第60話 結果発表
3日目以降は、遠足をクリアーする生徒が徐々に出てくるため、そういった生徒は学校で自習するか遠足をフリープレイするかを選択する。
俺はもちろん遠足のフリープレイを選択した。俺はこの遠足を気に入っていたし、この楽しさをローレシアにも満喫してもらいたくて、身体の操作を彼女に譲ったほどだ。
ローレシアは嫌がっていたけど。
そして一週間が経過して遠足が終了し、講堂に集められた俺たちに、先生から結果発表が行われた。
■ 最終順位
①カミール・メロア(風)
②ローレシア・アスター(闇)
③ジャン(土)
④アルフレッド(闇)
⑤アリス・ヒューバード(火)
講堂中にどよめきと感嘆が渦巻く中、俺の周りでは喜びの声が沸き立った。
「ローレシアお嬢様が2位です! やりましたね、お嬢様」
「ありがとうアンリエット。アンリエットもあんな襲撃を受けたのに7位は素晴らしいと思います。それにアルフレッド、4位入賞おめでとうございます」
「ありがとうローレシア。それにしてもローレシアの2位はすごいな」
「わたくしの場合、1日目にかなり早めに遠足を切り上げたのでラップタイムが短かったことと、2日目は例の事件の事情聴取に時間を取られて、その分時間をカットしてもらえたので、実際のゴール時刻から差し引く時間が多かったのです」
「そう考えれば、あの男子生徒の襲撃さえなければ、お嬢様が1位だったのに悔しいです」
「本当ですよね。あれさえなければ、アンリエットももっと上位に行けはずなのに」
「ロナルド・ウェインはリタイア、アリス・ヒューバートも5位に後退と、上位勢のレース展開が大きく狂わされたのは確かですね」
「そうするとやはり、わたくしたちの邪魔をすることで利益を得る人間が首謀者ということでは」
「事情聴取の結果、あの6人が失格になっただけで、首謀者等の存在は明らかにならなかったようですね。ただ結果だけ見るとやはりカミール・メロアが怪しいということになりませんか。お嬢様を押さえて1位になったのですから」
「そうですね。・・・そういえば1位になると何か特別な賞品がいただけるのでしたね。なんでしょう?」
「発表されてませんが、表彰式で分かると思います」
生徒たちの注目は、やはりカミール・メロアが手に入れる賞品に集まっていた。そして舞台に現れたアカデミー長に名前を呼ばれて、舞台へ向かって歩き出すカミール・メロア。
「カミール・メロアって彼だったんですね。たまに学生食堂で見かけることがございます」
「ええ、たしか西の大国の高位貴族の子弟だそうで、いつも取巻きに囲まれて偉そうにしているので、目立ってましたからね」
「彼も高位貴族ですか。・・・きっと彼もお花摘みは取巻きにしてもらっているのでしょうね(ボソッ)」
「ナツ・・・殿方の場合はお花摘みとは言わないし、全部ご自分でなされると聞いているぞ(ボソッ)」
「えっ! そ、そうなのですか? 殿方は全部ご自分でなさるのですか・・・(ボソッ)」
なんだよ。
この高位貴族特有の羞恥プレイは女子限定かよ!
「ナツ、女の子が学校でそのような話をするのは、はしたないぞ(ボソッ)」
「し、失礼いたしました。殿方のお花摘に少し興味がございましたので(ボソッ)」
「ナツも殿方に興味があるのか・・・興味の対象がお花摘というのがちょっとアレだが(ボソッ)」
「へっ、変な意味ではございません。素朴な疑問です(ボソッ)」
「そうか・・・・ナツはアルフレッドと仲がいいが、やはりあんなタイプの殿方が好みなのか(ボソッ)」
「あんなタイプの殿方って・・・おっ王子とはそんな関係ではございません。わたくしむしろアンリエットの方が(ボソッ)」
「えっ! ナツが、わ、私を?」
「あわわ・・・あ、アンリエット声が大きいですよ。表彰が始まるので静かにしましょう(ボソッ)」
「し、失礼いたしました・・・(ボソッ)」
いよいよ表彰が始まった。
「アカデミー恒例の秋の遠足で栄えある1位に輝いたカミール・メロアに対し、賞品としてこの『金剛石の指輪』を進呈する。これは最高級の魔導結晶を組み込んだ指輪で、魔力の蓄積と増幅の両方が可能なレアアイテムである」
アカデミー長の表彰に、講堂の生徒はみな感嘆の声を上げた。舞台に立つカミール・メロアもとても誇らしげにしている。
(金剛石の指輪か・・・・。くっそーっ、あと少しであの指輪が俺たちのものになっていたのにな)
(・・・わたくしたちは別に魔力に困っておりませんし、あんなアイテムなど必要ございません)
(ローレシア・・・そんなこと言いながら、お前からメチャクチャ悔しそうな感情が伝わってくるのだが)
(もうっ、勝手に人の心を読まないでくださいませ! ・・・でも2位は何がいただけるのでしょうね)
(何だろうな。レアアイテムだったらいいな!)
「それから、2位~5位までの生徒には表彰状が出ているので、教室で担任の先生から受け取っておくように、以上だ」
(ガクッ! 2位なのに表彰状だけかよっ!)
