第69話 ローレシアの愛する人
今日のエピソードが少し長くなってしまったので、2つに分けました
夕方にもう一本公開できるように、頑張ります
ローレシアがあれだけキッパリと謝罪を拒否したにもかかわらず、結局エリオット王子は王都に戻らずに別荘に居座った。
何かあると危険だし、しばらくはローレシアに代わって俺が身体の操作を行うことにした。
そしてエール病の感染源の調査を再開しようとしたのだが、俺はどうしてもあることが気になっていた。
「・・・ねえアルフレッド王子。ローレシアの愛する人って一体誰なのでしょうね」
「ナツ、頼むからその話はやめてくれないか。考えるだけで胸が苦しくなってくる・・・くっ!」
王子が悲痛な表情を浮かべる。やはり王子も、
「まあ、アルフレッド王子も! 実はわたくしも王子と同じ気持ちなのです」
「そうかナツも僕と同じ気持ちを・・・え、何で?」
みんな俺を女だと思ってたんだっけ・・・。
「い、いえ、その、わたくしたち一つの身体を共有してますので、ローレシアの純潔を捧げる相手が誰なのかはわたくしにとって、とても重要な話なのですよ」
「そ、そうだよな! 僕よりもむしろナツの方がより深刻な話だよな。・・・ところでナツにはいるのか? ナツが純潔を捧げたい相手が」
「わたくしが・・・純潔を・・・捧げたい相手?」
思わぬ質問に戸惑っていると、アルフレッド王子が真剣な表情で俺を真っ直ぐに見つめていた。
そんな王子を見ていると、俺は顔がどんどん熱くなっていき、心臓はドキドキ身体はムズムズしてきた。
これはマズい気がする・・・危険だ!
そこにアンリエットが割り込んできた。
「ナツはこの前、アルフレッドよりも私の方が気になると言っていたが、それってやはり、そういう意味で言っていたのか」
「アンリエット、今その話は・・・」
見るとアンリエットの耳は真っ赤になり、俺を見つめるその目は少し潤んでいる。
普段のローレシアに対する接し方や反応を見てて、俺はうすうす感じていたのだが、アンリエットはやっぱり『そっちの気』があるのかな・・・。
「ちょっと待ってくれ、ナツ。今のアンリエットの話だと、まさかキミには『そっちの気』が」
「え、アンリエットではなくこのわたくしに『そっちの気』? それは『どっちの気』のことでしょうか」
「それはもちろん女同士の・・・」
「女同士の・・・いやそれはアンリエットの方こそ」
「いや、私はもともと『そっちの気』などないのに、ナツが私のことを・・・」
アンリエットに『そっちの気』がない、だと?
「・・・それよりもナツは私とよりも王子とばかり話をするんだな。この前の話はやっぱりウソなのか?」
アンリエットが寂しそうに俺を見つめる。やばい、やっぱりこの子メチャクチャかわいい。俺は思わず、
「アンリエットそれは誤解なのです。わたくしはもちろんアンリエットのことが・・・」
「やはりナツには『そっちの気』が・・・」
なんだなんだ。
いつの間にか、俺と王子とアンリエットの会話が、ローレシアの愛する人は誰かから、三角関係の男女の修羅場みたいになってきた。
ど、ど、どうするんだよ。このどえらい雰囲気!
そこへ救世主が現れた。ジャンだ。
「さっきから聞いていたら、ナツって一体誰なんだ」
俺たち3人の頭からすっと血が引き冷静になった。俺の存在はまだ俺たちだけの秘密なのだ。
アルフレッドが慌ててフォローする。
「ろ、ローレシアのニックネームだ。気にするな」
「そうか? じゃあ無駄話はそれぐらいにして、早くエール病の調査を再開しようぜ」
「そ、それもそうだな。ローレシア、アンリエット、そろそろ行こう」
使用人たちへの聞き取り調査へ向かう途中ずっと、ローレシアはさっきの件で俺に文句を言っていた。
(もうっ、3人でおかしな雰囲気にならないでっ!)
(す、すまん! あれは本当に俺も戸惑ってたんだ。何がどうしてこうなったのか)
(でもナツはやっぱり王子のことが好きだったのね。さっきの胸のトキメキ、すごく伝わって来ました)
(違うんだ! あれはこの身体が勝手に反応して)
(それだとわたくしの身体のせいみたいに聞こえますが、実際に王子にときめいていたのは、わたくしではなくナツなのですが)
(本当なんだよ。さっき実際に心がキュンとなったのはむしろアンリエットに対してだったし)
(ナツってやっぱりアンリエットのことを・・・)
(いや、俺が今好きなのは・・・)
(ん? 今好きなのは?)
