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第66話 フィメール国王の後悔

「アルフレッド・・・そなた」


 ずっと黙っていたアルフレッド王子が口を開いたかと思えば、出てきたのは国王への苦言の言葉だった。戸惑う国王にアルフレッド王子は構わず続ける。


「ローレシアがこの王国を追放されてどれほど大変な目に遭ったのか、父上は全くご理解いただけていないようですね。そうでなければ、先ほどのような謝罪だけでローレシアにこの国に戻って来いなどと、言えるはずもありませんから」


「なんだと?」


「ローレシアは何の落ち度もないのに婚約破棄されて貴族の身分を失い、修道院に入れられた挙句に暗殺までされてしまった。それでも何とか生き残り、冒険者をしながらソーサルーラまで逃げ延びて、住民に石を投げつけられながらも献身的にエール病患者を救い、その努力が報われてようやく受け入れられたのです。そのローレシアの苦労と努力を一体なんだと思っているのですか」


「まさか、ローレシアにそこまでの苦労が・・・」


「やっと自分の居場所を見つけたローレシアは、フィメール王国での辛い過去など忘れ去ってソーサルーラで静かに暮らしたいはずなのに、レスフィーアの命を救うために、わざわざ自分を追放したこの国に帰って来てくれたんだ。感謝こそすれ、まさかそんな恥知らずなお願いまでしようとは。父上も耄碌されたな」


「この私が耄碌だと? 何も分かってないお前が偉そうな口をきくな!」


 自分の浅薄さを反省しつつも、王子がぶつけたその一言にさすがの国王も我慢の限度を超えて、両者の間に険悪なムードが漂いだした。だが、


「もうおよしなさい、アルフレッド」


「母上・・・」


「陛下はあなたのためを思って、このような話をなさっているのよ」


「僕のため?」


「そうです。あなたがローレシアのことをずっと慕っていたことはみんな承知していたのです。そして陛下はエリオットの婚約者にしてしまったことをずっと後悔されてました。だからもし叶うならば、あなたの妻としてこの王家に迎え入れたいと、そう考えて先ほどのような発言になったのです」


「ローレシアを僕の妻として王家に・・・」


「そうよ、だから・・・・」


「くっくっく・・・」


「アルフレッド?」


「父上、母上、今さらもう遅いですよ。ローレシアは僕とは結婚しません。ソーサルーラでともに暮らし、何度もローレシアに求婚しましたが、僕は断られました。その時、彼女はフィメール王家とは金輪際関わりを持ちたくないと明言をしたのです。もう・・・何もかも遅すぎるんだ」


 それだけ言うと、アルフレッドは力なくうなだれて俺に一言だけ告げた。


「前座は終わりだナツ。ローレシアに代わってやれ」





(ローレシア、代われるか? 俺も王子と同感、やはりローレシアから直接言わないとダメだと思う)


(・・・・・)


(王子があれだけハッキリと言ってくれたんだ。恐いかもしれないが、ここは俺ではなくローレシアの口から言った方がいい)


(でもわたくしは・・・)


(今日のローレシアでは確かに心配だけど、ここが頑張りどころだ。不安だろうけど大丈夫、ここには俺や王子、アンリエットもみんないて、すぐにローレシアを助けることができる。もしそれでダメなら、みんなでここから逃げちまえばいいさ!)


(ダメならみんなで逃げればいい・・・。フフフッ、それもそうね。もう役目も終わったしここで逃げても何も問題がないのでしたね。・・・・わかりました。今度こそ国王とキチンと対話を致します。わたくしに身体の操作を代わってください)


(よく言った。・・・ローレシア、頑張れ)



 【チェンジ】



「国王陛下。せっかくのお申し出なのですがわたくしフィメール王国へ戻ることはできません。わたくしはすでに魔法王国ソーサルーラの侯爵位を賜った貴族であり、それをお認めいただいたソーサルーラ国王への忠義もございます。お話はお受けできません」


「だが、そなたは元々我が王国の貴族。そなたの意思さえ固ければソーサルーラ国王も許してくれるはず」


「いいえ、わたくしはこの国の貴族位をはく奪されて追放された人間。わたくしはこの国の貴族だった過去をもう忘れたいですし、国王陛下も今さらわたくしを元貴族などとおっしゃらないでください」


「そなたを追放したのは王家ではなく、アスター侯爵が勝手にやったこと。ヤツには今回の責任をとらせて伯爵に降格させた。だからそなたが我が国の貴族位を剥奪された事実は国王たるこの私が無効とする。責任者も処罰したのだし、それで許してはくれぬのか」


「許すも許さないも、本件はもともとエリオット王子が原因で起きたこと。それをお父様を降格させたから許せと言われても、元凶が何も処罰を受けずにいるのに、何を許せとおっしゃられるのでしょうか」


