第61話 ランドルフ王子の来訪
結果発表も終わり、生徒たちは講堂から各クラスに戻っていった。俺も教室に戻った後、クラスメイト達に囲まれて称賛を受けていた。
「ローレシア様、闇のティアラがとても素敵ですね。まるで王女様みたいです~」
「ローレシアちゃんとアルフレッドのおかげで、俺たち罰ゲームを逃れられて助かったよ」
そうなのだ。闇属性クラスは全体の2位につけて、恐ろしい罰ゲームを逃れられることができたのだ。
ただしこの結果は、闇属性クラス全員がワームホールを使えたためであり、山頂のショートカットコースを選んだ生徒はみんな崖をワープしたので、そこでの負傷ペナルティー数がゼロだった。
だからこの2位という成績は決して俺と王子だけのおかげではないと思う。
ちなみにビリは光属性クラスだ。光魔法は確かに戦闘向きではないが、俺がこの成績になれたのは完全に光魔法のおかげだ。
光クラスのみんなは一体何をやってたのだろうか。
遠足も一段落して後は帰るだけだと思っていたが、アンリエットたちとともにアカデミーを出ようとしたところ、門の前で俺たちを待つ人影があった。
カミール・メロアだ。
「わたくしに何か御用でしょうか」
「ローレシア・アスター、お前と二人だけで話がしたい。他の者たちは少し遠慮してくれないか」
「お嬢様、二人だけで話をするのは危険です」
「そうだ、せめて僕がついていこう」
当然アンリエットと王子が止めに入るが、
「構いません。話をお聞きするだけなので、皆さまはここで待っていてください」
「承知致しましたが、何かあればすぐ大声を出してお知らせください」
「わかりました」
俺はカミールと話をするために、彼についてアカデミーの校舎の中へと戻った。そしてカミールは周りに人影がないのを確認すると、
「ローレシア、その闇のティアラを俺に寄越せ」
「・・・話があるとおっしゃるので来てみたら、いきなり何を言うのですか、あなたは」
「貴様にそのアイテムは必要ないだろう。だが俺には必要なんだ。いいから早く寄越せ」
「理由もなく、あなたに差し上げるものなどございません。用件がそれだけなら、わたくしこれで失礼させていただきます」
俺がその場を立ち去ろうとすると、カミールが俺の肩をつかんだ。
「おい、待てよ!」
「何をするのですか!」
「理由を言えばいいんだな。貴様はあの6人を倒した上に魔獣討伐数も桁違い。だからお前にそのアイテムは不要だ。わかったら、さっさとそれを寄越せ」
俺は肩を掴んでいたカミールの手首を握りしめて、少し力を込めた。
「痛てててっ! な、何だこの馬鹿力は!」
「お断りいたします。そんな理由であなたに差し上げるわけがないでしょう。あなたは遠足で1位になるために手段を選ばないと聞きましたが、あの6人をけしかけてライバルを妨害させたのはあなたですね。どうしてそこまでして賞品にこだわるのですか」
「あの6人と俺は関係ない。証拠もなく変な言いがかりをつけやがって。貴様は貴族の名誉を侮辱した!」
「いきなり女性の肩を掴んでティアラを奪おうとする盗賊に、名誉などございましたかしら」
「この高貴な生まれの俺様が盗賊だと、ふざけるな! 貴様こそたかが病気を治したぐらいで聖女に祭り上げられている、ただの逃亡者風情のくせに。調子に乗るな」
「どうやら話の通じない方のようですね。あなたとは話をする価値すら感じません。これで失礼致します」
「それはこちらも同じだ。とにかくそれを寄越せ」
カミールが再び俺に手を伸ばそうとしたその時、それに割って入るようにジャンが現れた。
「ローレシア、こんな奴の相手をする必要はない」
「ジャン、あなたどうしてここに?」
「カミールに用があって探していたら、キミの従者たちから二人でこの辺りにいると教えてもらったんだ。カミール、ローレシアに手を出すのはよせ!」
「ジャン、貴様・・・たかが平民風情が口を挟むな」
「俺はお前に用があるんだ。あの6人に何をしたのか事情聴取させてもらう。騎士団まで来い」
「事情聴取だと・・・それがメロア家の人間に対する態度なのか!」
「メロア家? そんなもの俺は知らん。とにかく騎士団長のランドルフ王子がお呼びだ。とっとと来い」
「チッ・・・」
ジャンに連れて行かれるカミールが、振り向きざまに俺に向けて叫ぶ。
「ローレシア! 貴様、そのティアラを渡さなかったことを後悔しても知らないからな。覚悟しておけ」
そしてカミールは捨て台詞を残して、そのままジャンに連れて行かれた。
「ということがございましたので、みなさまカミール・メロアにはお気をつけくださいませ」
