第74話 国王からの重大発表
翌朝、フィメール王国の王城に主要貴族全員が招集された。そして広い謁見の間に参集した貴族たちは、玉座に座った国王からの発表に大きな衝撃を受けた。
「第3王子エリオットが廃嫡!」
「レスフィーア姫殺害未遂の罪だと・・・なんと嘆かわしい」
貴族たちが動揺を隠しきれない中、真っ先に異議を唱えたのは、隣に座っていた王妃だった。
「あなた! そんな話わたくし何も聞いていません。相談もなく勝手にエリオットの廃嫡を決められても、そんなこと絶対に認められませんから!」
「王妃、これは決定事項だ。王族殺害は王族と言えども罪を免れることはできない。死罪を与えなかっただけでも温情ある処置だということを理解せよ」
「あなた!」
「くどい! アイツは離宮に閉じ込めておるので絶対に会ってはならぬぞ。さもなければそなたにも罰を与えることになる。それから王位継承権を繰り上げて、アルフレッドを第3王子とする」
取り付く島のない国王に対し、悔しさで唇をかみしめる王妃。そんな様子を目の当たりにして、ざわめきがおさまらない貴族たちの前に、国王から昇格を告げられたアルフレッド王子が、玉座の後ろの王族のみが使用する扉から姿を現した。
「おい、あれってアルフレッド王子じゃないか・・・ずっと国外にいて不在だったのにいつの間に帰国を」
「噂だが、キュベリー公爵全盛の今、命の危険を感じて国外に逃げていたと聞いていたが」
「いや俺は、追放されたローレシア・アスターを追いかけて国を出て行ったと聞いたぞ」
「どちらにせよ、このタイミングで戻ってきたということは、いよいよ公爵と・・・・なっ、何とっ!?」
「なんで彼女がここに・・・」
アルフレッド王子の突然の帰国にざわついていた貴族たちは、突如現れた一人の女性の姿に絶句した。
ローレシアがアルフレッドに続いて、玉座の奥の扉から姿を現したのだ。
「ローレシア・アスターだ・・・」
「本当だ・・・魔法王国ソーサルーラで侯爵になったと聞いていたが、いつこの国に帰ってきていたのだ」
「エリオット王子失脚のこのタイミングで、元婚約者のローレシア登場とは。これは絶対に何かあったな」
「というか、玉座の扉からアルフレッド王子に続いて出てきたけど・・・まさかそういうことなのか?」
「今度はアルフレッド王子の婚約者として返り咲いたということか・・・。いや逆だ! 彼女は今やあの魔法王国の大聖女だぞ。各国がこぞって称賛する彼女が我が国に帰ってきてくれば、これはとんでもない国益になるぞ」
謁見の間のざわめきが落ち着く頃合いを見計らって国王は、アルフレッドの隣に立つローレシアを貴族たちに紹介した。
「ここにいるのは、みなも顔はよく知っているとは思うが、ローレシア・アスターだ。今は魔法王国ソーサルーラの侯爵位を賜った彼の国の大聖女であり、今日ここにいるのは、我が娘レスフィーアの命を救ってもらったからなのだ」
「命を救った・・・」
貴族たちがざわめく中、国王が続ける。
「皆には隠していたのだが、レスフィーアはエール病に感染し命の危機に瀕していたのだ。それをここにいるローレシアの魔法によって完全に治癒し、今は別荘で体調の回復を待っている段階だ。だが、そこで私は目の当たりにしたのだ。彼女の奇跡ともいえる魔法、聖属性魔法・ウィザーによる聖なる力を。私はこのアスター侯爵を国賓として迎え入れ、彼女はしばらくこの国に滞在することとなった」
「エール病! そんな恐ろしい病気にレスフィーア姫が・・・でもエリオット王子がなぜそれで失脚を」
「それは分からんがエール病はここにいるローレシアなら治せるんだ。それに聖属性魔法を使ったのであれば、ローレシアは正真正銘本物の聖女ということだ」
「それはすごい・・・さすがは魔導の名門アスター家の長女。彼女にはやはり魔法の才能があったのだ」
