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第70話 コレクションルーム

 レスフィーア姫が連れてきてくれたのは、別荘の隣にある建物で、建物全体が一つのコレクションルームになっていた。スケールが違う。


「これ全部がコレクションルーム・・・すごい」


「中はもっとすごいですよ。さあ早く中に入ってくださいませ」


「いえ中に入る前に、一つだけ確認したいことがございます」


「はい、なんでしょうか?」


「このコレクションルームの中に、生き物とか、死んだら困るものは入ってますか?」


「死んだら困るものですか・・・コレクションの中には特にございませんね」


「それはよかった。使用人たちにはこの中に立ち入らないように既に命じておりますので、今からこのコレクションルーム全体にある魔法をかけさせていただきます。中の生き物をいったん全て殺しますので」


「全て殺す! ろ、ローレシア様にはそんな恐ろしいことができるのですか?」


「はい、それでは見ていてくださいませ」


 そして俺は建物全体に魔法の効果が及ぶよう、かなり大きめの魔方陣を展開する。呪文の詠唱が進むごとにゴッソリと魔力を持っていかれるが構わない。そして、



 【アンチヒール】



 上空に展開した魔方陣に向かって、無数の細くて白いオーラが立ち上っていく。やがてそれらが完全に消えると、


「はい、終わりました。この中には生き物が全く生息していない清潔な空間になりました。中に入ってもダニに刺されることもなく、エール病に感染することもないでしょう」


「それよりも今のはすごい魔力でしたね。本当に昔のローレシア様とは違うというか、ひょっとして宮廷魔導師よりもすごくないですか?」


「え、ま、まあその話は後にして、早速中に入ってみましょう」





 中に入るとそこはちょっとした博物館のようになっていて、たくさんある陳列棚に整理されて並べられているのは、世界の珍品の数々だ。


「これはすごいコレクションですね」


「でしょっ! ぜひ、一つずつ順番にじっくりと見ていって下さいませ。まず、最初は玄関正面に飾ってあるこの像から。これはとても珍しいもので・・・」


「レスフィーア姫、その前にまずラグです。どれがその怪しいラグなのですか」


「そ、そうでしたわね。今わたくしたちが踏んでいるこれが、その怪しいラグです」


「え! こんな入り口に敷いてあったのですか」


 俺はあわててラグから飛び降りた。こ、こえー。




 さてそのラグは、ふわふわとした柔らかな白い毛でできており、きれいに成形されていることから複数の動物の毛皮を縫い合わせて作られた物のようだった。


 一見すると特に特徴のないシンプルなこのラグだがこれと同じものを最近どこかで見た記憶がある。どこで見たんだっけ。


 アンリエットやアルフレッド王子も見たことがあると言っているが、ごくありふれたデザインでどこで見たのか全く覚えていないようだ。


 だが、


「これ、ソーサルーラの伝統工芸品だよ」


 突然後ろからジャンの声が聞こえた。


「ソーサルーラの伝統工芸品ですか。だから最近見たことがあったのですね。でもこんなラグ、アスター邸で使っていましたっけ?」


「お嬢の家で使っているかは俺も知らないが、これ例のボノ村の女性たちの手仕事で作られるものなんだ」


「ぼ、ボノ村ですって?」


 まさかここでボノ村という地名が出てくるとは思わなかった。エール病で壊滅した村で、復興作業はまだ全く進んでおらず、住人は依然として避難キャンプで生活している。


 その村の伝統工芸品が今ここにあり、エール病の感染源として疑われている。


 そうか、俺はこれと同じものをボノ村の村役場で見たんだ。その時は森を開拓した時に逃げて行った小動物たちの成れの果てがこのラグかと、ボンヤリと考えていたんだっけ。


 だとするとこれは、エール病があの村で流行りだしてから作製された物か。


「アルフレッド王子。これを誰がいつ持ち込んだのか調べる方法はございますか」


「そうだな、別荘全体の管理を行っているのはここの執事長だから、ひょっとしたら彼がこのラグを取り寄せてここに敷いたのかも知れないな」





 コレクションを見て行ってほしいと、必死にねばるレスフィーア姫をなだめすかせた俺たちは、執事長の部屋へと急いだ。


「これはアルフレッド王子にローレシア様! このわたくしめに何かご用でしょうか」


 部屋に突然押し掛けた俺たちにも、特に驚く様子もなく執事長は恭しく挨拶をする。だがアルフレッド王子はそんな彼を問い詰める。


「執事長、レスフィーアのコレクションルームの入り口に敷いたあったラグを、最近新しい物に入れ替えたそうだな。いつ、どこで調達したものなんだ!」


「はて入り口のラグですか? わたくしどもは、特に新調などしておりませんが」


「とぼけるな! 入ってすぐの床に敷いてある白い毛皮のラグだ。レスフィーアは自分が入れたものではないと言っていたから、ここを管理している執事長、お前以外にわざわざラグを交換する者などいないではないか」


「そんなことを言われましても、わたくしどもそんなラグなど購入しておりませんし、お答えのしようがございません」


「本当か? なら、あのラグを持ち込んだのは、一体誰なんだ」


「ここは王家の別荘でございますし、わたくしどもも管理は厳重にしております。王女もわたくしも知らないとなれば、誠に考えにくいですが外部からの侵入者としか」


「外部からの侵入者・・・。だとしたら、なぜラグの交換なんかを」




「そう言えば少し前に、エリオット王子がコレクションルームを訪ねられたことがございました。その時は王女がご不在でしたが、了解をとっているとのことでしたので、王子に鍵をお渡ししたことがございます。帳簿にも記録が残っておりますが、ひょっとするとその時にラグを取り替えられたのではないでしょうか」


「なんだと! エリオット王子があのラグを・・・」


「いいえ、誤解がないように申し上げれば、あのラグを持ち込んだのが姫様でないのだとすれば、他にあの建物に入った王族はエリオット様しかいらっしゃいません。ですので、もしかしたらという可能性の話で、わたくしもそれ以上のことは何も存じ上げません」


「いや執事長それは貴重な情報だ。さっきは疑って悪かったな、礼を言う」


「そんな滅相もございません」





 執事室を出た俺たちは、今度は急いでエリオットを探した。まだ別荘のどこかにいるはずだし、取っ捕まえて真偽のほどを確かめなければならない。


「もしエリオット王子があのラグを持ち込んでいたのだとすれば、どうしてそのようなことをしたのでしょうか」


「理由は全く想像もつかないが、もしエール病の感染源だと知って持ち込んだのならば、兄上と言えども、もはや生かしてはおけん」


「ああアルフレッドの言うとおりだ。あのゴミ虫め、我が魔剣の錆びにしてくれる」


「二人とも落ち着いて。ジャンも何とか言って」


「お嬢、俺もさすがにこれはないと思いますよ。そうだな、俺はゴーレム魔法でじわじわと痛め付けてやりましょうか」


「もう、ジャンまでそんなことを。荒事よりもまずは事情聴取が先です」


「ローレシアお嬢様! いました、エリオットです」





 アンリエットの指し示す先を見ると、エリオットは先ほどと同じ護衛騎士をつれて、別荘の廊下を呑気に歩いていた。


「みなさま、エリオットの身柄の確保を!」

次回、エリオットとの対決


ご期待ください

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