(に、2位じゃダメなんですね・・・2位じゃ)
さて遠足の表彰式も終わって今日はこれで解散かと思われたが、舞台裏から先生が出てきてアカデミー長に何かを渡した。アカデミー長はそれに目を通すと、
「それではこれより特別賞の発表を行う」
その言葉に講堂の生徒たちはざわめき始めた。
「なんだよ特別賞って、そんなのあったっけ?」
「遠足のしおりにはそんなこと書いてなかったぞ」
まだ舞台に残っていたカミール・メロアも突然の発表に驚いているようだったが、アカデミー長から発表された内容に全生徒、衝撃が走った。
■ 魔獣討伐数(B級以上)ランキング
①ローレシア・アスター 164体
②アンリエット・ブライト 21体
③ジャン 8体
④アルフレッド 7体
⑤カトレア・ブルボン 6体
途端、構内は引っくり返るような大騒ぎになった。
「な、な、なんだこれは! 魔獣討伐数164体って一体何やってんのローレシア様は!」
「B級以上の魔獣って、メチャクチャ強いぞ。普通はどうやって逃げるかを考えるものなのに、まさか遭遇した魔獣を全部倒していったのか?」
「いや、ローレシア様の恐ろしい所は、あの討伐数なのに2位でゴールをしてるところだよ。B級魔獣なんか1頭倒すだけでも大変な労力と時間がかかるのに、どんだけ瞬殺しているかってことだ」
みんな大混乱しているが、俺も大混乱だ。
「あわわわ・・・あ、アンリエット・・・わたくし、何かおかしなことでもしたのでしょうか?」
「ナツ・・・まさかとは思うが、出てきた魔獣を一人で全部倒して回ったのか」
「え、ええ。ショートカットコースは基本一人で回りますので、結果的に一人で倒さざるを得ませんから」
「あのなあ、ナツ。この遠足は早くゴールしたものが勝つタイムトライアルなんだから、魔獣の討伐なんか必要最小限で終わらせて、逃げが基本だ」
「はっ、確かにそのとおりですわね・・・ひょっとしてアンリエットは軍略の天才か何かなのですか?」
「アホか! ナツがアホなだけだ! ・・・いやでも凄いな。よく164体も倒せたな」
「自分でも気が付かないうちに、いつのまにか・・」
アンリエットとコソコソ話をしていると、カトレアが話しかけてきた。
「あのー、お話し中のところ申し訳ございませんが、ローレシア様とアンリエット様。わたくし、B級魔獣なんか1体も倒してませんのに、なぜか5位にランクインしています」
「あれ、カトレアは6体倒したことになってますが、違うのですか?」
「はい。C級は倒しましたが、B級は怖くて全て逃げました」
「お嬢様、そう言えば私も少し数が多いようですが、お嬢様はいかがですか?」
「愚問です。164体か158体かの違いなんて、そんなの覚えているわけないじゃありませんか」
「確かに。お嬢様にお聞きするのは間違いでしたね」
「それでは、ローレシア、アンリエット、ジャン、アルフレッド、カトレアの5名は舞台へ」
5名全員が舞台に呼ばれたということは、全員に何か賞品がもらえるということか。俺たちは期待に胸を膨らませて舞台へと登って行った。
壇上に立ったアカデミー長が軽くほほ笑むと、俺たち一人一人に『金剛石の指輪』が手渡された。さすがにカミール・メロアがもらった指輪とは魔導結晶の質も大きさも異なるが、それでも魔力の蓄積や増幅は可能であり、破格のアイテムであることには変わりなかった。
そんな俺たちの様子を、カミール・メロアは不服そうに見ていた。
「それからローレシア・アスター。164体もの魔獣しかもB級以上をよくぞ倒した。その桁外れの討伐数を讃え『闇のティアラ』を進呈する。おめでとう」
「ありがとう存じます・・・。それでこのアイテムはどのようなものなのでしょうか」
「それは闇魔法の効果を増大させるレアアイテムだ。闇クラスのローレシアにはピッタリの賞品だろ」
「わたくし闇魔法が苦手でしたので、このティアラは大変重宝いたしますっ!」
俺が闇のティアラを頭につけると、講堂からは万雷の拍手が鳴り響いた。
ところが、カミールがアカデミー長に噛みついた。
「アカデミー長。遠足の賞品は1位にしか与えられないはずなのに、事前にアナウンスのなかった特別賞が作られて5人全員に賞品が贈られた上、1位にはさらに特別な賞品など・・・」
「事前に定めていなかったから特別賞なのだ。それにキミにはちゃんと素晴らしいアイテムを与えているのだから、別にいいではないか」
「事前に聞いていれば、その賞品も狙っていた。特に闇のティアラなんて破格のアイテムなど」
「事前に聞いていれば、キミは164体も魔獣を倒せたのかな」
「・・・・・」
カミールが黙ったところで、アカデミー長は全生徒に向き直り、また話を始めた。
「そうそう報告が遅れたが、今回の遠足中に実に残念な事件があった。将来を嘱望されていた6名の優秀な生徒たちが、こともあろうに同じアカデミーの生徒を襲撃して遠足を妨害したのだ。彼らは停学処分とし、次に問題を起こすと即退学となる」
それにカミールがまた噛みついた。
「不正が見つかれば遠足は失格というのは知っていましたが、停学になるとは事前にはアナウンスされていなかったと思います」
「カミール・メロア君。この処分に何か不服でもあるのかね」
「いえそのようなものはありませんが、アカデミーでルールの恣意的な運用がなされたのであれば抗議の声をあげようとしただけです」
「なら結構。これは遠足のルールではなく、基本的な生徒の心得違反だ。なおその6名は、遠足中にローレシア、アンリエット、カトレアの3名により討伐されたため、今回のB級以上の魔獣討伐数に6ずつ加えておいた」
その話に構内は大爆笑となり、カミール・メロアだけが静かにアカデミー長を睨み付けていた。
次回、カミール・メロアとの対峙
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