「だがそのアスター家も今はもう・・・なあ」
「ああ。そうだな・・・」
貴族たちはコソコソとある一人の男を目で追いかけた。アスター伯爵だ。
ローレシアの実父であるアスター伯爵は、アルフレッド王子の隣に立ち国王から誇らしげに紹介される自分の娘が、周りの貴族たちからも驚きと歓迎をもって迎え入れられている姿を見て、完全に血の気が引いていた。
爵位を落とされ領地も奪い取られつつある落ちぶれた自分に対し、魔力に目覚めて誰からも称賛を浴びている娘への嫉妬が常に頭をもたげてくる。
だが同時に、周りの貴族が自分へと投げかけてくる冷たい視線も痛いほど感じており、キュベリー公爵の罠にまんまとはまって自分の娘を追放してしまった愚かしさと、その取り返しのつかなさに絶望した。
そしてアスター伯爵とは別の意味でこの状況を苦々しく思う貴族がいた。全ての貴族たちの先頭に立ち、国王の真正面にいるこの男、キュベリー公爵だ。
だがキュベリー公爵は顔色一つ変えず、国王を真っ直ぐに見据えていた。
公爵は思った。
(国王がこれだけはっきりと、レスフィーア姫の殺害未遂とその罪人としてのエリオット王子の廃嫡を告げたということは、例のラグのことは全てバレていると見ていいだろう。だがラグについては証拠を一切残していないため、この場で何を発言しても全てが余計な発言となる)
国王の奇襲攻撃とも言える突然のエリオット廃嫡にも口を閉ざさざるを得ないこの状況。悔しさで思わず歯ぎしりをした公爵だったが、アルフレッド王子に続いて出てきたローレシアの姿を見たとたん、その悔しさはすっと消えて、後ろ暗い情欲が頭をもたげた。
(エール病のからくりを調べ上げてエリオット王子を失脚させたのは、やはりローレシアだったのか。だが彼女が帰ってきていたなら、ある意味計画どおりだ。エリオット王子を失ったのは痛手だがそれと引き換えにこうして彼女をこの国に呼び戻すことに成功した。もうこの国からは絶対に逃さないぞ)
公爵は舌なめずりを一つした。
(それにしても、相変わらずワシ好みの美少女だな。加えて聖女としての魔法適性や膨大な魔力、魔法王国ソーサルーラの侯爵位に、各国からの称賛や名声まで手に入れたローレシアだ。是が非でも彼女が欲しい。だが以前と違って誘拐して妾として囲うこともできないし、さてどうしたものか)
だが、公爵の隣で国王の発表を聞いていた公爵令嬢マーガレットは、自分の父親がそんなことを考えているとは露知らず、顔を真っ青にして慌てていた。
「お父様! エリオット様が廃嫡ならこのわたくしは一体どうなるのですか? お姉さまに続いてわたくしも王族になれると思ったのに、これではすべて台無しじゃないの」
「マーガレット、周りに聞こえる。もっと声を低くしなさい。今回のことは想定外だったが、エリオット王子は下手を踏んでしまったのだ」
「お父様! わたくしはこのままでは王族になれないし、もうエリオット様のお手付きです。他国の王家との政略結婚ももうできないのではないでしょうか」
「シーッ! バカ声が大きい・・・。エリオット王子はそのうち助け出して王族に戻してやるし、それが無理ならお前の相手はまた探してやる。だから今は少し大人しくしてくれ」
「お父様。それでは、あそこにいるアルフレッド王子と結婚させて」
「エリオット王子と違ってさすがにそれは無理だな。アルフレッド王子はローレシアに執着している」
「・・・なんでみんなローレシアばかりなのよっ! それにあの女、アルフレッド王子と並んで玉座の脇に立って、これじゃあわたくしではなくあの女が王族になったみたいじゃないの」
「・・・ローレシアは絶対に王族にはならんよ」
「どうしてお父様がそう断言できるのですか?」
「いやそれはまあ・・・お前は知らなくていいから、黙って見ていなさい」
次回、ローレシア歓迎式典で父親と対面
そして、
ご期待ください




