自分では一切手を汚さないから、探しても証拠など一切出てこないと思う。だからあのような余裕の態度を見せているんだ。それに王妃の実兄だから、国王もおいそれとは手が出せない。そのうち王妃と公爵が圧力をかけてエリオットを釈放しろと言ってくるかも知れないが、まあ、娘の元婚約者と言いきったところを見ると、どうしても取り返したいと考えているわけでもなさそうだ」


「そのようですね。でもキュベリー公爵はタヌキですから、返り討ちに会わないように慎重に対応しましょう」


「それではローレシア。キュベリー公爵とではなく、僕と一曲踊っていただけますか?」


「まあ! アルフレッド王子となら喜んで」


 そうしてアルフレッドはローレシアの手をとると、ホール中央へとエスコートし、二人はダンスを踊り始めた。華麗な美男美女カップルの登場に、会場の貴族たちはため息をついた。


 会場の貴族令嬢たちは、第3王子に昇格したアルフレッドとダンスを踊りたくて、ローレシアの次に誘ってもらおうと、なるべく目立つ位置に移動を始める。


 貴族令息たちも同様で、ローレシアを真っ先に誘うために、互いにけん制を始めた。





 そんな中で、ローレシアを睨みつける令嬢がいた。キュベリー公爵家次女のマーガレットだ。


 エリオットの廃嫡により、王族の婚約者という身分から転げ落ちたばかりの彼女は、ホール中央で王子とダンスを踊っているローレシアのことが憎くてたまらなかったのだ。


「昔から男にチヤホヤされて本当に気に入らない子。折角あの子から婚約者のエリオット王子を奪ってやったのに、彼はわたくしではなくいつもローレシアの事ばかり話をするし、他の男だってみんなそう。あんな子のどこがいいのよ。あなたたちどう思ってるの!」


「ま、マーガレット様のお気持ちはよく分かります。あんな顔が可愛いだけの女よりも、マーガレット様の方が女性としての魅力がございます」


「そうよそうよ。ローレシア様みたいに少女のような華奢な身体では、跡継ぎがたくさん生めません」


 周りの取り巻き令嬢たちに怒りをぶつけるマーガレットだが、令嬢たちのフォローの言葉を聞いても全く腹がおさまらない。


「しかもあの子、エリオット王子に婚約破棄されたら今度はアルフレッド王子と。次から次へと王子を取っ替え引っ替え、もう絶対に許せない。あの時、修道院でとっとと死んでいれば良かったものを、どうしてまだ生きているのよ!」 


「マーガレット様、今はローレシア様の歓迎式典ですので、悪口はもう少し小さなお声で・・・」


「うるさいわね! エリオット王子のせいでわたくしイライラしているの。見てらっしゃい、ローレシア・アスター!」




 ローレシアの帰国をトリガーにしてこれから始まろうとしている騒動の主な役者はこれで揃った。


 彼らの悲喜こもごもを乗せながら、アルフレッド王子の祝賀会とローレシアの歓迎式典は、騒々しく幕を下ろした。

次回、アスター伯爵家の領地へ


ご期待ください

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