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第75話 歓迎式典(前編)父アスター伯爵との対峙

ローレシアを国賓として迎える歓迎式典は、

前後編に分けて配信します

 その日の夜、アルフレッドの第3王子への昇格と、国賓として招かれたローレシア・アスター侯爵の歓迎式典が王城の大広間で盛大に開催された。


 ローレシアは持参したドレスのうち一番お気に入りの白のドレスを選んだのだが、メイドたちに着替えさせられて鏡に映ったその姿を見た俺は、思わず息を飲んで見惚れてしまった。


 清楚と言えばそれまでだが、透明感溢れるその姿は気軽に触れてはならない神聖さすら感じさせた。


 ローレシアが美少女なのは分かっていたが、改めてこの姿を見ると、その容姿が如何に非凡であるかが嫌でも理解できた。


 実はエルフか妖精族なんじゃねえの、お前。


 そんな清楚なローレシア様は、着替え終わるとすぐにアンリエットとジャンの2人を引き連れて、案内もつけずに王城の大広間へ勝手に向かっていった。


 お前の家かよ、この城は!





 会場には既に多くの貴族たちが集まっていて、国王やアルフレッド王子、そしてローレシアの挨拶が終わると、式典は舞踏会へと移行した。


 色とりどりの衣装で着飾った貴婦人やご令嬢たちがパートナーとともにホール中央でダンスを楽しむ中、ローレシアの周りには、追放される前に親しくしていた旧知の貴族令嬢たちが集まってきていた。


「ローレシア様は、アルフレッド王子とずっとご一緒だったそうですが、ご婚約なされたのですか?」


「いいえ、そのようなことはございません。わたくしはしばらくこの国に滞在したのちに、ソーサルーラへ帰国いたします」


「そんな・・・せっかくこの国に戻られたのですし、再びここで暮らされてはいかがでしょうか」


「わたくしはもうソーサルーラの貴族で、あちらに家もございます。それにこの国のアスター家からは縁を切られておりますので、この国にわたくしの帰る場所などございません」


「そういえばお父様のアスター伯爵は、ローレシア様をアスター家から追放したことで国王の怒りを買い、今や完全に落ち目。名門アスター家のご家門はこの国からソーサルーラに移ってしまったのですね」


「そのことなのですが、アスター伯爵家の領地がキュベリー公爵にかすめ取られていると耳にしました」


「ええ、わたくしたちも噂でしか知らないのですが、なんでもキュベリー公爵家からの執拗な嫌がらせに負けて、公爵の歓心を買おうと領地を割譲していたら、理由をつけては領地を少しずつ奪われて行っているそうなのですよ」


「なんと愚かな・・・」


「それも分家の領地ばかり差し出すものだから、分家たちが怒って本家とは絶縁状態。伯爵家の騎士団から分家騎士が抜けて人数が足りなくなり、そこをキュベリーの騎士団や盗賊につけこまれ、領地は酷い状態だと聞いております」


「・・・・たった半年でそこまで落ちぶれるなんて、一体どうして」


「あっ、ローレシア様! そのアスター伯爵がこちらに歩いてきます。わたくしたちは失礼いたしますわ」


 そう言うと令嬢たちは、ローレシアからすっと距離をおいた。





 アスター伯爵と呼ばれたその男は、端正な顔つきの中年だったが、すこしくたびれた雰囲気で俺たちの方に近付いてきた。そして作り笑いをすると、


「ローレシア・・・元気にしておるようだな」


「これはアスター伯爵、わざわざごあいさつにお越しいただき、ありがとう存じます」


「いや何、折角なので挨拶ぐらいはしておかねばな。それよりそなたが修道院で暗殺されたと聞いて、私は後悔しておったのだぞ。だがソーサルーラで生きていて本当によかったと思っている」


「それはどうも。ただわたくしが伯爵からそのように思っていただく理由がございませんが」


「父親が自分の娘の命を心配して、何もおかしくはないだろう」


「わたくし、あなたの娘ではございません。どなたかと勘違いをなされているのでは?」


「そなたを追放した私のことをまだ恨んでいるのか。だがそなたは、立派に貴族に返り咲いたではないか。もうそれで許してくれてもよいだろう」


「別に恨んでなどおりませんし、ただ単にわたくしたちは他人であるという事実を申し上げているのです。それに自分に都合のいい理屈で、勝手にわたくしから許しを得られると思うのはやめてくださいませ」


「くっ・・・!」


 ローレシアに冷たい態度であしらわれたアスター伯爵は、怒りをぐっとこらえるとその顔に再び笑顔を貼り付けた。そしてその場を立ち去ることなく、何かを言いたそうに佇んでいた。




 軽くため息をついたローレシアが、アスター伯爵に用件を尋ねる。


「・・・あの、ご挨拶ならもうこれで十分だと存じますが、まだわたくしに何か御用でもおありですか?」


「今さらお前に頼む義理でもないことは承知しているが一大事だから仕方がない。ローレシア、アスター家を助けてはくれないか」


「なぜわたくしがあなたを助けなければならないのですか。わたくしはもうあなたとはなんの関係もなく、しかも修道院で殺された人間。本当に今さらですね」


「そんなことはないぞ。縁を切ってもお前は私の娘なのだからこれはお前にも十分関係のある話。いいか、よく聞くのだローレシア。このままではアスター家はキュベリー公爵家に領地を全て奪われて、家門が消滅してしまうかもしれない。娘ならこの私を助けろ」


「なんと身勝手なことをよくも・・・。それにその話はすでに噂でお聞きしましたが、わたくしにはすべてあなたが原因のように思います。ハッキリ申し上げて自業自得でしょう」


「先祖代々受け継がれた我がアスター家がなくなるのだぞ。お前はそれでもいいと言うのか!」


「それならご心配には及びません。ソーサルーラにもちゃんとアスター侯爵家がございますので、ご先祖さまはきっと許してくださいますでしょう。どうぞ安心してお滅びくださいませ」


「なんだとっ!」


 ローレシアのキツイ一言に伯爵の顔は怒りで真っ赤に染まったが、さすがにローレシアの歓迎式典でその本人と騒ぎを起こしてはならない。


 伯爵はぐっと我慢をしてローレシアを睨みつけると踵を返してその場を立ち去って行った。


 高位貴族の親子ゲンカって、キッツー・・・。





 アスター伯爵が立ち去った後も、ローレシアの周りは微妙な空気が流れていた。みんな聞き耳を立てて今の親子ゲンカを聞いていたのだ。


 そこへ貴族たちの挨拶から逃がれたアルフレッドがローレシアの所へ戻ってきた。


「どうしたんだローレシア、しんと静まり返って」


「・・・今ここにお父様が見えられたのです」


「アスター伯爵が?」


「キュベリー公爵に領地を奪われそうだから助けてほしいと」


「・・・なるほど。それをローレシアが追い返したというわけか」


「はい。お父様には親子の縁を切るというのがどういうことなのか、その身をもってしっかりご理解いただく必要があると思いました。ですのでキッパリとお断りをして、伯爵にはお帰りいただいたところです」


「どんな断り方をしたのか、何となく想像はつくが、だがそうするとキュベリー公爵が・・・」


「・・・・ええ。アスター伯爵家の問題はやはり避けては通れません。わたくし、近いうちに一度領地に戻って様子を見て来ようと思います」


「ああ、ぜひそうしてくれ」

次回は、キュベリー公爵含め、この王国編の役者が出揃います。


ご期待ください

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