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第64話 神界の輝き

 応接室にウォーレン伯爵に続いて現れたのは、ここフィメール王国の国王とその妻らしき女性だった。


「父上、母上・・・」


 このふたりがアルフレッド王子の両親なのか。だがローレシアは国王を前にして完全に硬直して動けなくなっている。一体どうしたんだローレシアは。


「久しいなローレシア。・・・いや今はアスター侯爵か。此度は我が求めに応じ、よくぞフィメール王国に参られた。まずは礼をいいたい」


 国王がローレシアに話しかけているが、ローレシアは硬直したままだ。何の返答もないローレシアにさすがの国王も不審げな顔をする。


 それに気づいたアルフレッド王子が、


「父上! 急に来られるとはさすがにいかがなものかと。フィメール国王への謁見はローレシアも心の準備が必要であり、彼女が戸惑うのも無理ありません」


「左様であったか。ローレシア・・・・いやアスター侯爵とは長い付き合いなので、そのような間柄でもないと考えておったが、いささか気安すぎたか」


 すると隣にいた王子の母上も、


「そうですよ国王。アルフレッドも言っているようにローレシアは今は他国の貴族であり、あなたは訪問先の国王。面会にはそれなりに緊張するものですよ」


「そうだな・・・失礼したアスター侯爵」


 王子とその母上のとりなしで一旦この場は落ち着いたが、ローレシアは未だ凍り付いたままだ。



(おい、ローレシア。一体どうしたんだよ)


(・・・ナツ・・・わたくし)


(ローレシア、一度俺と交代しろ。その間に心を落ち着かせるんだ)


(・・・うん)



 【チェンジ】



「大変失礼いたしました。今、王子からもございましたように国王への謁見に対する心の準備ができておりませんでしたので、一瞬言葉を失ってしまいました。改めまして、魔法王国ソーサルーラの大聖女を務めております、ローレシア・アスターでございます」


「うむ。我がフィメール王国へよくぞ参られた。そして我が娘レスフィーアの治療要請にご快諾いただき、大変感謝する」


「では早速レスフィーア姫の治療を行いたいのですがどちらへ行けばよろしいのですか」


「姫はこことは別の建物で療養しておる。エール病は人にうつると聞いておるので、治療は王宮の治癒師たちに任せておるのだ」


「承知しました。案内をつけていただければ、今からそちらに出向き治療いたします」


「いや、私が直接案内しよう。みなもついてまいれ」





 国王に連れられて、俺たちはレスフィーア姫が療養している建物に入った。そこでは治癒師たちが焚いたお香の煙が充満しており、何人かのメイドたちが姫の看病をしていた。


 俺はマスクをした上に、再び頭からベールをかぶり直したが、それでもお香の匂いが強すぎて鼻が曲がりそうだった。


「国王、エール病の治療にこのお香は邪魔です。申し訳ございませんが、窓を全て開けていただけますか」


 俺が国王にそうお願いすると、王宮の治癒師たちが猛反発してきた。


「なんだそのおかしな格好の修道女は。さては貴様、我々王宮治癒師を愚弄するつもりだな。国王この失礼な修道女は一体何者なのですか」


「この者は姫の治療をしてもらうために、この私がここへ呼んだのだ。この者の言う通りにして、窓を全て開け放て」


「国王! それでは姫様のお命が」


「構わん! 私の言う通りにしろ」


「・・・はっ。それではお香を撤去して窓も全て開けます。ですが姫様がどうなっても我々はもう知りませんよ」




 治癒師たちは不服そうにしながらも別荘の窓という窓を開け放って行った。建物内の空気が入れ替わって高原のさわやかな草の香りがしてきた。ひとまずこれで良いだろう。


 空気が入れ替わったところで改めて、俺たちはレスフィーア姫の寝室へと案内された。


 広い部屋に立派な天蓋付きのベッドがあり、その脇ではメイドが一人付き添って、ベッドに横たわる王女を甲斐甲斐しくお世話していた。そのメイドに場所を代わってもらうと、王女の状態をじっくり観察した。


 高熱にうなされて、ほとんど意識を失っているであろうレスフィーア姫。王女の素肌を見るとやはり皮膚が斑点状に黒ずんでいて、独特の症状が現れていた。エール病で間違いない。しかもかなり病状が進行しており完全に重篤化していた。


 これってかなりギリギリのタイミングだと思うが、治療が間に合うかどうか・・・。



(ローレシア、そろそろ気持ちは落ち着いてきたか)


(ありがとうナツ・・・あなたが国王に対応してくれたおかげで、少し冷静になれたと思います)


(それはよかった。それでレスフィーア姫の容態がとても深刻だ。今からすぐに治療しなければ間に合わないかもしれないが、魔法の準備は大丈夫か?)


(それなら大丈夫。ウィザーは任せてくださいませ)


(よし、じゃー行くぞ!)