「な、な、何だその頭のイカれた野郎はっ! ・・・コホン、失礼いたしました。もしカミール・メロアが今後お嬢様に近づこうものなら、この魔剣シルバーブレイドの錆びにしてくれます」
「アンリエットは本当に斬りそうで怖いですけれど、彼には今後一切関わらない方がいいです・・・どうかしたのですか、アルフレッド?」
「いや何でもない。カミール・メロアには関わらない方がいいのはその通りだが・・・いや、まさかな」
王子はどこか浮かない顔だった。
「ところでお嬢様。今日のご予定ですがこれからどうなさいますか」
「わたくしは完成したばかりの病院へ参ります。できればここにいる皆さまにも、ご一緒いただければと」
「もちろん喜んでお伴いたします」
俺たちは下町の外れに完成した病院へと足を運んだ。完成を急いだため、極めて簡素な作りの建物だったが、しっかりした構造で清潔感のあるものに仕上がっていた。
病院は既にオープンしていて、中では今日の当番の侍女たちが魔術具で怪我人の治療をしていた。手当ての仕方は修道女時代と同じなので、みんな手慣れたものである。
俺が病院に入ると侍女たちがそれに気付き、一斉に挨拶をしてきた。
「「「おかえりなさいませ、ローレシア様」」」
そしてエミリーとカトレアに引き継ぎをすると、彼女たちはアスター邸での仕事をするために帰っていった。
俺たちは更衣室でアカデミーの制服から修道服に着替える。ただしいつもの黒基調のものではなく、白基調の修道服だ。ここは病院なので医師やナースのような感じになるように、あたらしく仕立てたものだ。
みんなに着替えさせてもらって診察室で準備をしていると、最初の患者が入ってきた。しかし、
「あなたはただの風邪だと思います。一応キュアをかけて細胞は修復しておきますが、風邪はウイルス性が多いため、残念ながらわたくしの魔法では直ぐに治りません。でも安静にしていてちゃん食事をとればそのうち回復しますよ」
「何をおっしゃっているのかさっぱり意味がわかりませんが、ありがとうございました大聖女さま」
こんな風にウィザーで治せる病気は細菌性のものに限られるため、折角来てもらっても残念な結果になることが多かった。
病院も少しずつ軌道にのり、街の住人や王家からの紹介で訪れた患者に対応しながら、やがて季節は秋も深まり出した。
遠足の罰ゲームは光属性クラスだったこともあり、彼らは最近ずっと、うちの病院や他の治癒所で治癒魔法をかけるボランティアをさせられていた。
でもこんなのが罰ゲームなら、俺だったら何の罰にもなってないし、なんなら俺の人生が罰ゲームということになる。納得いかねー。
まあ闇クラスの罰ゲームだったら、もっと違うことをさせられていただろうし、きっとビリにならなくて良かったのだろう。
それからカミール・メロアだが、騎士団の取り調べにより遠足での不正が立証され、結果として俺が1位に繰り上がった。金剛の指輪も取り上げられて俺の手元に届いたが、前にもらった指輪とダブるため、それはエミリーにあげた。
あの6人も停学が明けアカデミーに戻ってきたが、学園での評判はすっかり地に落ちてしまった。詳しくは聞いていないが、彼らの卒業後の話でも色々揉め事があったらしい。
結果として、カミールやその6人から俺つまりローレシアが逆恨みされている状態になってしまったが、俺の強さを身に染みて知っているし、アンリエットが常に殺気を放っているため、彼らは俺に近づくことすらできなかった。
そんな風に学園生活を過ごしていたある日のこと。
病院に突然、王国の騎士団が駆けつけてきた。ランドルフ王子が騎士達を率いてこの病院にやってきたのだ。今日の身体担当をしているローレシアが表に出て王子を出迎えた。
「ランドルフ王子、わざわざ病院までお越しいただき何か急ぎの用でしょうか」
「それなんだがローレシア、ちょっと相談したいことがあるんだ。アルフレッド王子も交えて少し時間をくれないか」
「承知いたしました。至急アスター邸からアルフレッド王子を呼びます」
「ああ、そうしてくれ」
ランドルフ王子を病院の一室に招き入れ、ローレシアはアルフレッド王子とアンリエットを連れて、ランドルフ王子の用件を聞いた。
「この話は、我が国が外交ルートを通じて正式に依頼を受けたものだが、今日はローレシアの判断を聞くために急ぎここに来たのだ」
「わたくしの判断・・・ですか?」
「そうだ。これまでに何度かお願いしていた海外要人の治療に関する件だが、今回は少し問題があるのだ」
「・・・王子、何か言いにくそうな雰囲気ですが、まずはどこから依頼があったのかお聞きしても」
「フィメール王国だ」
次回、新展開です
ご期待ください




