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第7話 ローレシアの姿

 入浴という言葉を聞いた途端、ローレシアのいつもの大騒ぎが始まった。


(ローレシア・・・もういい加減に慣れてくれよ)


(こんな辱しめに慣れるはずありません。しかも入浴だなんてとんでもない!)


(もう五日も風呂に入ってないし、さすがにこれ以上はマズいと思うぞ)


(いいえ、わたくしはもう一生お風呂に入りません。香水を使えば身体の匂いは消せます)


(ダメだよ、そんな不潔なことをしちゃ)


(他の王国では入浴の習慣のない場所もございます)


(えぇぇぇ・・・そんな国が本当にあるのかよ。とても信じられないが、ローレシアの国は入浴の習慣があるんだろ)


(それはまあ・・・)


(だったら、いつものように絶対に目を開けないから、頼むから風呂に入ってくれ)


(・・・わたくしの身体を絶対に見ないと約束していただけますか)


(もちろんだよ。またいつものようにアンリエットに全部まかせるから、それでいいだろ)


(わかりました・・・しくしくしく・・・)


 こんなやり取りをいったいいつまで続けるのかな、俺たち・・・。





 風呂の準備が整い、俺はアンリエットに連れられて浴室へと入って行った。そして彼女にされるがままに修道服を脱がされた。


「・・・お嬢様はどうしていつも目を固くつぶっていらっしゃるのでしょうか」


「わたくしの目のことは、あまり気にしないでくださいませ」


「左様ですか? まあちょうどいいのでお嬢様の髪から洗いますね」


 俺はバスタブでお湯につかり、頭の上からやさしくお湯をかけられて、髪をゆっくりと洗ってもらった。どうやらローレシアの髪は長いようで、全て洗い終えるまでにかなり時間がかかった。


 髪のあとは身体だ。アンリエットが全身の汚れを丹念に落としていく。


 馬車の旅の間中、風呂はおろか服を着替えることもできなかったため身体中が汚れていた。道中は香水をかけて体臭を誤魔化してきたが、今が真夏じゃなくて本当によかったと思う。


 そんな俺の考えが伝わってしまったのか、頭の中でローレシアが「失礼な想像はお止めくださいませ」と俺に文句を言っていた。





 至福の入浴時間が終わりアンリエットに服を着せてもらうと、今度はアンリエットが入浴する順番になる。俺はアンリエットを一人残して浴室から外に出た。そして自分のベッドに横たわると、ベッドの上に長い髪がふわりと広がった。


 ローレシアの髪はきれいな金髪だった。彼女が貴族だからだろうか、乗合馬車の乗客たちの髪の毛とは異なり、手入れの行き届いた長い髪が絹糸のようにさらさらとベッドの上に広がっている。


(ローレシアの髪って、きれいな金髪だったんだな)


(そうですね、アスター侯爵家の始祖はこの金髪と緑色の瞳に特徴がある言われていて、わたくしは特にその特徴がはっきりと表れているようです)


(そうか、瞳の色は緑なのか)


(あら? そういえばあなたはわたくしの姿を見たことがないのでしたね)


(ああ。修道院でこの身体に転移してからここに逃げ込んで来るまで、鏡を見る機会が全くなかったからな。アンリエットの顔も見たことがないよ)


(それではアンリエットがお風呂から上がったら、浴室の鏡でわたくしの姿を見ることを許します)


(この服は大丈夫なのか? これネグリジェだろ)


(・・・こ、これぐらいは致し方ありません。修道院から支給された標準的なものですし、肌の露出が少ないので我慢はできます。少し恥ずかしいですけれど)


 ローレシアの許可が出たので、ようやく自分の姿を確認できる。俺はアンリエットが風呂から上がるのを楽しみに待っていた。






 やがてアンリエットも入浴が終わったようで、浴室の扉が開かれ、彼女が出てきた。俺はさっそく立ち上がって浴室に向かおうとした。だがそこに立っていたアンリエットの姿を見て思わず唾をのみ込んでしまった。


 なんだこの美少女は・・・。


 アンリエットは、長くきれいな緑色の髪の毛を後ろに束ねてポニーテールにし、青く大きな瞳が少し幼さを感じさせるとても愛らしい美少女であった。


 ローレシアとお揃いの修道院支給のネグリジェ姿は、たとえ肌の露出が少ないデザインとはいえ、彼女がいたことのない俺にとっては衝撃な姿だった。


 まず胸が大きい。全体的にスレンダーなアンリエットだが、女性らしいメリハリのあるスタイルで、スラリと伸びた長い脚が美しい。


 俺がアンリエットに見惚れていると、


「お嬢様? さっきから私のことをジッと見つめていらっしゃいますが、どうかされましたか?」


「い、いえ。別になんでもございません。そ、そうだ、わたくしも少し鏡を使いたいので、浴室に入ってもよろしくて?」


「もちろんでございます。足元にお気を付けてください」





 これ以上アンリエットを見ていると心臓に悪いため、俺は慌てて浴室に駆け込んだ。


(あなた、アンリエットを見て変な気を起こさないでください)


(変な気を起こしているんじゃない。アンリエットがあまりにも美少女すぎてびっくりしただけだよ)


(だったら鏡、見ない方がいいかもしれませんね)


(それはどういう意味?)


(わたくしの姿を見たら、あなたが変な気を起こすかも知れないでしょ)


(・・・随分と自信があるんだな)


(わたくしは魔力は弱いけど、この容姿で王族の婚約者になったアスター侯爵家の長女ですから・・・元ですけど)


 ローレシアの気分が急に落ち込んだのが、痛いほど伝わってくる。やはり侯爵家から離縁されて修道院に入れられたことが、今でもショックなのだろう。なんか、かわいそうな子だな・・・。


 俺はローレシアのことを気にかけながら、鏡に映った自分の姿を見た。




 ・・・な、な、なんだこれは!




 そこに映っていたのは、アンリエットをも超越するとんでもない美少女だった。


 長くてサラサラの金髪がきらめき、エメラルドグリーンの瞳が宝石のようにキラキラと輝いている。小さなくちびるはピンク色で、頬も薄くピンク色に上気している。身長が少し高めでスラリと伸びた手足が細く、可憐な美少女の究極の姿がそこにあった。


(・・・自信満々に言うだけのことはある。お前本当にすごい美少女だったんだな)


(そうでしょうとも。たまに鏡に映る自分に見惚れていましたから)


 ローレシアは自画自賛の感情を俺に送り付けてきた。少しウザいなこいつ。


 だがしかし、である。


 俺は鏡に映った自分の姿に重大な欠点があることを、即座に見抜いてしまった。




 胸がない・・・ぺったんこだ。




 全くないわけではない。ただ注意深く観察していなければ見落としてしまう、そんなレベルなのだ。


 ・・・惜しい、実に残念だ。


(あなた・・・今とても失礼なことを考えているでしょう)


(そ、そ、ソンナコトナイヨ)


(ウソおっしゃい。さっきからわたくしの胸ばかり見ているでしょう!)


(イヤ、胸ナンカ見テナイヨ)


(明らかに見てますよね・・・わたくしたちは身体が共通で視界もすべて共有されておりますから、隠し事などできませんよ)


(・・・はい、俺は胸ばかり見ていました。申し訳ありません)


(ちょっと・・・今何に対して申し訳ないと思っていたの? そこで残念な気持ちにならないでっ!)





 ローレシアが頭の中で俺に怒りをぶつけているが、俺はローレシアのあまりの美少女ぶりに、ただただ衝撃を受けたのだった。

次回はいよいよ冒険者ギルドです


ご期待ください

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