「国王、そして皆様。レスフィーア姫は極めて危険な状態でございます。今からすぐに治療を行いますが、ここまで症状が進行してしまうと絶対に助かるという確証はございません。それでもよければ治療を開始いたします」


 俺が国王の顔を見ると、国王は黙ってうなずいた。


 長い呪文だが、すっかりお馴染みになってしまったウィザーを詠唱していく。ベッドの天蓋の中に小さな魔法陣が姿を現すと虹色の魔力が徐々に満ちて行く。


 準備が整った。



 【聖属性魔法・ウィザー】



 その瞬間、魔法陣が神々しい光で輝き出したかと思うと、まるで荘厳な楽曲の演奏とともに神が降臨してくるかのような黄金の光が、レスフィーア姫の全身を優しく照らし出していた。


 その光景を目の当たりにした国王と奥方、ウォーレン伯爵、メイド、治癒師などそこにいる全ての者は、あまりの神々しさに思わず床に両膝を付き、両手を胸元で固く握り締めて、神の降臨を祝福した。


 ・・・まあ、初めてこの魔法を見ると、大体そんな反応になるよな。


 そんな神界の輝きもやがて消えて失せると、俺はすぐさま、王女にまだ息があることを確認した。


 さあ、ここからが治療の本番だ。



 【光属性魔法・キュア】



 今度は白い癒しのオーラが王女の身体全体を包み込む。病気の進行が進んで身体の組織がおそらくボロボロになっているのだろう。肌の黒ずんだ斑点がなかなか消えない。だが焦って大量の魔力を浴びせかけると、逆に組織の再生に無理が出てしまう。俺は慎重に時間をかけてキュアをかけ続けた。


 忍耐強く魔法をかけ続けていたら、やがて徐々に肌の黒ずんだ斑点が消失していき、本来の白い素肌が蘇ってきた。今度はキュアを維持しつつ、頃合いをみてヒールを重ねがけていく。



 【光属性魔法・ヒール】



 キュアに重なる形で、今度はヒールの白いオーラが王女の身体を包み込む。細胞がそこそこ回復した段階で、次は細胞から失われたバイタルを補給するのだ。生命の維持に必要なエネルギー源を体内合成することで、細胞の活動を無理なく活性化させていく。


 このあたりの魔法の使い方はあの遠足での全力疾走からヒントを得ており、もはや名人芸の域ではないかと自負している。


 まあこうやって考えると、ヒールって点滴に相当するような気がしてきたな。


 ウィザーによる治療はかなり短い時間で終わるが、キュアとヒールは救護キャンプでもそうだったが、わりと時間がかかる。俺は魔法をかけ続けた状態で、メイドたちに指示を出す。


「王女は胃腸が弱っているので、おかゆなど消化のいい食べ物や発酵食品を少しずつ食べさせてください。また身体を常に清潔に保つため、今から着替えとお風呂の準備をお願いします。それから念のためにこの別荘にネズミがいたら徹底的に駆除してください。これをこの別荘にいるすべてのメイドに、今すぐご指示くださいませ」


「はいっ! ただちに」




 メイドが走り去っていくのを見て、我に返った国王たちがざわめき始めた。


「姫の身体が元通りに戻ってしまった・・・奇跡だ。まさか本当にエール病が治ってしまうなんて」


「あなた、これが魔法王国の大聖女の力なのね。あの神が降臨されるかのような神界の輝き、とても人間がなし得るものとは思えません」


「ああ・・・実際にこの目で見ると、これがとんでもない魔法だということは理解できる」


 王国治癒師たちも全く信じられないという様子で、国王に尋ねた。


「国王。するとこの方がエール病を制圧したという、魔法王国ソーサルーラの大聖女ローレシア・アスター侯爵なのですか?」


「ああ、姫の治療のために秘密裏にお呼びしたのだ」


「でも彼女って、以前エリオット王子の婚約者だったローレシア様なのですよね・・・まるで別人の魔力、全く信じられません」


「だが我々が目の当たりにした、これが現実だ」





 国王たちが急に騒ぎ出したからか、レスフィーア姫が目を覚ました。


「あ、あれ・・・急に身体が楽になった気がするのですが・・・これはいよいよわたくしも天に召されたのでしょうか」


 どうやら治療は無事に成功したようだ。


「いいえ、レスフィーア姫。別に天に召されるわけではございません。姫の病気は完治したのです」


「・・・え? わたくし病気が治ったのですか・・・あの病から」


「そうですよ。でももう少し遅ければ治療が間に合わずに、本当に天に召されておりましたわ。ギリギリのタイミングでしたがとても運がよかったと存じます」


 それを聞いた国王たちはレスフィーア姫に抱き付いて喜んだ。アルフレッド王子も頭のベールを取って、姫に駆け寄って行った。


「レスフィーア、本当に良かった!」


「お父様そんなに強く抱きしめられると苦しいです。お母様、お父様から助けてくださいませ。それにお兄様までお見舞いに来てくださったのですね。いつ国に戻られたのですか」


「ついさっきだよ。・・・治療が間に合って本当に良かったな、レスフィーア」




 そして一通り喜び合うと、国王がこちらを振り返り俺に握手を求めてきた。


「ありがとうローレシア! そなたのおかげで姫の命が救われた。何と礼を言えばいいのかわからん」


「え、ローレシアですって? わたくしを治療してくれたその修道女は、ローレシア様なのですか?」


 そういえばレスフィーア姫はローレシアの幼馴染だったな。


(ローレシア、そろそろ身体の操作を代われそうか? あの姫はキミの幼馴染なんだろ。俺だと話がかみ合わなくなるから、できれば代わってほしい)


(・・・そうね。もう大丈夫だから代わりましょう)



 【チェンジ】



 身体の操作を代わったローレシアは、頭のベールとマスクを取るとレスフィーア姫と対面した。


「お久しぶりですね、レスフィーア姫」

次回、今回のエール病騒動に疑念が生じる


ご期待ください

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