ローレシアのやつ、俺をからかっていやがるな。
くそっ、だったら。
(それはそうとローレシア、キミの愛する人って誰なんだよ)
(え、わたくしの愛する人? そうでした、3人でわたくしの愛する人の話をするのやめてくださらない? 恥ずかしいじゃないですか!)
(だけどローレシアの愛する人だけはどうしても気になる。誰にも言わないから俺にだけこっそり教えてくれよ)
(そんなこと、ナツに言えるわけないでしょ!)
(いや、さすがにそう言うわけにはいかない。だってローレシアが純潔を捧げる相手なら、俺もそいつに捧げなきゃならないんだから、心の準備をさせてくれ)
(ナツがその人に純潔を捧げるの? プッ・・・)
(笑い事じゃないよ。俺にとっては人生の一大事だ)
(クスクス・・・もう仕方がないですわね。それではナツにだけ特別に教えて差し上げます)
(本当か! それで誰なんだその男は)
(・・・エア彼氏よ・・・ナツ)
(なんだエア彼氏だったのか・・・なら安心だな)
(・・・もうっ。ナツのバカ・・・)
さて、使用人たちが療養している部屋を回って聞き取り調査を行った結果、エール病にかかった人にはある共通点があることがわかった。
レスフィーア姫のコレクションルームだ。
ローレシアは知らなかったのだが、その部屋は王城ではなくこの別荘地の別の建物にあり、その清掃に当たっていたメイドや使用人に感染者がでていたのだ。
俺たちはもう一度レスフィーア姫の話を聞くため、王女の寝室へと向かった。
「エール病にかかる少し前に、コレクションルームに何か新しいアイテムが加わりませんでしたか?」
「それは昨日もお伝えしたとおり、新しいコレクションが増えなくて、わたくしガッカリしているのです」
「そうですか・・・実は姫のコレクションルームの掃除をしていたメイドや使用人にエール病感染者が出ているのですが、何か心当たりはございませんか」
「え、そうなのですか? あの部屋にエール病の原因となるものが! ・・・あの~すみません。そもそもエール病ってどうやって感染するものなのですか?」
「え、説明しておりませんでしたか? それは失礼いたしました。エール病はネズミなどの動物の体毛に潜んでいるダニ等から感染するのです」
「なるほど、だから昨日は汚らしい動物のことばかりお聞きになられていたのですね」
「そうなのです、説明が少し足りませんでしたね。あ、そうだ。姫のコレクションに汚らしい動物の剥製などございませんか? あればきっとそれです」
「そんな汚らしい動物の剥製なんか、このわたくしがコレクションにするわけないでしょう!」
「確かに、わざわざ剥製にしてコレクションするほどの希少価値は全くございませんね」
言われてみればこのとおりだ。ネズミを捕まえては剥製にして集めるヤツ、普通に考えていないよな。
だとしたらコレクションルームにありそうな怪しいアイテムって一体・・・。
「でも動物の体毛に潜むダニですか。・・・だとすれば、ひょっとするとあれかも」
「何かわかったのですか?」
「いえ、わたくしもハッキリとは分からないのですが、コレクションルームの床に敷いてあるラグが、最近新しいものに取り替えられていたのです。ラグって確か動物の毛皮を剥いで作りますよね。思い当たるのはそれぐらいしか・・・」
「そのラグはどこから取り寄せたものですか?」
「いえ、わたくしが取り寄せたのではなく、知らない間に取り替えられていたのです。誰かが気をきかせて取り替えてくれたのだと思っておりました」
「知らない間に・・・それは怪しいですね。レスフィーア姫、わたくしたちにもそのコレクションルームの中を見せてもらってもよろしいでしょうか」
「え、わたくしのコレクションを見たいのですか!」
「いえ、コレクションではなく、そのラグを・・・」
「そ、そうでしたわね・・・ラグでしたね。でもついでにわたくしのコレクションをご覧いただいてもいいと思いますよ」
「そ、そうですわね・・・では、少しだけ?」
「思う存分ご覧になって下さいませ! わたくし何を質問されても、全てお答えできる自信がございますので、ぜひ、ぜひ!」
「そ、そうですか。・・・それでは参りましょう」
次回、今回の騒動の原因が明らかに
ご期待ください