「それは・・・」


「それにエリオット王子を焚きつけたのはおそらく、キュベリー公爵。その公爵は処罰を受けるどころか、アスター家の領地まで手に入れて、逆に栄えていると聞きます。そのような不公平な措置をとる国に戻っても、また以前と同じような不幸な結果になるだけ」


「うぐ・・・」


 国王が全く反論できずに黙ってしまった。さすがに黙っていられなくなった王子の母上が、


「陛下・・・ローレシアの言う通りです。処罰のしやすいアスター侯爵にだけ責任を押し付け、キュベリー公爵には一切手を付けられずに野放しになっているのは事実なのですから」


「だからそれはまだ・・・」


「だからローレシアに話をするのが早すぎたのです」


「しかしそれでは・・・」




「・・・あの、わたくしに何か言えない事がおありなのでしょうか?」


「いや・・・・この際だ、もう話そう。そなたをエリオットの婚約者にした理由だが、実はキュベリー公爵の専横を阻止すべく、名門アスター侯爵家の力で対抗しようとしていたのだ。今となってはもう後悔しかないが」


「・・・まさか国王陛下は、キュベリー公爵家にアスター侯爵家をぶつけようとしていたのですか!」


「ああ・・・すまない。だが誤算だったのはアスター家がかつての魔導の名門を欠片も感じさせないほど力を失っていたことと、我が息子エリオットがあれほどまでに愚かだったことだ。こんなことなら、初めからそなたをアルフレッドの婚約者にしてればよかった。アルフレッドにも本当にすまないことをした」


「・・・・わたくしから言うのもおかしな話ですが、今のアスター家にはキュベリー公爵家に対抗できる力などなかったことは明白。さすがに国王陛下の見込み違いが甚だしかったと言うしかございません。しかもそんなことのために、わたくしがあのエリオット王子と結婚させられようとしていたなんて・・・」


「それについては本当に申し訳なかった。だが例えばの話だが、アルフレッドとの結婚のことは抜きにしても、そなたを侯爵ではなく公爵として我が国に迎え入れるのなら戻ってきてくれるだろうか。公爵ならキュベリーとも同格であり、ローレシアのその並外れた魔力があれば、ヤツとておいそれとは手が出せまい。そなたはこの国で国王に次ぐ最高権力者となるのだ」


「国王陛下・・・そんなの嫌に決まっているではございませんか! 侯爵だろうと公爵だろうと断固としてお断りいたしますし、ましてキュベリー公爵の当て馬にされるのなんて絶対にごめんです! わたくし絶対にこの国には戻りませんし、この話はもうやめにしていただきとう存じます!」


「そなたそこまで・・・実に残念だ」


 国王は悔しそうに肩を落とした。





 晩餐会は完全に静まり返ってしまった。


 4人とも、もうそれ以上何も話そうという気になれなかったからか、晩餐会はただ食器の音がカチャカチャとなっているだけになった。


 国王の後ろに控えていたウォーレン伯爵は、ソーサルーラの親善大使であるローレシアを迎えた晩餐会がこれでは大失敗であるため、外務卿の役目として慌てて別の話題を提供する。


「本日は、レスフィーア姫が病から回復された祝いの席でもあります。ローレシア様の話は置いておいて、まずはレスフィーア様のお話をされた方がよろしいのではないでしょうか」


 すると伯爵の意図を察したローレシアは、


「祝いの席にふさわしくない話題かもしれませんが、今フィメール王国が直面している危機についてご相談させてください」


 危機という言葉に反応した国王は、


「危機とは何だ、詳しく教えてくれ」


「はい、実は・・・」


 レスフィーア姫がどこで誰からエール病に感染したのか早急に原因究明をしなければ、このままエール病がくすぶり続けて、一時期のソーサルーラみたいになってしまう。


 その可能性を国王にしたところ、国王の顔が徐々に為政者のものに戻っていき、


「もしローレシアさえよければ、是非とも調査をお願いしたい。そのためならできる限りの便宜を図ろう」


「そうしていただけると助かります。まずは明日レスフィーア王女から事情聴取を行いますがよろしいか」


「ローレシアの好きにしてくれて構わない。レスフィーアはどうも自由に育てすぎて、我々も行動を把握しきれていないところがあったのだ。アルフレッド、そなたもローレシアを手伝ってやってくれ」


「言われなくてもそのつもりです、父上」


「ではどうかよろしく頼む」




 こうして俺達は、フィメール王国でのエール病調査を正式に携わることになった。


 だが、これがこの国の運命を左右する事態に発展していくことを、この時この場にいる誰もが想像すらしていなかった。

次回、エール病の調査を開始した矢先に・・・


ご期待ください

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