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第6話 城下町クールンへの逃避行

 街の中央の広場につくと乗合馬車が止まっていた。このあたりで最も大きな街・クールン行きの馬車だ。


 馬車に乗り込むと、中はすでに十数名程度の客が乗っていてちょうど満席になったが、俺たちが修道服を着ていたため一番奥のいい席を譲ってもらえた。


 みんな敬虔な信者らしい。何の宗教か知らんけど。


 だがアンリエットが耳元でささやく。


「お嬢様、この旅の間は決して頭のベールを外してはいけません。女の二人旅は危険ですし、この馬車に誰が乗っているかもわかりませんからね。私たちの顔は決して他人に見られないように気を付けましょう」


「わかりました、気を付けます」


 アンリエットはコクりとうなずくと、自分の手荷物から剣を取り出して、いつでも抜けるように手元に置いた。日本と同じような感覚でいてはいけないようだ。俺も気を引き締めよう。




 馬車が街を出てしばらく走ると、街道沿いの空き地に待機している隊商の一団に合流した。どうやらこの馬車は隊商と一緒に旅をするらしい。


 その空き地でしばらく待機していると、他の同じような乗合馬車が何台も合流し、さらに荒くれ者の集団を乗せた馬車も合流してきた。


「お嬢様、この隊商の護衛をする冒険者たちが到着したました。間もなく馬車が出発しますよ」


 あの荒くれ者たちは冒険者だったのか。さしずめ盗賊から馬車を護衛するクエストを受注したのだろう。





 馬車はとても乗り心地が悪く、路面の凸凹がそのまま座席に伝わるため、長時間乗っていると腰が痛くなるし気分も悪くなる。だから馬の休憩も兼ねて、馬車の旅では一日のうちに何度も休憩が入る。


 馬車の旅はバスや電車と違い快適さからは程遠く、そして思ったほど早く進まない。それでもこの世界の人たちにとっては、徒歩で移動するよりははるかに優れた移動手段なのだろう。


 夜は野営地を設置して、乗客の一部はテントへと移動する。俺とアンリエットは少し広くなった馬車の中で横になり、そのままこの中で眠った。寝ている間も決してベールは脱がず顔を隠し続けた。


 ベールは重いし息苦しかったが、まだ早春で寒かったため、この分厚い修道服と合わせてちょうどいい防寒対策になった。もしこれが夏だったら暑くてとても眠れなかっただろう。


 こうして警戒しながら俺とアンリエットは馬車の旅を続け、出発から5日目にようやくクールンの街へと到着した。





 クールンは堅固な城壁に囲まれた街で、城門では乗客一人一人の身分証を確認された。そして許可が出た馬車から城門をくぐっていく。


 俺たちの身分証は修道院が発行したもので、それぞれローラとアンとだけ記載されている。貴族家の家名はなく一平民の修道女としてのものだった。


 俺たちの身分証も特に問題がなかったようで、門番に許可された馬車はそのまま城門をくぐると、場内の広場へと到着し乗客は全員そこで降ろされた。


「大きな街ですね」


「はい、ここはこのあたりを治める領主が住む城下町ですので。ここまでくれば、暗殺者からもひとまずは逃げ切れたかと思います」


「それはよかった。それでわたくしたちは、これからどこに行くのですか」


「まずは拠点となる宿屋を決めて、それから冒険者ギルドに向かいます」


「冒険者ギルドっ!」


 キターーーッ! ついに冒険者生活の始まりだ。


 回復職というのが俺の趣味とは違ってて残念だが、それでも俄然やる気が出てきた。がんばるぞー。




(あなたはそんなに冒険者になりたいのですか?)


(当たり前じゃないか! 冒険者になるのをどれほど夢見たことか・・・くーっ、楽しみすぎるぜ)


(そ、そうですか・・・それはよかったですね)


(もっと喜べよ、ローレシア。冒険者なんだぞ)


(わたくしは王族に嫁ぐための教育しか受けていませんので、その冒険者というのがどういうものかよく存じ上げないのです)


(そうか。冒険者というのはいろいろなジョブのメンバーでパーティーを組んで、ダンジョンに入ってモンスターと戦ったり、アイテムを手に入れて強くなっていくんだ。クエスト賞金で大金持ちになったりもするぞ)


(・・・それのどこが楽しいのでしょうか)


(それは、強い魔物を協力して倒したり、レベルアップしてどんどん強くなっていくところとか?)


(わたくしの魔力は大したことがございませんので、あまり期待しすぎない方がよろしいかと)


(・・・そ、そうだったな。まあ、魔力が少なくても他に何かいいジョブがあるかもしれないし、やる前からあきらめることはないさ)


(そうですね。わたくしにもきっと何か向いている職業がありますわよね)


 俺は期待を胸に、アンリエットについて城下町クールンの繁華街へと向かった。





 アンリエットが連れて来てくれたのは、街の繁華街にある比較的大きな宿屋だった。1階が飲み屋になっていて2階と3階に宿泊用の小部屋がいくつも並んでいる。早速中に入り受付の少女に声をかけた。


「女2名だが、部屋は空いているか」


 アンリエットがそう訊ねると受付の少女はにっこりと笑って、


「女性でしたら3階にいい部屋がございます。お二人で一泊50ギルになりますがいかがですか?」


「少し高いな。食事付きで40ギルなら考えてやってもいい」


「・・・食事付きですと42ギルが限界です」


「わかった。それで世話になろう」


「ありがとうございます。それではお部屋にご案内しますので、こちらへどうぞ」




 アンリエットが頼もしすぎる!


 女騎士らしい口調で受付の少女と宿代を交渉すると、なんと値切ってしまったのだ。


 そんな俺の感心をよそに、受付の少女は俺たちを3階の一番奥の部屋へと案内した。


 部屋に入ると正面には大きな窓があり、そこからは繁華街の様子がよく見えた。部屋の真ん中にはベッドが2つあり、それ以外には小さなテーブルと椅子が二つ、備え付けのタンス、それから浴室だろうか人一人が入れるような大きなたらいが置いてある小部屋がついていた。





「それではごゆっくり。何かありましたら受付にお申し出下さいね」


 案内を終えた少女が去っていくと、俺とアンリエットは部屋に荷物を下ろして、それぞれのベッドに腰かけた。


「やっとここまでたどり着けましたね。ご苦労様でしたアンリエット」


 5日間の馬車の旅で正直かなり疲れた。おそらくローレシアのこの身体にはもともと体力がないのだろう。一度ベッドに座ってしまうと、もう立ち上がる元気もないし、今日はこのままベッドで眠りたい。


 俺がウトウトし始めたのに気が付いたアンリエットが気を利かせて、


「お嬢様はお疲れのようですし、今日はこのまま宿で身体を休めて、冒険者ギルドには明日行くことにしましょう」


「ありがとうアンリエット。冒険者になるのは明日にいたしましょう」


「それではお休みの前に、5日間の長旅で汚れたお嬢様のお身体をきれいにして、お着替えをなさいませんと。さっそくお風呂の準備をさせますので、お嬢様はまだ眠らずにご辛抱くださいませ」


 そういうとアンリエットは宿の受付の方に出て行ってしまった。





(いやぁぁぁっ! お風呂なんて絶対に入りたくありませんっ!)


 突然、ローレシアの絶叫が頭の中にこだました。

次回は初めての入浴です


あまり期待されるとガッカリするかもしれませんので、ぜひほどほどにご期待ください

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