第67話 感染源の謎
国王夫妻との晩餐会から明けた翌日、ローレシアはエール病調査のためレスフィーア姫の部屋を訪れた。ベッドの横の椅子に座って、王女からエール病に感染した原因を探るために話を聞いていたのだ。
「それでは最近は、外国の方とは面会されなかったのですね」
「ええ、ここ数か月間は全くございません。おかげでわたくしのコレクションがほとんど増えませんの」
「コレクション・・・ですか?」
「はい、異国の珍しい物品を収集するのがわたくしの趣味なのです。・・・実はずっと以前からローレシア様にはぜひわたくしのコレクションをご覧いただきたかったのですが、エリオット兄さまのご婚約者でいらっしゃったこともあり、遠慮申し上げていたのです」
「そうだったのですか・・・・。もしよろしければ、王女がお元気になられた際には、ぜひコレクションを拝見させていただければと存じます」
「まあ! それはもう喜んで」
「それで王女のコレクションの話はさておきまして、エール病に感染した原因に何かお心当たりはございませんか。例えば、他のエール病患者に近付いたとか、ネズミに飛びつかれたとか」
「患者にもネズミにも飛びつかれてはおりません」
「そうですか・・・」
(ナツ、手掛かりなしね。本当に王女はどこでエール病にかかったのでしょうね)
(エール病はネズミなどの小動物の体毛に潜むダニ等を介して感染する病気だ。エール病患者の体液や飛沫を直接浴びるケースを除けば、必ずダニ等から感染しているはずだ)
(ではその線で、もう一度王女に質問してみます)
「王女、ネズミ以外で何か動物にお心当たりは」
「動物なら別荘の周りにたくさんいます。ヤギや羊とか、とても可愛いですよ」
「そういう管理された綺麗な家畜ではなくて、もっと汚らしい動物を王女が素手で触られたとか」
「汚らしい動物はわたくしの好みではございません」
「それでは虫などいかがでしょうか。蝶のような綺麗なものではなくて、ダニのように身体が痒くなる虫に何かお心当たりは」
「全くこざいませんし、想像もしたくありません!」
(ナツ、手掛かりなしね)
(ひょっとして何か見落としていることがあるのか、あるいは王女が何かを隠しているのか)
(でも、わたくしにはこれ以上聞き出せそうもございません)
(まあ焦らなくてもいいさ。今は他にエール病患者がいるわけじゃないし、のんびりやろう)
と思っていたのだが、昨日治療したメイドたちとは別に、使用人の中に新たな発病者が出てしまった。
感染源は相変わらず不明だが、ひとまずその使用人を治療しつつ最近の行動について話を聞く。
「それであなたはこの別荘の掃除夫なのですね」
「へっ、へへーっ! そ、そのとおりでございます、大聖女様っ!」
あの無駄に神々しいエフェクトのせいで、使用人が平伏してしまって全く会話にならない。彼の興奮がおさまるのをしばらく待ってから再度質問する。
「あっしらはこの近くの村の者ですが、午前中はこの別荘の掃除をしに来ております」
「するとあなたは、王女の部屋も掃除をしたのでしょうか?」
「いいえ、滅相もございません。あっしらみたいな者が王女の部屋に入ることなど絶対にございません」
(ということは、王女から直接感染したわけではないということだ。やはり別に感染源がある)
(わかったわ。そのあたりを聞き出してみます)
「ところであなたの村では、エール病の患者がいますか?」
「エール病なんて恐ろしい病気、あっしらの村でかかっているものなど聞いたこともありません」
「でも、あなたはそのエール病にかかっていたのですよ。わたくしがさっき治しましたけれど」
「え、あっしエール病だったのですか! 最近体調が悪くて、今日も別荘に来たら急にこの部屋に連れてこられたので・・・」
「ひょっとしてあなたは、この別荘地でエール病が流行っていたことも知らなかったのですか?」
「いいえ全く・・・」
「そうですか、わかりました。この別荘地の者たちやあなたの病気は既に完治しています。だから、村に戻ってもエール病のことは他言無用ですよ。無駄に混乱が生じます」
「へっ、へへーっ! 大聖女様の仰せのままに!」
(一応レスフィーア姫からの感染ルートは消えたが、近隣の村でエール病が流行っているわけでもないと。すると消去法で一番可能性の高いのが、この別荘のどこかに感染源があるということになるわけだが)
(別荘内に調査を絞り込んでいくとして、ここのみんなにはなるべく中をうろつかせないようにした方がいいですわね)
俺たちは状況を報告するため、まだ別荘に滞在中の国王夫妻に急ぎ面会した。
「感染源は未だに不明ですが、この別荘地のどこかにある可能性が高いと思われます」
「なんだと・・・この別荘地の中に」
「使用人たちには、別荘地の中を無闇にうろつかないように指示を出しましたが、国王陛下はここから早く出て、王城に戻られた方がよろしいと存じます」
「ああそうだな、我々は王城に帰還するとしよう。あとのことはよろしく頼む、ローレシア」
「お任せくださいませ」
国王夫妻はすぐに身支度を整えると、王城に向けて馬車を走らせた。ウォーレン伯爵も、途中まで国王の護衛騎士たちの指揮をとるために、一時的に別荘地を離れることとなった。
(さてと、少しずつ感染源が絞られてきたな。次は、昨日治療した使用人たちにもう一度話を聞こう。今度は別荘内で怪しい場所がなかったかどうかだな)
(ええ、わかりました)
ローレシアはさっそく、アンリエット、アルフレッド王子、ジャンの3人を従えて、今度は療養中のメイドたちの部屋へと向かおうとした。
だが突然、その行く手を阻まれる。
ある男に率いられた騎士の集団がローレシアの前に立ちふさがったのだ。
「やっと会えたねローレシア! キミに会うことを僕はどれだけ待ちわびたことか」
「エリオット・・・王子」
フィメール王国第3王子エリオットがそこにいた。
次回、エリオット王子との対峙
ご期待ください




